- 2026年3月21日
- 2026年11月2日
長期ステロイド使用者に対する周術期ステロイドカバー戦略
ステロイドを長く使用している患者さんが手術を受ける際には、普段の薬をどう続けるか、追加のステロイド補充が必要かを事前に確認します。長期使用によって体内でコルチゾールを作る働きが抑えられていると、手術や感染症などの負荷に対応できず、副腎不全が問題になることがあるためです。[1,2]
一方、必要以上の投与は高血糖などの不利益につながります。重要なのは「全員に大量投与する」「少量内服なら補充しない」と一律に決めず、副腎不全の有無、使用歴、手術・麻酔の内容、内服できるかを合わせて評価することです。補充量にはガイドラインと総説の提案で差があり、その対象と根拠を区別する必要があります。[1–3]
本記事は主に成人の周術期管理を扱い、具体的な用量は医療者向けの参考として示します。患者さんが自己判断で増量・休薬するためのものではありません。
1.ステロイドカバーとは? 通常量の継続と追加補充を区別する
「ステロイドカバー」は、手術などの身体的ストレス時に、必要な糖質コルチコイド作用を確保するための対応を指します。日常診療では、次の三つを分けると整理しやすくなります。
通常量の継続
原疾患の治療やホルモン補充として必要な、普段のステロイド投与を維持します。
投与経路の変更
絶食・嘔吐などで内服できない場合は、必要な量を静注などで確保します。
内服から静注への置き換えは、投与経路の変更です。それ自体が、ストレス時の追加補充を意味するわけではありません。
ストレス時の追加補充
副腎不全がある、または疑われる場合は、手術などの負荷に対応する量を確保します。手術侵襲や既存のステロイド投与量を踏まえて判断します。
内服を静注へ置き換えることと、ストレスに応じて追加することは同じではありません。静注用の計画が通常量相当を含むのか、別に上乗せするのかも明記し、二重投与と投与不足の両方を避けます。[1,2]
薬そのものの副作用や減量については、プレドニン(PSL)の効果・副作用と減量の基本解説をご覧ください。

図説:通常量の継続、内服不能時の経路変更、ストレス時の追加補充は異なる対応である。静注の計画が通常量相当を含むかも確認し、二重投与と投与不足を避ける。出典:[1,2]。
2.なぜ長期使用で副腎不全が問題になるのでしょうか
通常は視床下部・下垂体・副腎を結ぶHPA系が働き、必要に応じて副腎からコルチゾールが分泌されます。体外から糖質コルチコイドを使用すると、この調節系が抑制されることがあります。中止後の回復にも個人差があります。[1]
手術による負荷が増しても十分なホルモン作用を確保できないと、循環不全などを伴う副腎クリーゼにつながる可能性があります。ただし、術後の低血圧は出血、感染症、心機能障害、麻酔の影響などでも起こるため、原因を副腎不全だけに決めつけてはいけません。[1–3]
原発性副腎不全と、薬剤性の副腎機能抑制は同一ではありません
原発性副腎不全では副腎そのものに障害があり、糖質コルチコイドに加えて鉱質コルチコイドの補充も必要になることがあります。一方、薬剤性の副腎機能抑制は主にHPA系の抑制によるもので、通常は鉱質コルチコイド補充を必要としません。[1,3]
ただし、「薬剤性なら副腎クリーゼにならない」「原発性以外はカバー不要」という意味ではありません。原因が何であっても、副腎不全が確定している場合はストレス時の対応が必要です。

図説:外因性糖質コルチコイドはHPA系を抑制し、ストレス時のコルチゾール反応に影響し得る。抑制と回復の程度は使用歴や個人によって異なる。模式図であり、実測値は示していない。出典:[1]。
3.誰に副腎機能抑制の可能性があるか
2024年の欧州内分泌学会・米国内分泌学会合同ガイドラインでは、経口ステロイドによるリスクを考える目安として、使用期間3~4週間以上と、生理的分泌相当を超える量、すなわちプレドニゾン/プレドニゾロン約4~6mg/日を超える量の両方を挙げています。[1]
これは副腎不全の確定診断や、安全・危険を分ける絶対的な境界ではありません。「15mg/日以上でなければ心配ない」「現在5mg未満なら追加評価は不要」とは判断できません。現在量だけでなく、減量前の用量と期間、最近の中止、反復投与を含めた使用歴を確認します。[1,2]
薬剤・用量・使用期間
使用しているステロイドの名前、現在の1日量、開始時期、これまでの最大量を確認します。最近の減量・中止歴も含め、現在量だけでなく過去の使用歴を把握します。
