• 2026年10月13日

乳白色の尿(乳糜尿)と重度の蛋白尿・低アルブミン血症の原因は?NEJM2026:リンパ管・尿路瘻をリンパ管造影で同定し、経皮的塞栓術で改善した症例

尿が白く濁り、大量の蛋白尿とむくみが出現する病気「乳糜尿」。腎臓そのものの障害ではなく、リンパ管と尿路の異常なつながりが原因になることがあります。

尿が牛乳のように白く濁り、足が大きくむくむとき、どのような病気が考えられるでしょうか。

通常、尿に大量のタンパク質が漏れ出ている場合、腎臓のフィルターである「糸球体」の障害を疑います。

しかし、尿にタンパク質が大量に含まれていても、腎臓のフィルター自体が原因とは限りません。

全身を巡るリンパ管と、尿を運ぶ尿路の間に異常な通り道(瘻孔)が形成されると、脂質やタンパク質を含むリンパ液が尿に混ざり、乳白色の尿(乳糜尿:Chyluria)が出現することがあります。

この状態では、尿から栄養成分が大量に失われ、著明な低アルブミン血症や全身のむくみを引き起こす場合があります。

2026年6月、医学誌 The New England Journal of Medicine(NEJM) の「Images in Clinical Medicine」に、56歳女性の乳糜尿をきっかけに、リンパ管と右腎盂尿管移行部との異常交通が診断され、経皮的塞栓術によって改善した症例が報告されました。

本記事では、この症例を通して、乳糜尿の発生機序、ネフローゼ症候群との鑑別、リンパ管造影の診断的意義、そして低侵襲なインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)治療について解説します。


1.症例提示:乳白色尿と両下肢浮腫を認めた56歳女性

患者は56歳女性です。

3週間前から続く両下肢のむくみを主訴に救急外来を受診しました。

身体診察では、両下肢に著明な圧痕性浮腫(Pitting edema)を認めました。

また、採取された尿は通常の淡黄色ではなく、明らかな乳白色混濁を呈していました。

血液・尿検査所見

検査項目検査結果臨床的意義
血清アルブミン1.8 g/dL重度の低アルブミン血症
尿蛋白/Cr比(UPCR)34,958 mg/gCr約35.0 g/gCrに相当する著明な蛋白尿
尿中トリグリセリド1,456 mg/dL尿への脂質成分混入を強く示唆
尿中カイロミクロン多数検出乳糜尿を支持する重要な所見

この症例では、著明な蛋白尿と低アルブミン血症が同時に存在していました。

通常、このような検査所見ではネフローゼ症候群が鑑別に挙がります。

しかし、尿が乳白色であったことに加えて、尿中に大量のトリグリセリドとカイロミクロンが確認されたことから、リンパ液の尿路への漏出が強く示唆されました。

重要なのは、尿蛋白が約35 g/gCrという極めて高い値であっても、それだけで糸球体障害によるネフローゼ症候群と決めつけることはできない点です。

なお、尿蛋白/クレアチニン比はスポット尿から蛋白排泄量を推定する指標であり、この値がそのまま24時間尿蛋白排泄量35 g/日を意味するわけではありません。


2.乳糜尿(Chyluria)とは何か:リンパ管と尿路が異常につながる病態

乳糜尿とは、脂質を豊富に含むリンパ液(乳糜)が尿路に混入する病態です。

正常なリンパ循環

食事から摂取された脂質のうち、長鎖脂肪酸を中心とする脂質は、小腸で吸収された後、カイロミクロンという粒子に組み込まれます。

カイロミクロンは小腸のリンパ管からリンパ循環に入り、胸管を経由して静脈系へ運ばれます。

通常、この脂質に富むリンパ液が腎盂や尿管などの尿路に直接流入することはありません。

乳糜尿が発生する仕組み

何らかの原因でリンパ管と尿路の間に瘻孔(Fistula)が形成されると、リンパ液が尿路に流入します。

その結果、尿中に脂質、タンパク質、リンパ球などのリンパ液成分が混入します。

この病態では、主に以下の異常が生じます。

① 乳白色尿(Milky urine)

