- 2026年11月6日
- 2026年11月7日
抗IFN-γ自己抗体症候群とは?播種性非結核性抗酸菌症から判明した成人発症免疫不全|NEJM 2026
免疫不全というと、生まれつき免疫機能に異常がある方や、抗がん剤・免疫抑制薬を使用している方に起こるものと考えられがちです。
しかし、これまで大きな病気を経験せず、免疫抑制薬も使用していない成人に、重篤な免疫不全が突然明らかになることがあります。
その原因の一つが「抗インターフェロンγ(IFN-γ)自己抗体症候群」です。
IFN-γは、結核菌や非結核性抗酸菌など、細胞内で生存する病原体を排除するために重要なサイトカインです。
ところが、IFN-γの働きを妨げる自己抗体が体内で産生されると、免疫細胞の数が正常でも、特定の感染症に対する防御機能が低下することがあります。
2026年5月、New England Journal of Medicine に、日本人男性の播種性非結核性抗酸菌症を契機として、抗IFN-γ自己抗体症候群が診断された症例が報告されました。
本症例では、診断に至るまでの推論に加え、抗菌薬治療中に新しい肝病変が出現した際の判断も重要な学習点となっています。
今回はこの症例をもとに、成人発症免疫不全の病態、検査所見の解釈、播種性非結核性抗酸菌症の診断、そして治療中の奇異反応について解説します。
1.症例:皮疹、全身リンパ節腫脹、体重減少を認めた62歳男性
患者は62歳の日本人男性です。
入院6か月前から倦怠感と食欲低下が出現し、4か月前には背部にかゆみを伴う皮疹が現れました。
皮疹は数日のうちに腹部、上肢、下肢へ広がりました。
外用ステロイド、抗ヒスタミン薬、抗菌薬による治療を受けましたが、改善しませんでした。
さらに、6か月間で11kgの体重減少を認めました。
入院時には頸部、腋窩、鼠径部など複数の領域でリンパ節腫脹を認め、体幹や四肢、手掌・足底にも紅色丘疹や膿疱が出現していました。
一方、発熱、寝汗、咳嗽は認めませんでした。
既往歴に特記すべき免疫不全疾患はなく、免疫抑制薬やサプリメントの使用歴もありませんでした。
患者は九州出身で、その後は東京近郊に居住していました。
入院時の主な検査所見
炎症反応
- 白血球数:30,800/μL
- 好中球:83%
- CRP:11.3 mg/dL
- 赤沈:117 mm/時
血液学的所見
- ヘモグロビン:9.7 g/dL
- 血小板数:67.6万/μL
免疫・感染症関連検査
- 血清IgG、IgA、IgM:正常範囲
- CD4陽性T細胞数:1,197/μL
- 抗核抗体:陰性
- HIV抗体:陰性
- HTLV-1抗体:陰性
- 梅毒RPR:陰性
- EBV DNA:陰性
- CMV抗原血症:陰性
- T-SPOT.TB:陰性
白血球増多、著明な炎症反応、貧血、血小板増多を認めました。
これらは強い全身性炎症の存在を示しますが、その原因が感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患のいずれであるかを特定するものではありません。
また、免疫グロブリン濃度やCD4陽性T細胞数が正常であることは、すべての免疫機能が正常であることを意味しません。
この点が本症例を理解するうえで重要です。
2.全身リンパ節腫脹と皮疹から何を疑うべきか
全身性リンパ節腫脹、皮疹、体重減少、炎症反応高値が数か月にわたって持続する場合、鑑別診断は広範囲に及びます。
感染症
結核、非結核性抗酸菌症、真菌感染症、HIV感染症、梅毒などが挙げられます。
特に、慢性的なリンパ節腫脹を認める場合には、通常の細菌感染症だけでなく、抗酸菌や真菌などの感染症を考慮する必要があります。
血液悪性腫瘍
悪性リンパ腫は全身リンパ節腫脹と体重減少の重要な鑑別疾患です。
本症例は九州出身であり、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の原因となるHTLV-1感染も検討されました。
自己免疫疾患・炎症性疾患
全身性エリテマトーデス(SLE)、サルコイドーシス、IgG4関連疾患、多中心性キャッスルマン病なども鑑別に含まれます。
これらの疾患では、リンパ節腫脹に加えて皮膚症状や全身性炎症を認めることがあります。
詳しくは、特発性多中心性キャッスルマン病の病態と診断で解説しています。
ただし、これらの所見だけで診断を確定することはできず、感染症や悪性腫瘍の除外を含めた組織学的評価が重要です。
