• 2026年9月7日

【NEJM2026】多枝冠動脈病変ではDAPTを1年延長すべきか?DAPT-MVD試験と歯科治療時の抗血小板薬管理を専門医が解説

多枝病変という「高い虚血リスク」に対して、アスピリン+クロピドグレルをもう1年間続ける意味

心臓を養う冠動脈の複数に動脈硬化性病変を認める多枝冠動脈病変(Multivessel Coronary Artery Disease:MVD)

カテーテル治療(PCI)によって狭くなった部分にステントを留置し、血流を回復させても、それですべての動脈硬化が消えるわけではありません。

ステントを留置した部位だけでなく、冠動脈の別の場所にも動脈硬化性プラークが存在している可能性があるため、将来の心筋梗塞などを防ぐための長期的な二次予防が重要になります。

その中心となる治療の一つが、抗血小板療法です。

2026年7月、医学誌『New England Journal of Medicine(NEJM)』に、多枝病変患者におけるDAPT延長療法を検証した大規模ランダム化比較試験、

DAPT-MVD試験

が報告されました。

この研究は、

「ステント留置から1年間、DAPTを問題なく続けることができた多枝病変患者では、その後さらに1年間DAPTを継続する意味があるのか?」

という、実臨床で非常に重要な問いを検証した研究です。


DAPT(二重抗血小板療法)とは?

血管の内側が傷ついたり、動脈硬化性プラークが破綻したりすると、血小板が集まって血栓を作ります。

これは本来、出血を止めるために必要な仕組みです。

しかし冠動脈の中で過剰な血栓が形成されると、血流が急激に遮断され、心筋梗塞などを引き起こすことがあります。

そこでPCI後には、

  • アスピリン
  • P2Y12受容体阻害薬

という異なる作用機序を持つ2種類の抗血小板薬を組み合わせることがあります。

これが、

DAPT(Dual Antiplatelet Therapy:二重抗血小板療法)

です。

たとえばアスピリンは血小板のトロンボキサンA2経路を抑え、クロピドグレルは血小板表面のP2Y12受容体を阻害します。

異なる経路を同時に抑えることで、血栓形成をより強力に抑制します。


「DAPTは全員1年間」ではありません

ここは非常に重要です。

以前はPCI後のDAPTについて「1年間」という期間が広く知られていましたが、現在は患者さんの病態によって治療期間を個別化する時代になっています。

たとえば急性心筋梗塞や不安定狭心症などの**急性冠症候群(ACS)**では、出血リスクが高くなければ12か月のDAPTが現在も基本的な治療戦略です。

一方、安定した慢性冠症候群に対してPCIを行った場合には、6か月程度を基本としながら、出血リスクや虚血リスクによって1~3か月への短縮や、逆に延長を検討します。

つまり、

「長く飲めば飲むほどよい」

わけでも、

「1年経ったら必ず1剤に減らす」

わけでもありません。

大切なのは、

血栓を起こす危険性(虚血リスク)

出血する危険性(出血リスク)

を一人ひとりで比較することです。


DAPT-MVD試験は何を調べたのか?

DAPT-MVD試験では、中国97施設において、薬剤溶出性ステント(DES)によるPCI後に12か月間DAPTを行い、その間に大きな虚血イベントや出血イベントを起こさなかった多枝冠動脈病変患者が対象となりました。

対象年齢は18~75歳。

合計8,250人が、

DAPT延長群

アスピリン+クロピドグレルをさらに12か月継続

アスピリン単剤群

クロピドグレルを終了し、アスピリン単剤へ移行

の2群に、1対1で無作為に割り付けられました。

つまりこの研究で検証されたのは、

「最初の1年間のDAPTを問題なく完遂した、多枝病変を持つ比較的安定した患者」

における延長療法です。

すべてのPCI患者にそのまま当てはめられる研究ではないことには注意が必要です。


結果① 心血管死・心筋梗塞・脳卒中が減少

主要評価項目は、

  • 心血管死
  • 非致死性心筋梗塞
  • 非致死性脳卒中

を組み合わせた心血管イベントでした。

36か月時点の累積発症率は、

DAPT延長群:5.8%

アスピリン単剤群:6.8%

でした。

ハザード比は、

HR 0.82
95%信頼区間 0.69~0.98
P=0.03

です。

すなわち、アスピリン+クロピドグレルをさらに1年間継続した群では、主要心血管イベントの相対リスクが約18%低下しました。

絶対リスク差でみると約1.0%ポイントです。


なぜ多枝病変ではDAPT延長が有効なのでしょうか?

PCIは、冠動脈の「狭くなった部分」を治療します。

しかし冠動脈疾患は、本来1か所だけの病気とは限りません。

特に多枝病変では、冠動脈全体に動脈硬化が広がっていることがあります。

そのため将来起こる心筋梗塞は、必ずしも以前ステントを入れた部分から発生するとは限りません。

別の冠動脈プラークが不安定化し、

プラーク破綻

血小板活性化

血栓形成

冠動脈閉塞

心筋梗塞

へ進むことがあります。

DAPTを延長することで、この血小板による血栓形成をより強く抑制できることが、多枝病変患者における虚血イベント減少につながった可能性があります。


結果② 出血はどうだったのか?

