- 2026年10月19日
脳アミロイドアンギオパチー(CAA)|MRIで500個超の微小出血を認めた症例
記憶力の低下や歩きにくさの背景に、脳の細い血管の異常が隠れていることがあります。
脳アミロイドアンギオパチー(Cerebral Amyloid Angiopathy:CAA)は、脳の細い血管の壁にアミロイドβというタンパク質が蓄積し、血管が傷つきやすくなる病気です。
脳出血の原因として知られていますが、目立った大きな出血がなくても、記憶力の低下や歩行障害などが現れることがあります。
2026年の『New England Journal of Medicine(NEJM)』には、2年間にわたり記憶力の低下と歩行の不安定さが進行した86歳男性の症例が報告されました。
頭部MRIでは、脳の表面に近い領域を中心に、500個を超える微小出血を示唆する病変が確認されました。
本記事では、この特徴的な症例を通じて、CAAの病態、MRIによる診断、アルツハイマー病との関係、治療上の注意点について解説します。
1.症例:2年間で進行した記憶力低下と歩行障害
今回の原著で報告されたのは86歳の男性です。
患者は約2年間にわたり、徐々に進行する記憶力低下と歩行の不安定さを認め、神経内科を受診しました。
受診前に行われた頭部CTでは、軽度の脳萎縮が指摘されていました。
神経学的診察では、以下の異常が認められました。
- 歩行速度の低下
- 狭い歩隔での歩行
- 複数の認知機能検査で中等度から高度の認知機能障害
高齢者における記憶力低下では、アルツハイマー病などの神経変性疾患が重要な鑑別診断になります。
しかし、本症例ではMRIによって、通常の脳萎縮だけでは説明できない特徴的な脳血管病変が確認されました。
2.MRIで500個を超える脳微小出血を確認
本症例の診断において、最も重要だった検査は磁化率強調画像(Susceptibility-Weighted Imaging:SWI)を用いた頭部MRIです。
SWIは、血液中の鉄成分などによる磁化率の違いを利用し、通常のMRIでは確認しにくい微小な出血性病変を検出する撮像方法です。
今回のMRIでは、次の所見が認められました。
- 大脳葉領域に500個を超える低信号の円形病変
- 大脳皮質および皮質下領域を中心とする広範な分布
- 脳深部構造は相対的に保たれている
これらの低信号病変は、CAAに伴う脳微小出血(Cerebral Microbleeds:CMBs)に一致する分布を示していました。
なぜ微小出血の「場所」が重要なのか
脳微小出血は、一般に過去の微小な出血に由来する血液分解産物が局所に残存し、MRIで低信号として検出される病変です。
診断上重要なのは、その個数だけではありません。
微小出血が脳のどの領域に分布しているかが、背景にある脳小血管病の鑑別に役立ちます。
CAAでは大脳葉の皮質・皮質下領域に出血性病変が生じやすい一方、高血圧性細小血管症では大脳基底核、視床、脳幹などの深部構造に病変が生じやすい傾向があります。
ただし、実際には複数の脳小血管病が併存する場合もあり、病変分布だけですべての症例を確定診断できるわけではありません。
本症例の「500個を超える」という数は非常に印象的ですが、CAAを診断するために500個以上の微小出血が必要という意味ではありません。

図:頭部MRIの磁化率強調画像(Susceptibility-Weighted Imaging:SWI)では、大脳葉領域に500個を超える円形の低信号病変が認められ、脳深部構造は相対的に保たれていた(A、B)。これらの所見は、脳アミロイドアンギオパチー(Cerebral Amyloid Angiopathy:CAA)に特徴的な脳微小出血の分布と一致する。CAAではアミロイドβが主として大脳皮質・軟膜の小〜中径血管壁に沈着し、血管壁の脆弱化を介して微小出血や大脳葉性脳出血を生じる。本画像は、微小出血の個数だけでなく、その解剖学的分布がCAAの診断に重要であることを示している。出典: Chen S, Chen X. Cerebral Amyloid Angiopathy. N Engl J Med. 2026;394:1846. DOI: 10.1056/NEJMicm2511044. © 2026 Massachusetts Medical Society.