3.リンパ節生検でも診断が確定しなかった
造影CTでは、全身に多数の腫大リンパ節を認め、一部には内部壊死がみられました。
全身PET検査では、頸部、鎖骨上窩、腋窩、胸腔内、縦隔、大動脈周囲、腸間膜などのリンパ節に集積を認めました。
左鎖骨上リンパ節の摘出生検では、リンパ球、形質細胞、好中球の浸潤が確認されました。
しかし、悪性リンパ腫、キャッスルマン病、IgG4関連疾患を示唆する所見は得られませんでした。
抗酸菌染色でも菌体は確認されませんでした。
一方、腹部の皮膚生検では、好中球浸潤と海綿状態を伴う表皮内膿疱性皮膚炎が認められました。
細菌・真菌培養は陰性でした。
病理検査が陰性でも抗酸菌感染症は否定できない
抗酸菌感染症の診断では、病理組織に肉芽腫が認められる場合があります。
しかし、免疫不全を背景とした感染症では、典型的な肉芽腫形成が乏しいことがあります。
また、抗酸菌染色の感度には限界があります。
したがって、組織内に抗酸菌が確認できないことだけで、抗酸菌感染症を除外することはできません。
培養や菌種同定を含めた微生物学的評価が重要になります。
4.血液培養からMycobacterium abscessusが検出された
入院後、抗酸菌用の血液培養で抗酸菌が検出され、後に Mycobacterium abscessus と同定されました。
さらに、左腋窩リンパ節の組織培養からも同じ菌が検出されました。
Mycobacterium abscessus は、非結核性抗酸菌(NTM)の一種で、迅速発育抗酸菌に分類されます。
一般にNTMは環境中の水や土壌に存在し、呼吸器感染症のほか、皮膚・軟部組織感染症、リンパ節炎などを引き起こします。
非結核性抗酸菌症(NTM症)は肺に発症することが多く、胸部画像検査で結節影や気管支拡張などが認められる場合があります。ただし、画像所見だけで診断を確定することはできず、適切な検体を用いた微生物学的検査が重要です。
肺NTM症でみられる画像所見については、非結核性抗酸菌症(NTM)の胸部レントゲン所見で解説しています。
一方、今回の症例では、肺病変よりも全身リンパ節腫脹や皮膚病変が前景に立っていました。NTM症は肺だけに発症するとは限らず、播種性感染症を認めた場合には、背景にある免疫機能の異常を検討する必要があります。
M. abscessus は治療が難しい菌種の一つで、複数の抗菌薬に対して耐性を示すことがあります。
本症例では、血液とリンパ節の両方から菌が検出されており、播種性NTM感染症と診断されました。
ただし、患者には明らかなHIV感染症、CD4陽性T細胞減少、免疫抑制薬使用歴がありませんでした。
ここで、新たな疑問が生じます。
なぜ、明らかな免疫不全の既往がない成人に、播種性NTM感染症が発症したのでしょうか。

図説:62歳男性における播種性 Mycobacterium abscessus 感染症の診断経過。入院6か月前から倦怠感と食欲低下が出現し、4か月前から皮疹が拡大した。全身リンパ節腫脹に対する組織学的評価では診断が確定しなかったが、抗酸菌用血液培養とリンパ節培養からM. abscessusが検出された。免疫抑制歴のない成人に発症した播種性感染症とIGRA陽性コントロールの不一致から、IFN-γに対する中和自己抗体が検索され、本症候群の診断に至った。原著症例に基づく時系列模式図。
5.抗IFN-γ自己抗体症候群:成人に発症する獲得性免疫不全
播種性NTM感染症の発症には、細胞性免疫の障害が関与することがあります。
その中心的な経路の一つが、IL-12–IFN-γ経路です。
正常な免疫応答
マクロファージや樹状細胞が抗酸菌を認識すると、IL-12を産生します。
IL-12はT細胞やNK細胞に作用し、IFN-γの産生を促進します。
産生されたIFN-γはマクロファージのIFN-γ受容体に作用し、細胞内病原体に対する殺菌機能を高めます。
この経路は、抗酸菌のように細胞内で生存する病原体の制御に重要です。
抗IFN-γ自己抗体が存在する場合
一部の成人では、IFN-γに結合してその働きを中和する自己抗体が産生されます。
その結果、IFN-γが分泌されても、マクロファージに十分な活性化シグナルを伝えることができなくなります。
これが抗IFN-γ自己抗体症候群です。
重要なのは、免疫細胞そのものが減少しているとは限らないことです。
