- 2026年10月15日
【NEJM 2026】高度HLA感作患者へのCAR-T細胞療法|抗HLA抗体を減らし腎移植を実現した第1相試験
【腎臓内科・移植医療・血液内科・免疫学】CD19/BCMA二重標的CAR-T細胞療法による高度HLA感作患者の脱感作戦略。抗HLA抗体の産生源であるB細胞・形質細胞を標的とし、腎移植の機会を拡大したNEJM 2026年第1相試験
免疫の記憶を標的とすることで、移植が難しかった患者さんに新しい可能性
腎移植は、腎臓の機能が失われた患者さんにとって重要な治療の一つです。しかし、過去に移植を受けた経験や輸血、妊娠などによって、他人の組織を攻撃する「抗HLA抗体」が作られることがあります。
この抗体が多い患者さんでは、適合する腎臓を見つけることが非常に難しくなります。
2026年、医学誌NEJMに、免疫細胞を利用した「CAR-T細胞療法」によって抗HLA抗体を減らし、移植が極めて困難だった2人の患者さんで腎移植を実施できた研究が報告されました。
CAR-T細胞療法は、これまで主に血液がんや難治性自己免疫疾患で研究されてきた治療です。
今回の研究では、抗体を生み出すB細胞と形質細胞の両方を標的とすることで、移植を妨げる免疫反応を弱めることが試みられました。
これは、単に血液中の抗体を取り除くのではなく、抗体を作る細胞そのものを減らすという新しい発想です。
2人とも腎移植を受けることができ、報告時点では移植した腎臓に対する抗体の再上昇は認められていません。
ただし、研究対象はわずか2人であり、標準治療として確立されたものではありません。今後、さらに多くの患者さんで有効性と安全性を確認する必要があります。
1.なぜ抗HLA抗体があると腎移植が難しくなるのか?
腎移植では、移植される腎臓を患者さんの免疫システムが異物として認識し、攻撃することがあります。
この免疫反応で重要な役割を担うのが、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)です。
HLAは細胞表面に発現する分子で、免疫システムが自己と非自己を識別するうえで重要な役割を担っています。
患者さんが過去の腎移植、輸血、妊娠などを経験すると、自分とは異なるHLAを認識し、それに対する抗体(抗HLA抗体)を形成することがあります。
この状態を「HLA感作(HLA sensitization)」と呼びます。
抗HLA抗体が腎移植に及ぼす影響
移植される腎臓のHLAに対応する抗体が患者さんの体内に存在すると、その抗体が移植腎の血管内皮などに結合し、補体活性化や炎症細胞の動員を通じて腎臓を障害する可能性があります。
特に重要なのが、抗体関連型拒絶反応(Antibody-Mediated Rejection:ABMR)です。
ABMRは移植腎の機能低下や移植腎喪失につながる重要な合併症です。
このため、腎移植前には抗HLA抗体やドナーとの免疫学的適合性を慎重に評価する必要があります。
2.cPRA 99.9%以上とは何を意味するのか?
HLA感作の程度を評価する指標の一つが、cPRA(Calculated Panel-Reactive Antibody)です。
cPRAは、患者さんの抗HLA抗体によって免疫学的に不適合と判断される可能性があるドナーの割合を、集団のHLA頻度などに基づいて推定した指標です。
例えば、
- cPRA 80%:約80%のドナーが免疫学的に不適合と推定される
- cPRA 99%:約99%のドナーが不適合と推定される
- cPRA 99.9%:約99.9%のドナーが不適合と推定される
- cPRA 99.99%:約99.99%のドナーが不適合と推定される
という意味になります。
cPRAが99.9%以上になると、適合するドナーの候補は非常に限られます。
さらに、ABO血液型適合性や臓器配分の条件なども関係するため、実際に腎移植を受ける機会はさらに制限される場合があります。
今回の研究では、治療開始時のcPRAがそれぞれ99.998%、99.995%という極めて高度な感作状態にありました。
従来の腎移植医療では、こうした患者さんに十分な移植機会を提供することが大きな課題となっていました。
3.従来の脱感作療法にはどのような限界があるのか?