カイロミクロンを含む脂質成分が尿中に混入し、尿が牛乳のように白く濁ります。

② 大量の蛋白尿

リンパ液に含まれるアルブミンなどのタンパク質が尿に失われます。

③ 低アルブミン血症

尿中へのタンパク質喪失が持続すると、血清アルブミン濃度が低下します。

④ 全身のむくみ(浮腫)

アルブミン低下によって血漿膠質浸透圧が低下し、血管内から間質への水分移動が促進され、浮腫が生じやすくなります。

重症例では、栄養障害やリンパ球喪失などが問題になる場合もあります。


3.なぜネフローゼレベルの蛋白尿が出現するのか:糸球体障害との決定的な違い

本症例から得られる最も重要な臨床的教訓は、蛋白尿の量だけでは、タンパク質がどこから尿中に混入したのかを判断できないという点です。

通常のネフローゼ症候群

微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、ループス腎炎などでは、主に糸球体濾過障壁の障害によってアルブミンなどが尿中に漏出します。

この場合、タンパク質の漏出は腎臓の濾過過程で生じます。

乳糜尿に伴う蛋白尿

一方、リンパ管・尿路瘻では、腎臓の濾過機能とは別の経路でタンパク質が尿中に混入します。

すなわち、腎盂や尿管などの尿路に流入したリンパ液由来のタンパク質が、尿蛋白として測定されます。

これは、いわゆる糸球体後性(postglomerular / postrenal)の蛋白混入を考えるうえで重要な病態です。

比較項目糸球体性蛋白尿乳糜尿に伴う蛋白尿
主な原因糸球体濾過障壁の障害リンパ管と尿路の異常交通
蛋白質の漏出経路糸球体から尿細管へリンパ管から尿路へ
尿の外観正常色から泡沫尿など特徴的な乳白色尿
尿中カイロミクロン通常認めない特徴的所見
尿中トリグリセリド通常著明な増加はない高値となり得る
主な治療対象糸球体疾患そのものリンパ管・尿路瘻や背景疾患

ただし、乳糜尿と糸球体疾患が同時に存在する可能性もあるため、乳糜尿の診断のみで糸球体疾患を完全に除外できるわけではありません。

実際、過去の腎臓内科領域の報告でも、乳糜尿はネフローゼ域の蛋白尿を呈し、糸球体疾患と誤認される場合があることが指摘されています。

そのため、尿の性状や尿中脂質成分の評価は、不必要な腎生検や免疫抑制治療を避けるうえでも有用です。


4.乳白色尿を認めた場合の鑑別診断

尿が白く濁る原因は乳糜尿だけではありません。

① 乳糜尿(Chyluria)

リンパ液が尿路へ混入し、カイロミクロンやトリグリセリドが尿中に検出されます。

② 膿尿・尿路感染症

白血球や細菌が尿中に増加することで、尿が白く濁ることがあります。

排尿時痛、頻尿、発熱、腰背部痛などが鑑別の手がかりになります。

③ 結晶尿・リン酸塩尿

尿中の塩類が析出することで混濁する場合があります。

尿pHや尿沈渣所見などが参考になります。

④ 脂肪尿(Lipiduria)