本症例でもCD4陽性T細胞数は正常範囲でした。
つまり、免疫細胞の「数」は保たれていても、サイトカインの「機能」が阻害されることで免疫不全が生じていたと考えられます。
自己抗体は、必ずしも免疫反応を過剰に活性化させるものではありません。特定のサイトカインの働きを中和することで、正常な免疫機能を妨げる場合もあります。
例えば、炎症を抑制するIL-10に対する中和自己抗体は、炎症性腸疾患の一部における病態との関連が報告されています。
詳しくは、潰瘍性大腸炎・クローン病と抗IL-10自己抗体|IBDの新たな病態【NEJM 2026】で解説しています。
抗IL-10自己抗体と抗IFN-γ自己抗体は、標的となるサイトカインも臨床的な影響も異なります。しかし、サイトカインの機能が自己抗体によって阻害されるという点では、共通する免疫学的概念を示しています。
東アジア・東南アジアでの報告が多い
抗IFN-γ自己抗体症候群は、東アジア・東南アジア系の成人で多く報告されています。
特定のHLAクラスIIアレル、特にHLA-DRB1*16:02やHLA-DQB1*05:02との関連が報告されています。
ただし、これらは疾患感受性に関する関連であり、特定のHLAを保有していれば必ず発症するという意味ではありません。
本症例ではHLAタイピングによる患者個人の遺伝的背景は示されていません。

図説:細胞内病原体に対するIL-12–IFN-γ経路を示す模式図。マクロファージや樹状細胞が産生するIL-12は、T細胞およびNK細胞からのIFN-γ産生を促進する。IFN-γはマクロファージのIFN-γ受容体を介して殺菌機能を増強する。中和性抗IFN-γ自己抗体は細胞外のIFN-γの働きを阻害し、抗酸菌などの細胞内病原体に対する免疫防御を障害する。本図は既知の免疫学的経路を示した概念図であり、本症例で各細胞内シグナルを直接測定したものではない。
6.QuantiFERONとT-SPOTの違いが診断の手がかりになった
本症例の診断過程で、特に興味深いのがインターフェロンγ遊離試験(IGRA)の結果です。
当初のT-SPOT.TBは陰性でした。
その後に施行されたQuantiFERON-TB Gold Plus(QFT)は、陽性コントロールであるmitogen刺激に対する応答が不十分で、判定不可となりました。
この2つの検査結果の違いが、抗IFN-γ自己抗体の存在を疑う手がかりになりました。
QuantiFERONの測定原理
QuantiFERONは、抗原刺激後に血液中へ放出されたIFN-γの量を測定します。
したがって、IFN-γを中和する自己抗体が存在すると、刺激によってIFN-γが産生されていても、測定されるIFN-γ量が低下する場合があります。
T-SPOTの測定原理
一方、T-SPOTは、IFN-γを産生するT細胞の数をELISPOT法で評価します。
測定原理が異なるため、抗IFN-γ自己抗体が存在する場合でも、T-SPOTの陽性コントロールが保たれることがあります。
なぜ重要なのか
本症例では、QFTのmitogen陽性コントロールが反応不十分であった一方、T-SPOTでは検査が成立していました。
この不一致から、IFN-γ産生能の全般的な欠損ではなく、放出されたIFN-γを妨げる物質の存在が疑われました。
その後、血清から中和性抗IFN-γ自己抗体が検出されました。
抗体価は768 ELISA units(EU)で、論文中の基準範囲5~50 EUを大きく上回っていました。
以上から、抗IFN-γ自己抗体症候群と診断されました。
ただし、QFTが判定不可でT-SPOTが陰性という組み合わせだけで、本症候群を診断できるわけではありません。
QFTのmitogen低反応は、免疫抑制状態や検体の取り扱いなど、ほかの原因でも生じます。
抗IFN-γ自己抗体症候群の確定には、臨床像に加え、抗体の存在と中和活性の評価が必要です。
また、T-SPOT陰性という結果は、抗IFN-γ自己抗体の影響がないことを直接証明するものではありません。
両検査の測定原理と陽性コントロールの解釈を組み合わせることが重要です。

図説:QuantiFERON-TB Gold Plus(QFT)とT-SPOT.TBの測定原理の比較。QFTは刺激後に分泌されたIFN-γの量を測定するのに対し、T-SPOTはIFN-γ産生細胞のスポット数を測定する。中和性抗IFN-γ自己抗体が存在すると、QFTのmitogen陽性コントロールでIFN-γ応答が低く測定される一方、T-SPOTでは陽性コントロールが保たれる場合がある。この不一致は診断の手がかりとなるが、本症候群に特異的な検査所見ではない。