高度HLA感作患者に対しては、移植前に抗HLA抗体を減らす「脱感作療法(Desensitization)」が行われることがあります。
従来の主な治療には以下があります。
血漿交換療法
血液中に存在する抗HLA抗体を物理的に除去する治療です。
循環血中の抗体を比較的速やかに減少させることができますが、抗体を作る細胞そのものを十分に除去できるわけではありません。
免疫グロブリン静注療法(IVIG)
免疫反応の調節などを目的として使用されます。
ただし、高度感作患者において、抗HLA抗体の持続的な減少を安定して達成できるとは限りません。
B細胞・形質細胞を標的とする治療
抗CD20抗体、抗CD38抗体、プロテアソーム阻害薬なども検討されています。
しかし、成熟した抗体産生細胞の一部はCD20を発現しないため、B細胞を除去するだけでは長期間維持されている抗体産生を十分に抑えられない可能性があります。
また、抗体が一度減少しても、残存する形質細胞などから再び産生される「抗体リバウンド(Antibody Rebound)」が問題となります。
従来の脱感作療法の重要な課題は、血液中の抗体を減少させることと、抗体を作り続ける細胞を十分に抑制することが必ずしも一致しない点です。
4.CD19/BCMA二重標的CAR-T療法の作用機序
今回の研究では、CD19を標的とするCAR-T細胞と、BCMAを標的とするCAR-T細胞を併用しました。
CAR-T細胞療法とは、患者さんのT細胞に特定の標的を認識する人工的な受容体を発現させ、その細胞を体内に戻して標的細胞を攻撃させる治療です。
CD19:B細胞系統を標的とする
CD19は、多くのB細胞の発達段階で発現する分子です。
CD19標的CAR-T細胞は、B細胞や一部の形質芽細胞・形質細胞を除去し、抗体産生に関わるB細胞系統を深く抑制することを目指します。
特に免疫記憶を担うメモリーB細胞の除去は、新たな抗体産生反応を抑えるうえで重要と考えられます。
BCMA:形質細胞系統を標的とする
BCMA(B-cell Maturation Antigen)は、形質芽細胞や形質細胞などに発現する分子です。
形質細胞は、抗体を大量に産生する役割を担っています。
一部の長寿命形質細胞は、抗原への再曝露がなくても長期間抗体を作り続けることができます。
こうした細胞が抗HLA抗体を維持する原因となっている可能性があります。
BCMA標的CAR-T細胞を併用することで、CD19標的CAR-T細胞だけでは十分に除去できない抗体産生細胞にも作用することが期待されます。
二重標的化の意義
CD19標的CAR-T細胞とBCMA標的CAR-T細胞を組み合わせることで、
- 抗体産生を担うメモリーB細胞を減らす
- 抗体を産生する形質細胞を減らす
- 抗HLA抗体の産生源を複数の段階で抑える
- 抗体価の持続的な低下を促す
という戦略が考えられます。
この治療は、抗体を単純に血液中から取り除く従来療法とは異なり、抗体産生システムの細胞レベルでの再構築を目指すアプローチです。
ただし、B細胞や形質細胞が完全かつ永久に除去されるわけではありません。また、今回の2例から二重標的化が単一標的CAR-T療法より優れていると断定することはできません。

図1.高度HLA感作患者に対するCD19/BCMA二重標的CAR-T細胞療法の作用機序
CD19標的CAR-T細胞によるB細胞系統の除去と、BCMA標的CAR-T細胞による形質細胞系統の除去を示す模式図。両者の併用により、抗HLA抗体の産生に関与する細胞集団を複数の分化段階で標的とする。
5.NEJM 2026:第1相臨床試験の研究デザイン
今回報告されたのは、多施設共同第1相試験(NCT06056102)の安全性先行評価コホート(Safety Run-in Cohort)です。
研究対象は、cPRA 99.9%以上の高度HLA感作患者2人でした。
両患者とも過去2回の腎移植歴があり、いずれも抗体関連型拒絶反応によって移植腎を失っていました。
治療プロトコール
まず、患者さんからT細胞を採取してCAR-T細胞を製造しました。
その後、リンパ球除去を目的とする前処置を行いました。
- シクロホスファミド:375 mg/m²/日を3日間
- CD19標的CAR-T細胞:5×10⁷ CAR陽性細胞
- BCMA標的CAR-T細胞:5×10⁷ CAR陽性細胞
このCAR-T投与量は、先行する腫瘍領域の臨床試験で使用された量の10分の1に相当し、前処置も比較的軽減されていました。
さらに、CAR-T細胞投与の約1か月後から、2人とも血漿交換療法を5回受けました。
各血漿交換の後には、100 mg/kgの低用量IVIGが投与されました。
これは、残存する循環血中の抗HLA抗体の除去を促進する目的でした。
評価項目
安全性に加え、以下の項目が評価されました。
- 抗HLA抗体の変化
- cPRAの変化
- CAR-T細胞の体内増殖と持続性
- B細胞・形質細胞の減少
- 腎移植の実現
- 移植後のドナー特異的抗体(DSA)の再上昇
- 移植腎機能と拒絶反応