内服以外の投与経路
吸入薬、外用薬、関節内注射などの使用も確認します。複数製剤の併用や、高用量・長期使用がある場合は、それらを含めたステロイド曝露を評価します。
薬物相互作用
ステロイドの全身曝露を増加させる薬剤を併用していないか確認します。他院の処方薬も含め、お薬手帳などで照合します。
既往歴と臨床所見
副腎不全・副腎クリーゼの既往、クッシング徴候、副腎・下垂体疾患の有無を確認します。過去に副腎機能を評価している場合は、その結果と検査条件も共有します。
手術・麻酔と内服再開の見込み
全身麻酔・区域麻酔・局所麻酔のいずれを用いるか、手術侵襲、合併症の有無を確認します。絶食期間と、術後に内服・消化管吸収が可能となる見込みも踏まえて、投与経路と補充計画を検討します。[1,2]

図説:経口使用では、3~4週間以上と、生理的分泌相当を超える量がリスク評価の目安である。現在少量でも減量前の曝露や最近の中止を考慮し、非経口製剤も含めて評価する。用量だけでは副腎不全を確定・除外できない。出典:[1,2]。
4.術前の副腎機能検査は全員に必要ですか
全員に一律の検査を行うわけではありません。すでに副腎不全と診断されている方は、その前提で補充計画を立てます。原疾患のため生理的分泌相当を超える量を必要としている段階では、単に副腎機能を調べるために休薬することも適切ではありません。[1]
中止を目指す場合や、すでに中止していて回復の確認が必要な場合には、朝の血清コルチゾールなどを用いて評価します。採血時刻、直前の薬剤・休薬時間、検査法を考慮する必要があり、結果の数値だけで自己判断してはいけません。必要に応じて内分泌専門医と相談します。[1,2]
緊急手術や副腎クリーゼが疑われる状況では、検査結果を待って必要な補充を遅らせないことが重要です。[1,3]
5.周術期の用量は、なぜ資料によって違うのでしょうか
周術期ステロイド補充には、質の高い大規模比較試験が十分ではありません。副腎不全を確実に防ぐことを重視した推奨と、長期ステロイド使用者で過剰補充を減らすことを目指す提案では、想定する対象と補充量が異なります。[1–3]
したがって、「従来の大量投与は誤りで、現在は全員が低用量へ移行した」とは整理できません。以下では、2024年合同ガイドラインの例と、薬剤性副腎不全を対象とした総説著者の低用量補充案を分けて示します。
2024年合同ガイドラインに示された例
主に、副腎不全がある、または現在・最近のステロイド使用後に副腎機能の回復が確認されておらず、ストレス時の補充が必要な成人を想定した例です。全ステロイド使用者に自動的に同じ処方を適用するものではありません。[1]
局所麻酔下の小手術など
内服可能な場合は、経口でのストレス時補充を検討します。
毎日の糖質コルチコイド投与がない場合の例として、ヒドロコルチゾンを以下のように服用する方法が示されています。
- 処置1時間前:20mg
- その6時間後:10mg
- さらに6時間後:10mg
- 合計:40mg/日
通常のステロイド内服がある場合は、その投与量が必要なストレス量を満たしているかを確認し、調整します。[1]
全身麻酔または区域麻酔を要する手術
ガイドラインには、以下の投与例が示されています。
- 麻酔導入時:ヒドロコルチゾン100mgを単回静注
- 引き続き:ヒドロコルチゾン200mgを24時間かけて持続静注
- 持続静注が困難な場合:ヒドロコルチゾン50mgを6時間ごとに静注
導入時の単回量と、その後の24時間投与量を区別します。既存のステロイド投与量も確認し、担当チームで投与計画を決めます。[1]
術後に絶食・嘔吐などで内服できない場合
必要な静注補充を継続します。循環動態、回復状況、感染などの合併症を評価し、投与量と経路を調整します。[1]
術後経過が良好で、内服を再開できる場合
経口のストレス量を通常48時間程度用いた後、術前の通常量へ戻すことが示されています。合併症や回復遅延がある場合は、個別に調整します。
上記の100mgは導入時の単回量、200mgはその後の24時間投与量です。用量・経路・時間を省いて「100mgでカバー」などと記載しないことが大切です。もともと高用量を使用している場合は、既存量がストレス量を満たすことがあり、追加量と経路を個別に決めます。[1]
低用量補充を検討する総説の提案