7.抗IFN-γ自己抗体症候群では、どのような感染症が起こるのか
抗IFN-γ自己抗体症候群では、細胞内病原体に対する防御が障害されます。
代表的なのが、非結核性抗酸菌感染症です。
そのほか、以下の病原体による感染症との関連が報告されています。
- サルモネラ
- Burkholderia
- Histoplasma
- Cryptococcus
- Talaromyces
- サイトメガロウイルス
- 水痘・帯状疱疹ウイルス
感染症の種類や重症度は患者によって異なります。
また、抗IFN-γ自己抗体が検出された患者全員が同じ感染症を発症するわけではありません。
特に、成人で原因不明の播種性NTM感染症、反復性NTM感染症、複数の細胞内病原体による感染症を認めた場合には、本症候群を鑑別に加えることが重要です。
なお、本症候群における抗IFN-γ自己抗体の測定や中和活性の評価は、一般的な診療所で日常的に実施される検査ではなく、専門施設との連携が必要になる場合があります。
8.抗菌薬治療で改善したが、その後再燃した
診断後、患者はアジスロマイシン、アミカシン、イミペネムによる静脈内治療を受けました。
4週間の治療後には皮疹とリンパ節腫脹が改善しました。
その後、薬剤感受性検査を踏まえて、アジスロマイシンとシタフロキサシンの経口治療へ変更されました。
しかし、1か月後に皮疹とリンパ節腫脹が再燃しました。
左腋窩リンパ節から再び M. abscessus が検出され、マクロライド系抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)は初回分離株と比較して4倍に上昇していました。
この結果から、抗菌薬耐性の進展が疑われました。
治療はイミペネム、チゲサイクリン、クラリスロマイシンを含むレジメンへ変更され、再び皮疹とリンパ節腫脹が改善しました。
M. abscessusの治療では薬剤感受性評価が重要
M. abscessus は薬剤耐性が問題となる菌種です。
特にマクロライド耐性には、獲得耐性に加え、erm(41)遺伝子に関連する誘導耐性などが関与する場合があります。
したがって、薬剤感受性検査の結果、菌種・亜種の特徴、耐性機序、臨床経過を総合して治療を検討する必要があります。
ただし、本症例の論文では、マクロライドMICの上昇が報告されているものの、その分子機序までは確定されていません。
また、ここに示した抗菌薬の組み合わせは、この症例で実際に用いられた治療経過であり、すべてのM. abscessus感染症に適用される標準レジメンを意味しません。
9.治療中に新たな肝病変が出現:感染再燃か、奇異反応か
抗菌薬を変更した後、皮疹とリンパ節腫脹は改善しました。
ところが、4週間後のCT検査で、新たに複数の肝病変が確認されました。
さらに2週間後には、肝病変が増大していました。
一方で、患者の全身状態は改善していました。
皮疹とリンパ節腫脹は縮小し、活動性も回復していました。
肝生検では壊死と類上皮細胞の集簇が認められ、肉芽腫を示唆する所見でした。
しかし、肝組織培養から抗酸菌は検出されませんでした。
新しい病変が出現した際の鑑別診断
このような経過では、少なくとも以下を検討する必要があります。
- 抗酸菌感染症の持続・進展
- 新たな感染症の発症
- 薬剤耐性や抗菌薬の組織移行不足
- 悪性腫瘍など別疾患の存在
- 抗菌薬治療に伴う奇異反応
本症例では、全身症状が改善していること、既存リンパ節病変が縮小していること、肝組織培養が陰性であることなどから、奇異反応が最も疑われました。
ただし、抗菌薬投与中の培養陰性は感染の完全な否定にはならず、奇異反応の診断には慎重な判断が必要です。
10.奇異反応(paradoxical reaction)とは何か
奇異反応とは、感染症に対する適切な治療を開始した後、臨床症状や画像所見が一時的に悪化したり、新たな炎症性病変が出現したりする現象です。
結核治療中にみられることが知られていますが、非結核性抗酸菌症でも報告されています。
その機序として、抗菌薬治療によって死滅した抗酸菌から放出される抗原に対し、宿主の免疫反応が過剰に生じることが考えられています。