抗HLA抗体は単一抗原ビーズ法で評価され、MFI(Mean Fluorescence Intensity)が1000未満となった抗体について、対応するHLA抗原を移植待機リスト上の「不適合抗原」から除外することが検討されました。
このMFI 1000という基準は本研究のプロトコールに基づくものであり、すべての移植施設・すべての患者に共通する絶対的な安全基準ではありません。

図2.高度HLA感作患者2例に対する脱感作療法の治療プロトコール
シクロホスファミド(375 mg/m²/日、3日間)による前処置後、CD19標的およびBCMA標的CAR-T細胞を各5×10⁷個投与した。約1か月後から血漿交換5回と各施行後の低用量IVIG(100 mg/kg)を併用し、抗HLA抗体および移植適合性の変化を経時的に評価した。
6.症例①:cPRA 99.998%から99.516%へ低下し、3回目の腎移植が実現
最初の患者は54歳男性でした。
末期腎不全に対して過去2回の腎移植を受けましたが、いずれも抗体関連型拒絶反応により移植腎を失っていました。
3回目の腎移植を待機していた時点で、cPRAは99.998%でした。
研究者らはドナー腎の年間供給数やABO適合性を考慮し、この患者に適合する臓器の期待数を年間約0.1個と推計しました。
実際、研究登録前の約3年間、腎臓の提供申し出はありませんでした。
CAR-T療法後の抗HLA抗体の変化
CAR-T細胞投与後、抗HLA抗体は複数の抗原に対して減少しました。
投与から約1か月以内、血漿交換実施前の段階で、12種類のHLA抗原に対する抗体がMFI 1000未満まで低下しました。
さらに投与2か月後までに6種類の抗原に対する抗体も基準未満となり、移植候補を制限していた抗原の一部をリストから除外できるようになりました。
その後も抗HLA抗体の減少が確認され、投与約7か月後にはcPRAが99.516%まで低下しました。
一見すると99.998%から99.516%への変化は小さく感じられるかもしれません。
しかし、理論上の適合候補割合で比較すると、
- 治療前:0.002%
- 治療後:0.484%
となります。
単純な比では適合候補割合が約242倍となる計算です。
ただし、これはcPRAから求めた理論的な割合の比較であり、実際の腎移植実施確率が242倍になったことを示すものではありません。
腎移植後の経過
CAR-T細胞投与から229日後、交差適合試験で適合が確認された献腎移植が行われました。
ドナー腎のKDPI(Kidney Donor Profile Index)は8%でした。
移植後は抗胸腺細胞グロブリンによる導入療法と、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、プレドニゾンによる維持免疫抑制療法を受けました。
移植後12か月時点では、
- 血清クレアチニン値は安定
- ドナー特異的抗体の再上昇なし
- 移植後2か月の腎生検で免疫介在性拒絶反応なし
- C4d染色陰性
という経過でした。
極めて高度なHLA感作により移植機会が限られていた患者で、再移植とその後の移植腎機能の維持が報告されたことは注目すべき結果です。
7.症例②:cPRA 99.995%から99.567%へ低下し、93日後に腎移植
2人目は47歳男性で、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の既往がありました。
過去2回の献腎移植は、いずれも難治性の抗体関連型拒絶反応によって移植腎喪失に至っていました。
研究登録時のcPRAは99.995%でした。
CAR-T細胞投与後の抗体減少
1人目と同様に、前処置後にCD19/BCMA二重標的CAR-T細胞療法が実施されました。
投与後約1か月以内、血漿交換前の段階で、6種類のHLA抗原に対する抗体がMFI 1000未満まで低下しました。
さらに投与2か月後までに15種類の抗原に対する抗体が基準未満となり、cPRAは99.567%まで低下しました。
移植実施とその後の経過
CAR-T細胞投与から93日後、交差適合試験で適合するドナー腎が見つかり、献腎移植が行われました。
ドナー腎のKDPIは64%でした。
移植後の腎機能は徐々に改善し、移植後透析は必要ありませんでした。
移植後23日目の腎生検では、抗体関連型拒絶反応・細胞性拒絶反応のいずれも認められず、C4d染色も陰性でした。
移植後7か月時点でもドナー特異的抗体の再上昇は認められていませんでした。
一方、移植後にはBKウイルス血症が発生し、免疫抑制薬の減量による対応が必要となりました。
この点は、新しい免疫細胞療法を移植医療に応用する際の感染症リスクを考えるうえで重要です。

図3.CAR-T細胞療法を含む脱感作前後のcPRA変化と腎移植の実施
症例1ではcPRAが99.998%から99.516%、症例2では99.995%から99.567%に低下した。CAR-T細胞投与後、それぞれ229日目および93日目に交差適合試験で適合が確認された献腎移植が実施された。cPRAは移植候補ドナーとの免疫学的不適合割合を推定する指標である。
8.CAR-T療法は実際にB細胞と形質細胞を減らしていたのか?