3.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)とは何か
CAAは、主として大脳皮質や軟膜の小・中径血管の壁に、アミロイドβ(Amyloid-β:Aβ)が沈着する脳小血管病です。
アミロイドβが血管壁に蓄積すると、血管平滑筋などの構造が障害され、血管壁の脆弱化が進むことがあります。
その結果、以下のような病態が生じます。
- 脳微小出血
- 大脳葉性脳内出血
- 皮質表在性鉄沈着
- 脳小血管の機能障害
- 白質障害や認知機能低下
CAAは高齢者で多く認められ、加齢に伴う脳血管の変化やアミロイドβの排出機構の障害との関連が研究されています。
血管壁へのアミロイド沈着がなぜ出血につながるのか
正常な脳血管は、血管内皮細胞、基底膜、平滑筋細胞などが協調し、血管の構造と血流調節を維持しています。
CAAでは、血管壁にアミロイドβが沈着することによって血管平滑筋の変性や血管壁構造の異常が生じます。
こうした変化が進行すると、血管が破綻しやすくなり、微小出血や大脳葉性脳出血につながると考えられています。
一方、CAAによる認知機能低下には、出血性病変だけでなく、血管反応性の障害や慢性的な微小循環障害なども関与すると考えられています。

図2.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)における血管壁へのアミロイドβ沈着と血管構造の変化 正常な脳血管(A)とCAAに伴う血管壁の病理学的変化(B)を比較した模式図。正常血管では血管内皮細胞、基底膜、平滑筋細胞などが血管構造を維持している。一方、CAAでは主に大脳皮質・軟膜の小〜中径血管壁にアミロイドβ(Aβ)が沈着し、血管平滑筋細胞の変性・減少や血管壁構造の障害が生じる。これらの変化は血管壁の脆弱化に関与し、脳微小出血や大脳葉性脳出血の発生につながると考えられている。※本図はCAAの一般的な病態を説明する模式図であり、NEJM原著症例の病理標本を示すものではない。
4.CAAと高血圧性脳小血管病をどのように鑑別するか
CAAと高血圧性細小血管症は、ともに脳微小出血を生じる代表的な病態です。
しかし、障害されやすい血管や微小出血の分布には違いがあります。
CAAに特徴的なMRI所見
CAAでは、大脳葉領域に限局する出血性病変が診断上重要です。
主なMRI所見には以下があります。
- 大脳葉性脳微小出血
- 大脳葉性脳内出血
- 皮質表在性鉄沈着(Cortical Superficial Siderosis:cSS)
- 大脳半球円蓋部くも膜下出血
- 半卵円中心における高度の血管周囲腔拡大
- 特徴的な多発性白質高信号病変
一方、高血圧性細小血管症では、大脳基底核、視床、脳幹などの深部穿通枝領域に微小出血がみられやすくなります。
深部病変が少ないことの意味
本症例では、500個を超える微小出血が大脳葉領域に分布し、深部構造は相対的に保たれていました。
この分布はCAAに特徴的です。
ただし、「深部構造が相対的に保たれている」という原著の記載は、深部微小出血が完全に存在しないことを必ずしも意味しません。
この点は、後述するBoston診断基準を適用する際に重要になります。

図3.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)と高血圧性細小血管症における脳微小出血の解剖学的分布 CAA(A)と高血圧性細小血管症(B)に特徴的な脳微小出血の分布を比較した模式図。CAAでは大脳皮質・皮質下白質を中心とする大脳葉領域に微小出血が分布し、基底核や視床などの深部構造は相対的に保たれる傾向がある。一方、高血圧性細小血管症では基底核、視床、脳幹などの深部穿通枝領域に微小出血が生じやすい。これらの分布の違いは脳小血管病の鑑別診断に有用であるが、両病態は併存する場合があり、分布のみで病因を確定することはできない。※本図は典型的な解剖学的分布を示した模式図であり、特定患者のMRI所見を再現したものではない。
5.CAAの診断基準:Boston criteria version 2.0
CAAは病理学的には血管壁へのアミロイドβ沈着によって定義される疾患です。
しかし、すべての患者に脳生検を行うことは現実的ではありません。
そこで臨床では、患者の症状とMRI所見を組み合わせたBoston criteriaが用いられています。
2022年に発表されたBoston criteria version 2.0では、出血性病変に加えて、特徴的な白質病変も診断に取り入れられました。
Probable CAA(CAAの可能性が高い)と判断するための主要条件
50歳以上で、自然発症の脳内出血、一過性局所神経症状、認知機能障害・認知症などの該当する臨床症状がある患者において、以下のMRI所見が重要になります。
条件A
大脳葉に限局した出血性病変が2個以上存在する。