奇異反応は、必ずしも免疫機能が完全に回復したことを意味するものではありません。
本症例では、IFN-γの作用が中和自己抗体によって阻害されていましたが、CD4陽性T細胞などの細胞性免疫は保たれていました。
このため、抗酸菌由来抗原に対する炎症反応が生じ得たと考察されています。
本症例では抗菌薬を継続し、ステロイドを使用しなかった
奇異反応と判断された後、抗菌薬治療は継続されました。
グルココルチコイドは投与されませんでした。
静脈内抗菌薬を6週間継続した後、クラリスロマイシン、シタフロキサシン、クロファジミンによる経口治療へ変更されました。
2か月後の経過観察では、肝病変は消失しました。
患者は体重が2kg増加し、職場復帰することができました。
この経過は奇異反応という診断を支持しますが、治療中の新病変をすべて奇異反応とみなしてよいわけではありません。
特に、本症例では先行して薬剤耐性が疑われる再燃を経験していました。
したがって、抗菌薬耐性や感染制御不良を十分に検討したうえで判断する必要があります。

図説:播種性 M. abscessus 感染症に対する治療経過。初期の抗菌薬治療後、皮疹とリンパ節腫脹は改善したが、経口治療への変更後に再燃し、リンパ節培養から菌が再検出された。再分離株ではマクロライドMICが初回の4倍となり、薬剤耐性の進展が疑われた。その後、抗菌薬変更によって全身状態と既存病変が改善する一方、新たな肝病変が出現した。肝生検では肉芽腫を示唆する所見を認めたが培養は陰性で、経過から奇異反応と判断された。抗菌薬を継続し、グルココルチコイドを使用せずに肝病変が消失した。原著症例に基づく模式図。
11.抗IFN-γ自己抗体症候群に対する治療の課題
抗IFN-γ自己抗体症候群では、原因となる感染症への適切な抗菌薬治療が基本となります。
しかし、自己抗体による免疫機能障害が持続する場合には、感染症の再燃や新たな感染症が問題となります。
これまでに、リツキシマブやシクロホスファミドによって抗IFN-γ自己抗体価が低下した症例が報告されています。
ただし、これらは主に症例報告や症例集積による知見です。
抗体価の低下が、感染症の再発率や重症度の改善につながることを確立したランダム化比較試験はありません。
また、免疫抑制療法そのものが感染症を悪化させる可能性もあります。
そのため、抗体を標的とした治療は、難治性・再発性の感染症などを背景に、感染症専門医と免疫学の専門家が慎重に検討すべき治療です。
本症例ではリツキシマブやシクロホスファミドは使用されておらず、抗菌薬治療によって改善が得られました。
12.この症例から臨床医が学ぶべきこと
皮疹と全身リンパ節腫脹が同時にみられる場合、その原因は感染症だけではありません。薬剤過敏性反応でも、皮疹、リンパ節腫脹、血液検査異常、臓器障害が出現することがあります。
その代表例の一つが、DRESS症候群(薬剤性過敏症症候群)です。
ST合剤によるDRESS症候群の一例では、薬剤による全身性炎症反応と、その診断上の特徴を解説しています。
今回の症例では、皮疹が抗菌薬投与前から出現していたことも、薬剤性皮疹の可能性を検討するうえで重要な情報でした。
今回のNEJM症例から得られる教訓は、大きく4つあります。
① 日和見感染症を認めたら、背景にある免疫障害を考える
免疫不全の既往がなくても、播種性NTM感染症などの特徴的な感染症を認めた場合には、獲得性免疫不全を検討する必要があります。
HIV感染症や薬剤性免疫抑制に加えて、IL-12–IFN-γ経路の異常が重要です。
② 免疫細胞数が正常でも、免疫機能は正常とは限らない
本症例ではCD4陽性T細胞数や血清免疫グロブリン濃度が正常でした。
それでも、IFN-γの中和によって抗酸菌に対する防御機能が障害されていました。
免疫不全の評価では、細胞数や免疫グロブリン量だけでなく、機能的な異常を考える必要があります。
③ 検査結果の不一致には診断的価値がある
QuantiFERONとT-SPOTは、いずれも結核感染を評価するIGRAですが、測定原理は異なります。
本症例では、陽性コントロールの結果の不一致が、IFN-γを中和する自己抗体の存在を考えるきっかけとなりました。
単一の検査結果だけでなく、検査の原理を理解し、結果の整合性を検討することが重要です。
④ 治療中の画像悪化を、直ちに治療失敗と判断しない
本症例では、抗菌薬耐性が疑われる再燃と、その後の奇異反応という、異なる病態が連続して生じました。