今回の研究の重要性は、単に抗HLA抗体が低下して移植できたという臨床結果だけではありません。
CAR-T細胞による免疫細胞への作用を、血液・骨髄・リンパ節などで詳しく評価していた点も重要です。
CAR-T細胞の体内増殖
症例①では、CD19標的CAR-T細胞とBCMA標的CAR-T細胞がそれぞれ体内で増殖しました。
CD19標的CAR-T細胞は投与14日目、BCMA標的CAR-T細胞は投与7日目に測定上のピークに達しました。
その後、両者とも徐々に減少しました。
CAR-T細胞が体内で増殖し、標的細胞に作用したことを示す薬力学的な結果と考えられます。
B細胞の一時的な枯渇
症例①では投与13〜53日目、症例②では投与15〜50日目に、末梢血でB細胞が検出されない期間が認められました。
また、症例①では投与2か月後のリンパ節穿刺検体からB細胞が検出されず、組織レベルでもB細胞の枯渇が確認されました。
再出現したB細胞の特徴
症例①では、投与3か月後に再出現したB細胞の98.6%がナイーブB細胞または移行期B細胞でした。
これは、成熟した抗原経験B細胞が主体となる状態ではなく、比較的未成熟なB細胞集団を中心としてB細胞系統が再構成されていることを示しています。
研究者らは、この結果をB細胞レパートリーのリセットと整合する所見として解釈しています。
ただし、自己免疫疾患における免疫学的寛解と同じ現象であることや、抗HLA抗体の再産生を長期的に防止できることまで証明されたわけではありません。
9.形質細胞の除去には患者ごとの差がある
今回の研究で興味深いのは、2人の患者で形質細胞の表現型が異なっていたことです。
症例①では、治療前の骨髄中形質細胞の多くがCD19陽性でした。
一方、症例②では、治療前の骨髄中形質細胞のほぼすべてがCD19陰性でした。
症例①の骨髄形質細胞は投与2か月後に著しく減少し、6か月後には一部回復しました。
症例②では、投与2か月後の骨髄検査で形質細胞がフローサイトメトリー上検出されなくなりました。
この違いが意味すること
CD19陽性の形質細胞が多い患者では、CD19標的CAR-T細胞が形質細胞の減少にも寄与する可能性があります。
一方、CD19陰性の形質細胞が主体となる患者では、BCMAを標的とする治療を追加する意義がより大きい可能性があります。
この結果は、抗体産生細胞の表現型によってCAR-T療法の適切な標的が異なる可能性を示唆しています。
ただし、今回の2例ではCD19標的CAR-T細胞とBCMA標的CAR-T細胞を同時に投与しているため、それぞれの寄与を厳密に分離することはできません。
現時点では、患者ごとの形質細胞表現型に基づく最適なCAR-T療法の選択は、今後検証すべき研究課題です。

図4.CAR-T細胞療法後のB細胞・形質細胞動態と免疫再構築
両症例で末梢血B細胞の一過性枯渇と骨髄形質細胞の減少が認められた。症例1では投与3か月後に再出現したB細胞の98.6%がナイーブまたは移行期B細胞であり、B細胞レパートリーの再構築と整合する所見が観察された

図5.CD19/BCMA二重標的CAR-T細胞療法を含む脱感作戦略の臨床結果と安全性
高度HLA感作患者2例で腎移植が実施され、移植後12か月および7か月時点でドナー特異的抗体の再上昇は認められなかった。一方、重度血球減少および移植後BKウイルス血症が報告された。少数例の非比較試験であり、長期的な有効性・安全性およびCAR-T療法単独の寄与は未確立である。」この説明に合う図をそれぞれ作成してください。
10.安全性:CRS・神経毒性・血球減少・感染症
CAR-T細胞療法では、有効性だけでなく安全性の評価が極めて重要です。
主な懸念には、サイトカイン放出症候群(CRS)、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)、血球減少、低免疫グロブリン血症、感染症などがあります。
CRSとICANS
今回の2例では、臨床的に診断されるCRSやICANSは認められませんでした。
ただし、症例②では筋痛、食欲低下、集中力の低下など、CRSに類似した全身症状が認められました。
発熱を伴わなかったためCRSの診断基準は満たしませんでしたが、炎症性サイトカインやCRPの上昇も観察されました。