ネフローゼ症候群などで、脂肪滴や卵円形脂肪体(Oval fat bodies)を認める場合があります。

ただし、これはリンパ液そのものが尿に混入する乳糜尿とは病態が異なります。

⑤ その他の原因

尿路出血に伴う混濁、精液の混入、薬剤や尿中成分の析出なども考慮します。

したがって、白濁尿を評価する際には、尿沈渣、尿培養、蛋白定量に加え、乳糜尿が疑われる場合には尿中トリグリセリドやカイロミクロンの確認が有用です。


5.リンパ管造影による診断:右腎盂尿管移行部の瘻孔を同定

本症例では、リンパ管系と尿路系の異常な交通部位を特定するため、リンパ管造影(Lymphangiography)が行われました。

画像所見

造影によって、後腹膜に拡張・蛇行した異常リンパ管が描出されました。

さらに、これらのリンパ管と右腎盂尿管移行部(Right pyeloureteral junction)との間に、瘻孔による交通が確認されました。

この所見は、リンパ液が尿路へ流入する解剖学的経路を示すものです。

リンパ管造影の臨床的意義

リンパ管造影には、以下の重要な役割があります。

  • 異常リンパ管の分布を把握する
  • リンパ液が尿路に流入する部位を特定する
  • 瘻孔と周囲リンパ管との解剖学的関係を確認する
  • 塞栓術などの治療計画を立案する

近年は、リンパ管造影、MRリンパ管造影、各種経皮的リンパ管インターベンションなどを組み合わせた評価・治療が行われています。

本症例では後腹膜リンパ管奇形が確認されましたが、その原因が先天的なものか、後天的に形成されたものかについては確定していません。


6.乳糜尿の治療:保存的管理から経皮的塞栓術へ

乳糜尿の治療は、原因疾患、尿中へのリンパ液漏出量、栄養状態、症状の持続期間などを考慮して選択します。

① 保存的治療:脂質制限食

軽症例では保存的治療を検討します。

長鎖脂肪酸を中心とした脂質摂取を制限することで、腸管からリンパ系へ流入するカイロミクロン量を減らし、乳糜の流量を低下させることを目的とします。

必要に応じて、中鎖脂肪酸(MCT)を利用した栄養管理も検討されます。

ただし、厳格な脂質制限を長期間継続する場合には、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの不足、栄養障害に注意が必要です。

本症例では脂質制限による保存的管理が試みられましたが、十分な改善は得られませんでした。

② 経皮的リンパ管・瘻孔塞栓術

保存的治療で改善しない症例では、瘻孔を閉鎖する治療が選択肢となります。

本症例では、インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)の技術を用い、経皮的経腹的アプローチによる塞栓術が施行されました。

治療の目的は、リンパ管から尿路への異常なリンパ液流入を遮断することです。

塞栓術では、対象となるリンパ管や瘻孔の解剖に応じて、適切な穿刺経路や塞栓材料を選択します。

なお、具体的な塞栓材料やアクセス経路の詳細は症例ごとに異なります。

③ その他の治療選択肢

難治例では、腎盂内への硬化療法や外科的なリンパ管遮断術などが検討される場合もあります。

ただし、これらはすべての乳糜尿患者に必要な治療ではありません。

病態の重症度と解剖学的所見に基づく個別判断が重要です。


7.治療後の経過:尿の清澄化と低アルブミン血症の改善

本症例では、塞栓術後に尿の乳白色混濁が改善しました。

治療後3か月の追跡評価では、尿の外観が正常化し、血清アルブミン値の改善とともに、蛋白尿および下肢浮腫の減少が認められました。

これは、リンパ管・尿路間の異常交通を遮断することで、尿中へのリンパ液漏出が改善したことと整合する経過です。

本症例の重要な点は、糸球体疾患を標的とした治療ではなく、タンパク質が尿中に漏れる異常な解剖学的経路を治療することで、著明な蛋白尿と低アルブミン血症の改善が得られたことです。