抗血小板薬を強化するとき、必ず考えなければならないのが出血リスクです。

血栓をできにくくする作用は、反対側から見ると「血が止まりにくくなる作用」でもあります。

DAPT-MVD試験では、主要安全性評価項目として、

BARC 2型以上の臨床的に重要な出血または大出血

が評価されました。

結果は、

DAPT延長群:1.4%

アスピリン単剤群:1.5%

で、

HR 0.89
95%信頼区間 0.61~1.30
P=0.54

でした。

つまり、この研究ではDAPTを延長しても統計学的に有意な出血増加は認められませんでした。


「出血しないことが証明された」わけではありません

ここは論文を読むうえで非常に大切です。

「有意差がなかった」という結果は、

「出血リスクが絶対に増えないことが証明された」

という意味ではありません。

95%信頼区間には一定程度のリスク増加の可能性も含まれています。

またDAPT-MVD試験の対象は、

最初の12か月間に大きな虚血イベントや出血イベントを起こさず、DAPTを問題なく継続できた患者

です。

もともと出血リスクの高い患者すべてを対象とした研究ではありません。

したがって、

「多枝病変なら全員DAPTを2年間続けるべき」

と結論づけることはできません。


DAPT-MVD試験から分かること

この研究が示した重要なポイントは、

「1年間DAPTを問題なく完遂した多枝冠動脈病変患者では、出血リスクを慎重に評価したうえで、さらに1年間DAPTを継続することが有力な治療選択肢になり得る」

ということです。

これは、現在の循環器診療で重視されている、

虚血リスクと出血リスクの個別評価

という考え方とも一致します。

多枝病変、糖尿病、過去の心筋梗塞、複雑なPCIなどは虚血リスクを高める一方、高齢、腎機能障害、貧血、過去の消化管出血などは出血リスクを高めます。

治療期間は、こうした要素を総合して決定します。


DAPTを飲んでいる患者さんが歯科治療を受けるとき

そして、もう一つ非常に重要なのが歯科治療です。

アスピリンやクロピドグレルなどを内服している患者さんが抜歯を受ける際、

「血が止まりにくくなるから薬を止めたほうがよいのでは?」

と考える方は少なくありません。

しかし、抗血小板薬を自己判断で中断することは避けなければなりません。

特に冠動脈ステント留置後の患者さんでは、薬剤中断によって血栓性イベントのリスクが高まる可能性があるためです。


多くの歯科処置では、抗血小板薬を継続したまま治療できます

現在の歯科領域のガイダンスでは、一般的な抜歯を含む多くの歯科処置について、

単剤またはDAPTを自己判断で中止せず、適切な局所止血を行いながら治療する

ことが基本的な考え方です。

出血に対しては、

  • 圧迫止血
  • 縫合
  • 局所止血材
  • 処置範囲の調整

などを組み合わせて対応できます。

重要なのは、

「出血するから薬を止める」

と単純に考えるのではなく、

出血リスクと、休薬による血栓リスクの両方を評価すること

です。


ただし「絶対に休薬しない」という意味ではありません

歯科治療でも、すべての患者さん・すべての手術で同じ対応になるわけではありません。

広範囲の口腔外科手術、非常に高い出血リスクを伴う処置、抗凝固薬を併用している場合、血小板減少や肝疾患など別の出血リスクを持つ場合には、個別の判断が必要です。

とくにDAPT中の患者さんでは、

歯科医師だけの判断で抗血小板薬を中止せず、必要に応じて処方している循環器内科医・主治医と連携する

ことが大切です。

患者さん自身が、

「抜歯だから数日薬を止めよう」

と判断することは避けてください。


医科歯科連携が重要な理由

歯科医師には、

「どの程度出血する処置なのか」

が分かります。

一方、内科・循環器側では、

「なぜこの患者さんが抗血小板薬を飲んでいるのか」

「ステント留置からどのくらい経っているのか」

「薬を中断した場合の血栓リスクはどの程度なのか」

を評価します。

この両者の情報を組み合わせることで、

血栓を防ぎながら、出血も安全にコントロールする

という治療が可能になります。


DAPTだけではありません。血管を守る治療は「総合戦」です

多枝冠動脈病変を持つ患者さんの二次予防では、抗血小板療法だけを考えていればよいわけではありません。

重要なのは、

  • LDLコレステロール
  • 血圧
  • 糖尿病
  • 喫煙
  • 肥満
  • 運動
  • 腎機能
  • 食生活

などを含めた包括的なリスク管理です。

特にLDLコレステロールや血圧を適切に管理することは、新たな動脈硬化性イベントを防ぐうえで非常に重要です。

DAPTは「血栓をできにくくする治療」。

脂質管理や血圧管理は、

そもそも血管壁が傷み、プラークが不安定化する土台を減らしていく治療

と考えると分かりやすいでしょう。


クリニックからのメッセージ

柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科専門医・リウマチ専門医、肝臓専門医が在籍し、血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病から、複数の疾患や薬剤が関係する患者さんまで、診察・検査データを総合して診療しています。