Chen Cardenasらの総説は、薬剤性副腎不全を想定し、通常量を継続したうえで手術侵襲と内服可否に応じた補充を提案しています。例として、小侵襲では内服できない場合に導入時ヒドロコルチゾン25mg静注、中等度では導入時25~50mgと術後15~25mgを6時間ごと、大侵襲では導入時50mgと術後25mgを6時間ごとなどが示されています。[2]
これは総説著者による臨床的アプローチであり、2024年合同ガイドラインと同一のレジメンではありません。また、通常量継続の前提、内服不能時の代替、循環安定後の減量を含む提案です。導入時の単回量だけを抜き出して、1日総量や全患者の推奨量として使うことはできません。[2]
実際の投与計画は、対象患者と根拠を明確にしたうえで、処方医・麻酔科・手術担当科が施設の方針と合わせて決めます。二つの方式の用量を混ぜて独自のスケジュールを作らないことが重要です。

図説:副腎不全がある・疑われる場合の合同ガイドラインの補充例と、薬剤性副腎不全に対する総説著者の低用量アプローチには差がある。両者を混合したレジメンとして示さず、担当チームが対象と施設方針に応じて選択する。出典:[1,2]。
6.「通常量だけでよい」という研究をどう解釈するか
長期ステロイド使用者を対象とする小規模試験などでは、通常量を継続した群に大量の追加投与をしても、明らかな利益を認めなかった報告があります。局所麻酔下の歯肉手術を受ける移植患者20人を対象とした試験も、その一例です。[2]
ただし、患者数、手術内容、通常量、評価した期間が限られます。「追加投与の利益を証明できなかった」ことを、「副腎不全があるすべての患者で補充不要」と読み替えることはできません。維持量の中断や内服不能を放置してよいという意味でもありません。
一方、不必要な高用量を長く続けることも避けます。補充後は血糖、循環動態、感染、創傷の状態などを見ながら、必要性を再評価します。[2]
7.歯科治療・抜歯・局所麻酔ではどう考えるか
歯科では、通常診療から抜歯、広範な口腔外科手術まで負荷が異なります。局所麻酔か全身麻酔か、処置時間、感染の有無、処置後に飲食・内服できるかも判断に影響します。
副腎機能が保たれている方と、副腎不全が確定している方、薬剤性抑制が疑われる方を区別します。副腎不全がある・疑われる場合、局所麻酔の小手術でも経口のストレス量を検討するのが2024年合同ガイドラインの考え方です。「歯科なら必ず不要」「抜歯なら全員静注」とはなりません。[1]
患者さんには、お薬手帳とともに、薬の名前、1日量、服用期間、最近まで使用していた薬を歯科医師へ伝えていただきます。処置当日に自己判断で休薬せず、事前に処方医と歯科担当医の間で通常量・追加量・内服できない場合の対応を共有します。
8.術後は、いつ通常量へ戻すか
術後の補充期間は、手術負荷だけでなく循環動態、内服・吸収の回復、感染症や合併症で変わります。回復が良好なら追加分を終了し、通常の治療・補充量へ戻します。絶食、嘔吐、感染、再手術などがあれば、静注継続や追加補充を再検討します。[1–3]
ここでいう「通常量へ戻す」ことと、原疾患治療として長期内服していた薬そのものを中止することは別です。周術期の短い追加補充を終えるために、長期服用薬まで一緒に中止してはいけません。関節リウマチにおける長期投与と減量の根拠は、ステロイド治療の効果と長期リスクの研究解説にまとめています。
9.副腎クリーゼを疑うときの対応
現在または最近のステロイド使用歴がある方で、著しい低血圧、意識の変化、強い脱力、嘔吐・下痢などがある場合には、副腎クリーゼを鑑別に含めます。出血や敗血症などを並行して評価し、強く疑う場合は検査結果を待たず治療します。[1,3]
成人の緊急対応では、ヒドロコルチゾン100mg静注(静脈路が確保できない場合は筋注)と補液を開始し、その後200mg/24時間の持続静注、または50mgを6時間ごとに投与する方法が示されています。これは予防的な手術時補充とは別の、緊急治療です。[3]
患者さん・ご家族へ:強いふらつき、倒れる、意識がおかしい、嘔吐が続いて薬も水分も取れない場合は、予定の受診日を待たず速やかに医療機関へ連絡してください。意識障害やショックを疑う状態では救急要請が必要です。長期使用歴や副腎不全の診断があれば必ず伝えます。
10.術前に共有しておきたい情報
- 現在の薬剤名・1日量・投与経路、使用期間、最近の減量・中止歴
- 副腎不全や副腎クリーゼの既往、副腎機能評価の結果
- 手術・歯科処置と麻酔の内容、絶食期間の見込み