対象となる病変には、脳内出血、脳微小出血、皮質表在性鉄沈着、円蓋部くも膜下出血などが含まれます。
条件B
大脳葉に限局した出血性病変が1個以上存在し、さらにCAAに特徴的な白質病変が1種類以上認められる。
特徴的な白質病変には、半卵円中心の高度な血管周囲腔拡大や、多発斑状の白質高信号病変があります。
これらに加えて、深部出血性病変を認めないこと、出血病変を説明するほかの原因がないことなどを確認します。
本症例は年齢、認知機能障害、大脳葉優位の多数の微小出血という点でCAAを強く示唆します。
ただし、原著には深部出血性病変の完全な除外や他疾患の網羅的な鑑別について十分な情報が記載されているわけではありません。
したがって、提示された情報だけからBoston criteria version 2.0のすべての条件を厳密に確認したと断定することは避けるべきです。
6.アミロイドPETと脳脊髄液検査:アルツハイマー病との関係
本症例では、臨床試験の一環として、さらに詳しい検査が実施されました。
アミロイドPET検査
アミロイドPETでは、大脳皮質にびまん性のアミロイド沈着が認められました。
この所見は脳内にアミロイド病理が存在することを示唆します。
ただし、アミロイドPETは血管壁のアミロイド沈着と脳実質のアミロイド斑を完全に区別できる検査ではありません。
そのため、PET陽性のみでCAAとアルツハイマー病を確実に鑑別することはできません。
脳脊髄液検査
脳脊髄液検査では、次の所見が報告されました。
- Aβ42:低下
- Aβ40:低下
- Aβ42/Aβ40比:正常
アルツハイマー病では、一般的にAβ42/Aβ40比の低下が重要なバイオマーカーとして利用されています。
一方、CAAではAβ42だけでなくAβ40も低下する場合があり、両者の比が必ずしも低下しないことがあります。
本症例の検査結果は、そのようなCAAの病態と矛盾しません。
ただし、脳脊髄液検査の結果だけでCAAを確定したり、アルツハイマー病の合併を完全に否定したりすることはできません。
CAAとアルツハイマー病は同時に存在することもある
CAAとアルツハイマー病は、いずれもアミロイドβの異常な蓄積と関連しています。
しかし、主としてアミロイドが蓄積する場所に違いがあります。
CAAでは脳血管壁への沈着が中心となる一方、アルツハイマー病では脳実質のアミロイド斑などが特徴となります。
高齢者では両者が併存することもあり、認知機能低下の原因を一つに限定せず、複数の病態を考慮する必要があります。

図4.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)とアルツハイマー病におけるアミロイドβ沈着部位の比較 CAA(A)とアルツハイマー病(B)におけるアミロイドβ(Aβ)の主な沈着部位を比較した模式図。CAAでは主に大脳皮質・軟膜の血管壁にAβが沈着し、血管壁の脆弱化や脳小血管機能障害に関与する。一方、アルツハイマー病では脳実質に細胞外アミロイド斑が形成され、神経変性病理の一部を構成する。高齢者では両病態が併存することがあり、アミロイドPET検査は血管壁と脳実質のアミロイド沈着を十分に区別できない。※本図は両疾患の代表的なアミロイド沈着パターンを示す概念図であり、実際の患者の病理標本やPET画像ではない。
7.遺伝子検査:多くのCAAは孤発性
本症例では、エクソーム解析も実施されました。
結果は、CAAに関連する既知の遺伝子変異について陰性でした。
CAAの多くは高齢者に生じる孤発性の疾患であり、明確な単一遺伝子変異を伴う遺伝性CAAは比較的まれです。
そのため、今回の遺伝子検査結果は孤発性CAAと矛盾しません。
ただし、検査で関連変異が見つからなかったことは、すべての遺伝的要因が存在しないことの証明ではありません。
また、APOEなどの遺伝的背景が孤発性CAAの発症や表現型に関与することも研究されていますが、本症例の原著ではAPOE遺伝子型は明示されていません。
8.治療と経過:診断後3年間で認知機能障害が進行
本症例では、支持療法が推奨されました。
診断後3年間の経過観察において、患者の認知機能障害はさらに進行しました。
この経過は、CAAが脳出血のみならず、進行性の認知機能障害とも関連し得ることを示す臨床例です。
ただし、単一症例であるため、認知機能低下のすべてがCAA単独によって生じたと断定することはできません。
CAAの一般的な管理方針
現時点では、孤発性CAAにおいて血管壁のアミロイド沈着を確実に除去し、疾患進行を止めることが確立された標準治療はありません。
臨床管理では、以下の点が重要になります。
血圧管理
高血圧は脳出血の重要な危険因子です。
CAAが疑われる患者では、血圧の適切な管理が重要ですが、高齢者では起立性低血圧や転倒リスクにも注意し、個別に目標を設定します。
抗血栓療法の慎重な検討