したがって、「CRSがなかった」という結果を、炎症性の有害反応が全くなかったことと同一視すべきではありません。
血球減少
症例①では、移植前にGrade 3以上の一過性好中球減少が認められ、G-CSFで治療されました。
症例②では、Grade 3の白血球減少とGrade 4の好中球減少が認められました。
いずれも一過性であり、G-CSFなどによって対応されました。
しかし、重度好中球減少は感染症リスクと直結するため、注意深い管理が必要です。
免疫グロブリンと感染症
症例①ではIgM・IgG・IgAが一時的に低下しましたが、その後B細胞・形質細胞の再構成とともに回復傾向を示しました。
既存の感染防御抗体は一定程度保持されていました。
一方、症例②では移植後にBKウイルス血症が認められ、免疫抑制療法の調整を要しました。
CAR-T療法による免疫細胞の減少に加えて、腎移植後には標準的な免疫抑制療法が必要です。
そのため、感染症の発生についてはCAR-T療法だけでなく、前処置や移植後の免疫抑制療法を含めた総合的な評価が必要となります。
本研究は2例のみであり、重篤な感染症や長期的な免疫不全のリスクを十分に評価できる規模ではありません。
11.この研究の重要な限界
今回の研究は、移植医療におけるCAR-T細胞療法の可能性を示す重要な初期報告ですが、いくつかの限界があります。
① 症例数が2例に限られる
報告されたのは第1相試験の安全性先行評価コホートであり、わずか2例です。
2例で移植が実現したことは臨床的に注目すべきですが、一般化可能な治療成功率や安全性を示すものではありません。
② 対照群が存在しない
非ランダム化・非比較試験であり、従来の脱感作療法より優れていることは証明されていません。
また、臓器提供の機会は、免疫学的適合性だけでなく、ドナーの供給状況や臓器配分制度などにも左右されます。
③ CAR-T単独の効果は分離できない
両患者ともCAR-T細胞投与後に血漿交換とIVIGを受けています。
血漿交換前から抗HLA抗体が減少していたことは、CAR-T療法による薬力学的作用を支持する重要な観察結果です。
しかし、その後の抗体低下や移植時点の免疫学的状態には、血漿交換・IVIGも寄与した可能性があります。
したがって、本研究だけでCAR-T療法単独の脱感作効果が確立されたとはいえません。
④ CD19とBCMAのそれぞれの寄与が不明
2種類のCAR-T細胞が同時に投与されているため、各標的の独立した治療効果は評価できません。
⑤ 長期的な移植腎生着と安全性は不明
移植後の追跡期間は症例①で12か月、症例②で7か月でした。
ドナー特異的抗体の再上昇が認められなかったことは有望ですが、慢性抗体関連型拒絶反応や長期移植腎生着率を評価するには、さらに長期間の追跡が必要です。
また、移植後の維持免疫抑制療法も抗体の再上昇を抑えるうえで寄与した可能性があります。

図:2人とも腎移植後に抗体の再上昇は認められないものの、長期的な有効性と安全性にはさらなる検証が必要。
12.移植医療・自己免疫疾患診療における臨床的意義
今回の研究が提示した最も重要な概念は、抗体が関与する疾患に対して、血液中に存在する抗体だけではなく、その産生源となる免疫細胞を標的とする戦略です。
自己免疫疾患では、B細胞や形質細胞が自己抗体を産生し、臓器障害に関与します。
一方、腎移植では、B細胞や形質細胞が産生する抗HLA抗体が移植腎の障害に関与します。
両者には、抗体産生細胞を介して組織障害が生じるという共通点があります。
ただし、自己免疫疾患では自己抗原に対する反応、移植医療では同種抗原に対する反応が中心であり、免疫学的な背景や治療目標は異なります。
今回の研究は、CAR-T細胞療法によるB細胞・形質細胞への介入が、自己免疫疾患だけでなく、同種免疫反応の制御にも応用できる可能性を示しました。
将来的には、
- CD19標的療法とBCMA標的療法の使い分け
- CAR-T療法と従来の脱感作療法の比較
- 形質細胞の表現型による治療選択
- 抗体減少の長期持続性
- 感染症リスクと免疫機能の再構築
- 移植腎の長期生着への影響
などを検討する必要があります。
こうした知見は、抗体産生細胞を標的とした次世代の免疫療法を考えるうえでも重要です。
13.臨床現場ではどのように捉えるべきか?