いずれも一見すると感染症の悪化にみえますが、必要な対応は異なります。
感染症の治療では、画像所見だけでなく、全身状態、微生物学的検査、薬剤感受性、病理所見、病変の時間的変化を総合して判断する必要があります。
まとめ
抗IFN-γ自己抗体症候群は、成人に発症する獲得性免疫不全の一つです。
IFN-γを中和する自己抗体によって、マクロファージを介した細胞内病原体への防御機構が障害され、播種性非結核性抗酸菌症などを引き起こします。
今回のNEJM症例では、Mycobacterium abscessus による播種性感染症を契機として本症候群が診断されました。
診断の重要な手がかりとなったのは、QuantiFERONとT-SPOTの陽性コントロールにみられた不一致でした。
また、治療経過中には抗菌薬耐性が疑われる再燃に続き、新たな肝病変を伴う奇異反応が生じました。
この症例は、感染症と免疫機能の関係を理解するうえで、特に重要な示唆を与えています。
特徴的な感染症から背景の免疫異常を推定すること、そして治療中の病状変化を微生物学と免疫学の両面から解釈すること。
この2つが、本症例の最も重要な教訓と考えられます。
長引くリンパ節の腫れや原因不明の体調不良について
リンパ節の腫れ、長引く皮疹、体重減少、原因不明の炎症反応などには、感染症、自己免疫疾患、血液疾患など、さまざまな原因が考えられます。
柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科専門医・リウマチ専門医の視点から、症状や検査結果を総合的に評価し、原因の特定を目指しています。
高度な感染症検査や専門的な治療が必要な場合には、適切な専門医療機関と連携して診療を進めます。
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一次文献・出典
原著論文
Matsumura M, Kanda N, Hatakeyama S, Dhaliwal G. Immune Interference. N Engl J Med. 2026;394:1847–1853.
DOI:10.1056/NEJMcps2511351
背景となる主要文献
- Browne SK, et al. Adult-onset immunodeficiency in Thailand and Taiwan. N Engl J Med. 2012;367:725–734.
- Wu U-I, Holland SM. Host susceptibility to non-tuberculous mycobacterial infections. Lancet Infect Dis. 2015;15:968–980.
- Hong GH, et al. Natural history and evolution of anti-interferon-γ autoantibody-associated immunodeficiency syndrome in Thailand and the United States. Clin Infect Dis. 2020;71:53–62.
- Aoki A, et al. Clinical significance of interferon-γ neutralizing autoantibodies against disseminated nontuberculous mycobacterial disease. Clin Infect Dis. 2018;66:1239–1245.

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら
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■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)(日本歯内療法学会専門医)
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科の各専門医が連携し、最新の医学的エビデンスに基づいた正確な医療情報を分かりやすく解説・発信しています。
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