ただし、3か月時点の良好な経過が、長期的な再発ゼロや永続的な根治を保証するものではありません。

今後も尿の性状、尿蛋白、血清アルブミン、栄養状態などの経過観察が重要と考えられます。


8.治療の安全性とエビデンスの限界

経皮的リンパ管塞栓術は、外科的手術と比較して侵襲を抑えられる場合がありますが、無害な処置ではありません。

穿刺部の出血、感染、塞栓物質の意図しない移動、周囲組織への影響、リンパ流の変化、治療後の再発などに注意が必要です。

これらは処置方法や塞栓対象によってリスクが異なります。

また、今回のNEJM報告は1例の画像症例報告であり、塞栓術の一般的な成功率や長期安全性を確定する研究ではありません。

治療適応については、専門的な画像評価と、泌尿器科・腎臓内科・放射線科による検討が必要です。


9.今回のNEJM症例から学ぶ臨床的教訓

今回の症例は、日常診療における3つの重要な視点を示しています。

第一に、大量の蛋白尿が存在しても、そのすべてが糸球体由来とは限らないことです。

特に尿が乳白色である場合には、乳糜尿を鑑別に含める必要があります。

第二に、尿の外観という基本的な臨床所見が、精密検査の方向性を決定する場合があることです。

尿蛋白/クレアチニン比や血清アルブミン値に加え、尿中トリグリセリドやカイロミクロンの確認が診断につながります。

第三に、病態の解剖学的原因を特定することで、従来とは異なる治療アプローチが可能になることです。

リンパ管造影によって瘻孔を可視化し、経皮的塞栓術でその異常交通を遮断するという治療戦略は、病態に直接対応した治療の一例といえます。


10.総合内科・外来診療への応用:尿の異常とむくみをどう評価するか

実際の一般内科外来では、乳糜尿は比較的まれな病態です。

一方、蛋白尿、尿の混濁、下肢浮腫は日常的に遭遇する症状です。

このような患者さんでは、まず尿検査、血清アルブミン、腎機能、肝機能、尿沈渣などから原因を評価します。

浮腫については、腎疾患だけでなく、心不全、肝疾患、静脈・リンパ還流障害、薬剤性なども鑑別に含めます。

特に、以下のような場合には詳しい評価が必要です。

  • 尿が牛乳のように白く濁る
  • 急速に下肢や全身のむくみが悪化する
  • 健康診断で大量の蛋白尿を指摘された
  • 血清アルブミンが著しく低下している
  • 尿の異常と体重減少・栄養障害が同時に出現する

重度の浮腫や著明な低アルブミン血症、呼吸困難、尿量減少などを伴う場合には、速やかな専門的評価が必要です。

今回の症例のようにリンパ管疾患が疑われる場合には、腎臓内科・泌尿器科・放射線科などの専門医療機関と連携し、必要な画像検査や治療へつなげることが重要です。


クリニックからのメッセージ

尿の濁りや蛋白尿、足のむくみには、腎臓だけでなく、心臓、肝臓、リンパ管など、さまざまな臓器の異常が関係していることがあります。

柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科専門医・リウマチ専門医、消化器・肝臓専門医が連携し、症状と血液・尿検査などの所見を総合的に評価しています。

一つひとつの検査数値を独立して捉えるのではなく、全身の病態を「点ではなく線」で理解し、原因に応じた適切な検査・治療につなげることを大切にしています。

蛋白尿、腎機能異常、低アルブミン血症、原因不明のむくみについてもご相談いただけます。高度な画像診断や専門的治療が必要な場合には、適切な専門医療機関と連携いたします。

また、慢性疾患をお持ちの患者さんでは、全身管理の一環として口腔内の健康を保つことも重要です。

当院は医科と歯科を併設しており、基礎疾患や服用薬などの情報を共有しながら、必要に応じて歯周病治療や専門的口腔ケア(PMTC)を含めた歯科管理を行っています。

なお、PMTCによって乳糜尿や蛋白尿そのものが改善したり、全身の感染症が確実に予防できたりするわけではありません。

当院では、医科・歯科それぞれの専門性を生かし、患者さんの全身状態に配慮した診療を心がけています。

柏市・我孫子市周辺で、尿の異常やむくみが気になる方はお気軽にご相談ください。


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参考文献

主要文献

Cañameras C, Sampere J. Chyluria from a Lymphatic–Urinary Fistula. N Engl J Med. 2026;394(21):2146.

DOI:https://doi.org/10.1056/NEJMicm2516914

関連文献

Graziani G, et al. Chyluria Associated with Nephrotic-Range Proteinuria: Pathophysiology, Clinical Picture and Therapeutic Options. Nephron Clin Pract. 2011;119(3)–c253.

DOI:https://doi.org/10.1159/000329154


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【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

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