抗血小板薬や抗凝固薬の使用については、脳出血の危険性と脳梗塞・塞栓症予防の利益を慎重に比較する必要があります。
CAAが疑われるという理由だけで、必要な抗凝固療法を一律に中止することは適切ではありません。
特に心房細動などを合併する患者では、神経内科・脳卒中専門医などと連携した判断が重要になります。
認知機能・歩行機能への支援
認知機能障害や歩行障害がある患者では、日常生活機能の評価、転倒予防、リハビリテーション、介護支援などを組み合わせて対応します。
なお、以上はCAAに関する一般的な臨床管理の説明であり、本症例で実際に行われた個別治療の詳細を示すものではありません。
9.CAAを疑うべき症状と受診の目安
CAAは無症状で画像検査から疑われる場合もありますが、以下のような症状を伴うことがあります。
- 徐々に進行する記憶力や判断力の低下
- 歩行の不安定さ
- 一過性のしびれ、脱力、感覚異常など
- 突然の頭痛や神経症状を伴う脳出血
一過性局所神経症状は、CAAに関連する微小な出血性病変などに伴って生じる場合があり、脳梗塞の一過性脳虚血発作(TIA)と紛らわしいことがあります。
症状の原因によって治療方針が異なるため、専門的な鑑別が必要です。
特に、突然の片麻痺、言語障害、強い頭痛、意識障害などが現れた場合には、脳卒中の可能性を考えて救急受診が必要です。
慢性的な記憶力低下や歩行障害が進行している場合にも、脳神経内科などでの評価が重要になります。
10.この症例から学ぶ3つの重要なポイント
① CAAは大きな脳出血がなくても疑う必要がある
本症例では、進行する記憶力低下と歩行障害が主な受診理由でした。
CAAは大脳葉性脳出血の重要な原因ですが、必ずしも大きな出血を契機に発見されるとは限りません。
認知機能障害を呈する高齢者においても、背景に脳小血管病が存在する可能性を考えることが重要です。
② 微小出血の個数と分布の両方が診断に重要である
本症例では500個を超える微小出血が認められました。
しかし、診断上特に重要なのは、大脳葉優位の分布と深部構造が相対的に保たれているという特徴です。
SWIやT2*強調MRIは、こうした出血性病変を評価するうえで有用です。
③ MRI・アミロイドPET・脳脊髄液検査は、それぞれ異なる情報を示している
MRIでは脳小血管障害に伴う微小出血の分布を確認します。
一方、アミロイドPETや脳脊髄液検査は、アミロイド病理に関連する情報を補助的に提供します。
各検査の所見を総合することは重要ですが、それぞれの検査で何が分かり、何が分からないのかを理解して解釈する必要があります。
まとめ
今回のNEJM症例では、86歳男性に2年間の進行性記憶力低下と歩行障害が認められ、頭部MRIで500個を超える大脳葉優位の脳微小出血が確認されました。
さらに、アミロイドPETではびまん性の皮質アミロイド沈着が認められ、脳脊髄液検査ではAβ42・Aβ40の低下と正常な両者の比が報告されました。
遺伝子検査ではCAA関連変異が検出されず、支持療法が推奨されましたが、診断後3年間で認知機能障害は進行しました。
この症例は、CAAが単なる脳出血の原因疾患ではなく、認知機能障害とも関連する脳小血管病であることを理解するうえで重要です。
高齢者の認知機能低下を評価する際には、神経変性疾患だけでなく、MRIで検出される脳微小出血の分布にも注目する必要があります。
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一次文献・参考文献
原著症例報告
Chen S, Chen X. Cerebral Amyloid Angiopathy. N Engl J Med. 2026;394(18):1846.
Published online May 2, 2026.
DOI: 10.1056/NEJMicm2511044
https://doi.org/10.1056/NEJMicm2511044
CAAの診断基準に関する主要文献
Charidimou A, et al. The Boston criteria version 2.0 for cerebral amyloid angiopathy: a multicentre, retrospective, MRI–neuropathology diagnostic accuracy study.
Lancet Neurol. 2022;21(8):714–725.
DOI: 10.1016/S1474-4422(22)00208-3

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら
【クリニック共同監修体制】
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)(日本歯内療法学会専門医)
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