現時点でCD19/BCMA二重標的CAR-T療法は、高度HLA感作患者に対する確立された標準治療ではありません。
今回の試験は探索的な第1相試験であり、適応患者の選択、治療量、安全性、長期的な有効性など、今後解決すべき課題が残されています。
高度HLA感作患者の腎移植については、現行の移植腎配分制度、交差試験、既存の脱感作療法などを含め、移植専門施設で慎重に判断される必要があります。
また、腎臓病や膠原病に伴う腎障害を診療する際にも、免疫学的な病態を理解し、腎機能の悪化を早期に発見することが重要です。
特に全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患では、腎障害が進行する前から適切な疾患活動性の評価と治療介入を行う必要があります。
CAR-T細胞療法の進歩は非常に興味深いものですが、既存の腎臓病治療や膠原病治療を置き換える段階には至っていません。
まとめ
2026年のNEJMに報告された第1相試験では、高度HLA感作により腎移植が極めて困難だった2人に対し、CD19/BCMA二重標的CAR-T細胞療法を含む脱感作戦略が実施されました。
その結果、
- 2人とも抗HLA抗体が減少
- cPRAは99.998%から99.516%、99.995%から99.567%へ低下
- CAR-T投与から229日後および93日後に腎移植を実施
- 移植後12か月および7か月時点でドナー特異的抗体の再上昇なし
- 評価された腎生検では拒絶反応を認めず
- CRS・ICANSは診断されなかった一方、重度血球減少やBKウイルス血症などの安全性上の問題を認めた
ことが報告されました。
今回の結果は、抗体産生細胞そのものを標的とする治療によって、高度HLA感作患者の移植機会を拡大できる可能性を示したものです。
一方で、治療には血漿交換・IVIGが併用され、移植後も免疫抑制療法が行われています。
CAR-T単独の効果、最適な標的、安全性、長期的な移植腎生着への影響については、今後の検証が必要です。
CAR-T細胞療法は「抗体を除去する治療」から「抗体を作る免疫細胞そのものを制御する治療」への発展を示す、重要な研究領域となっています。
柏五味歯科内科リウマチクリニックからのメッセージ
腎機能の低下には、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病だけでなく、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患が関与する場合もあります。
柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科専門医・リウマチ専門医の立場から、腎機能異常や蛋白尿、血尿などの評価と、膠原病・自己免疫疾患に伴う腎障害の診療に取り組んでいます。
腎機能の異常を指摘された方や、原因の分からない関節痛、発熱、皮疹、むくみなどが続く方は、早めの医療機関への相談が重要です。
精密な腎疾患診断や腎生検、腎代替療法・腎移植の検討が必要な場合には、腎臓内科・移植専門施設と連携して適切な診療につなげることが大切です。
なお、今回紹介したCAR-T細胞療法による腎移植前脱感作は研究段階にある高度専門治療であり、当院で実施している治療ではありません。
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原著論文
Bhoj VG, Kaminski M, Zhao H, et al.
Kidney Transplantation in Two Highly Sensitized Candidates after CAR T-Cell Therapy.
New England Journal of Medicine. 2026;394:2117–2125.
DOI:10.1056/NEJMoa2513428
原著論文:https://doi.org/10.1056/NEJMoa2513428
ClinicalTrials.gov:NCT06056102
本記事は上記原著論文に基づき、臨床免疫学・腎臓病学・移植医療の観点から研究結果を解説したものです。研究段階の治療を一般診療として推奨するものではありません。

【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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