冠動脈ステント留置後の患者さんでは、抗血小板薬だけでなく、血圧、LDLコレステロール、腎機能、貧血、出血歴などを含めて評価することが重要です。

また当院は内科と歯科を併設しています。

アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を内服している患者さんが抜歯などの歯科治療を受ける場合も、安易な自己判断による休薬を避け、全身状態と歯科処置の出血リスクの双方を確認しながら治療方針を検討します。

一般的な歯科処置では抗血小板薬を継続したまま、局所止血を十分に行って治療できることが多い一方、処置内容や全身状態によっては処方医との連携が必要です。

同一施設内に医科と歯科がある利点を生かし、できる限り安全な医科歯科連携を行っています。


受診をご希望の方へ

👉 【医科】アレルギー・膠原病・リウマチ内科/総合内科/発熱外来

高血圧、脂質異常症、糖尿病などの心血管リスク管理、健診異常、胸部症状などについて診療しています。

※冠動脈疾患・ステント治療そのものの専門的管理や急性胸痛については、必要に応じて循環器専門医・連携医療機関へご紹介します。

※当院の内科は土曜日午後も17時まで診療しております。

WEB予約:
https://melmo-app.com/clinic/673d5e08785f0f0030870bdb/reservation?method=visit

👉 【歯科】根管治療・むし歯・歯周病・口腔ケア・一般歯科・有病者歯科

抗血小板薬・抗凝固薬を内服している患者さんの歯科治療についても、全身状態を確認しながら対応します。

※当院の歯科は土曜日午後14時まで診療しております。

WEB予約:
http://www.gomidental-kashiwa.com/reservation/

📞 お電話でのご予約・お問い合わせ

医科:04-7196-7531
歯科:04-7191-7081

🏥 柏五味歯科内科リウマチクリニック

〒277-0902
千葉県柏市大井764-1
大井交差点近く・駐車場完備

柏駅東口より東武バスで約15分、「大井」下車徒歩1分。


関連記事① 血液サラサラの薬を飲んでいる方の抜歯について

【歯科・口腔外科】血液サラサラの薬(抗血栓薬)は抜歯時に止めるべきか?血栓症を防ぐ継続治療と医科歯科連携の仕組み

アスピリンやクロピドグレルなどを内服している場合、「抜歯前に薬を止めるべきなのか」は非常に重要な問題です。

多くの一般的な歯科処置では抗血小板薬を継続したまま局所止血を行うことが可能ですが、薬の種類、ステント留置からの期間、処置内容、全身の出血リスクによって判断は異なります。

自己判断で休薬せず、歯科医師と処方医が連携して判断することが大切です。


関連記事② 高血圧から血管を守る

【循環器・総合内科】高血圧管理・治療ガイドライン2025から考える、生涯にわたる血管保護

多枝冠動脈病変や心筋梗塞の既往がある患者さんでは、抗血小板療法だけでなく血圧管理も重要です。

高血圧によって血管壁に加わる負荷を減らし、脂質・糖尿病・喫煙など他の危険因子も合わせて管理することで、将来の心血管イベントを減らすことを目指します。


関連記事③ 歯周病と全身の健康

【予防歯科】バイオフィルムとは?専門的口腔ケア(PMTC)と全身の健康を支える口腔管理

歯周病は口腔内だけの問題ではなく、糖尿病や心血管疾患などさまざまな全身疾患との関連が研究されています。

歯周炎では慢性的な炎症や一過性菌血症が生じることがありますが、PMTCを受ければ心筋梗塞を直接予防できる、とまでは現在の医学的エビデンスから断定できません。

一方、歯周病そのものを適切に治療し、口腔内の感染・炎症を良好にコントロールすることは重要です。

当院では、全身疾患を持つ患者さんについても医科と歯科が情報を共有しながら口腔管理を行っています。


「DAPTをいつまで飲めばよいのか?」と疑問に思ったら

「心臓にステントを入れて1年以上経ったが、血液をサラサラにする薬はいつまで続けるのだろう」

「抜歯を予定しているが、アスピリンやクロピドグレルを止めてもよいのだろうか」

という疑問を持つ方は少なくありません。

DAPT-MVD試験は、多枝冠動脈病変を持ち、ステント留置後1年間のDAPTを問題なく完遂した患者さんでは、さらに1年間DAPTを継続することによって、その後の心血管死・心筋梗塞・脳卒中を減らせる可能性を示しました。

一方で、DAPTの最適な期間はすべての患者さんで同じではありません。

虚血リスクと出血リスクを一人ひとり評価して決めることが重要です。

また、抜歯などを予定している場合にも、抗血小板薬を自己判断で中止しないでください。

処方している医師と歯科医師の双方に現在の薬を伝え、安全な治療方法を相談しましょう。


正式な引用文献

Tian J, Wang Z, Wang Y, et al.; DAPT-MVD Trial Investigators.
Extended Dual Antiplatelet Therapy for Multivessel Coronary Artery Disease.
N Engl J Med. 2026;395:233-242.
doi:10.1056/NEJMoa2517588.

【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

柏五味歯科内科リウマチクリニック

ホームページ