• 2025年10月20日

結核性視交叉性くも膜炎:抗結核薬に対する逆説的反応(paradoxical response)です

29歳男性。1週間前から頭痛と目のかすみを訴え救急外来受診。

6週間前に胃腸結核の診断を受け、抗結核薬を開始していた。

来院時身体所見とすると、後部硬直を認め、眼科的評価では左眼の視力は0.1、右眼は光の知覚のみだった。眼底検査では乳頭浮腫、右側の相対的な求心性瞳孔欠損(右眼の視神経障害の場合、ペンライトを右眼から左へ動かすと左の縮瞳が起こる。そこから右眼にライトを戻すと、ライトの明るさを右眼は感知できないので、ライトを照らしているにも関わらず瞳孔が開いていく現象)を認めた。

頭部MRI施行。視交叉、視神経管、中脳周囲および鞍上槽付近に複数のリング状の増強病変は明らかになった。

脳髄液検査により、リンパ球を多数認め、結核PCRは陽性だった。

「結核性視交叉性くも膜炎」と診断された。

結核性視交叉くも膜炎は結核性髄膜炎の合併症であり、浸出液が視神経のくも膜と視交叉に炎症を引き起こし、視力喪失を引き起こす可能性のある病態である。

この患者の場合、この症状の発症は抗結核薬に対する逆説的反応(paradoxical response)であると考えられた。

(結核治療における逆説的反応:結核治療開始後、喀痰中の結核菌が減少しているにも関わらず肺野で新規陰影の出現や胸水の出現や縦郭リンパ節の増悪がみられる現象。治療開始3ヵ月以内が多い。死滅した大量の結核菌の菌体に対する局所アレルギーの可能性高いと考えられている。「初期悪化」や「逆説的反応」や「免疫再構築症候群」は同一病態と考えられている)。

治療としてデキサメタゾンによる治療が開始され、抗結核療法は継続された。3か月後のフォローアップでは結核治療がうまくいっていることと視力回復傾向が確認された。

N Engl J Med 2023; 388:641

DOI: 10.1056/NEJMicm2205437

柏五味歯科内科クリニック

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