- 当日の通常量、追加補充、内服不能時の代替方法
- 術後の見直し時点と通常量への復帰条件、緊急時の連絡先
患者さんが別々の医療機関を受診している場合は、薬の情報だけでなく、投与計画を文書で共有すると確認しやすくなります。

図説:周術期は使用歴と副腎不全の可能性を確認し、麻酔・手術侵襲・内服可否に基づいて計画する。回復に応じ通常量へ戻す。副腎クリーゼが疑われる場合は予定の予防計画とは別に緊急対応する。出典:[1–3]。
まとめ
長期ステロイド使用者の周術期管理では、副腎不全の可能性と手術負荷を評価し、通常量の継続、内服不能時の代替、追加補充を分けて計画します。2024年合同ガイドラインと低用量補充を提案する総説には違いがあり、対象と根拠を明示することが重要です。投与不足による副腎クリーゼを防ぎながら、不必要な高用量の長期継続も避け、術後の回復に合わせて調整します。
手術・歯科処置を予定されている方へ
当院でステロイド治療を受けている方は、他院の手術や歯科処置が決まった時点でお知らせください。必要に応じて、処方内容や使用歴を手術担当医・麻酔科・歯科医師と共有します。入院手術時の補充計画は、担当する医療機関と連携して判断します。
あわせて読みたい関連記事
関節リウマチのプレドニン(PSL)|効果・副作用と減量の考え方
薬の名称、服用中に注意したい症状、減量時の基本事項を患者さん向けに整理しています。周術期の追加補充と、普段の治療薬の扱いを区別するための参考になります。
関節リウマチのステロイド(PSL)治療|臨床試験から読む効果と長期リスク
少量投与の利益と有害事象、感染症の観察研究、減量を検討した試験を解説しています。手術時の短い補充と、慢性的な投与継続の利益・リスクは別の問いであることを理解できます。
関節リウマチの薬物治療の進め方
抗リウマチ薬を基盤とする治療の全体像を説明しています。原疾患の管理と副腎機能への配慮を分けて、処方医と治療計画を相談する際の入口です。
一次文献・出典
- Beuschlein F, et al. European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and Therapy of Glucocorticoid-induced Adrenal Insufficiency. J Clin Endocrinol Metab. 2024;109:1657–1683. DOI: 10.1210/clinem/dgae250.PMID: 38724043.学会推奨一覧.周術期用量はTable 8参照。
- Chen Cardenas SM, et al. Perioperative Evaluation and Management of Patients on Glucocorticoids. J Endocr Soc. 2023;7:bvac185(オンライン公表2022年). DOI: 10.1210/jendso/bvac185.PMID: 36545644.全文.低用量補充案はTable 5参照。原著試験ではなく総説。
- Woodcock T, et al. Guidelines for the management of glucocorticoids during the peri-operative period for patients with adrenal insufficiency. Anaesthesia. 2020;75:654–663. DOI: 10.1111/anae.14963.副腎不全患者に関する周術期指針。

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら
【クリニック共同監修体制】
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)(日本歯内療法学会専門医)
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科の各専門医が連携し、最新の医学的エビデンスに基づいた正確な医療情報を分かりやすく解説・発信しています。
【医学生・研修医の皆さまへ】
リウマチ・膠原病診療や総合内科診療に関心のある医学生・若手医師の皆さまへ。成田赤十字病院では、初期臨床研修・専門研修(専攻医)・病院見学のご案内を行っています。
柏五味歯科内科リウマチクリニック
ホームページ