• 2026年9月4日

ICU患者(重症患者)の栄養管理法レビュー。NEJM2026。「Less is more(制限食)」の病態生理と栄養管理法。

異化の嵐が招く1日2%の筋肉喪失と「腸・肺軸」の崩壊。大規模臨床試験が証明した、早期フルカロリー投与・高タンパク質療法の有害性と胃残渣量モニター廃止

敗血症や重症感染症、大手術後、急性呼吸不全など、集中治療室(ICU)で生死の境をさまよう重症患者様の全身管理において、栄養補給は生命活動を根底から支える極めて重要な医療介入(サポーティブケア)です。かつての臨床現場では、「闘病に必要なエネルギーを補い、体力の消耗を防ぐため、早期から十分なカロリーや高用量のタンパク質を精力的に補給する(ハイパーアリメンテーション)」ことが常識とされてきました。 しかし、近年の大規模なランダム化比較試験(RCT)は、この「たくさん食べさせて体力を保つ」という良かれと思った介入が、急性期の過酷な代謝環境においてはむしろ過剰な生体内ストレスとなり、致死的な合併症(腸管壊死やリフィーディング症候群、高血糖、多臓器不全)を引き起こすという驚くべき「逆説(パラドックス)」を実証しています。

世界最高峰の医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に掲載されたレビュー論文(2026年7月9日号)は、急性期の重症患者様の体内で巻き起こる激烈な代謝の嵐と、腸管バリアの崩壊を巡る体の仕組み、そして「制限食(Less is more)」を中心とする新たな栄養療法の標準戦略を包括的に解き明かしています。

1. 異化の嵐と急速な筋肉破壊、そして「腸・肺軸」を介した多臓器不全(病態生理)

重症患者様の急性期(特にICU入室から最初の1週間)の体内では、交感神経系やサイトカインの暴走を伴う複雑な「代謝ストレス反応」が駆動しています。この時、体は生命維持に不可欠な脳や心臓へエネルギー(糖)を最優先で供給するため、強力なインスリン抵抗性を引き起こして「ストレス性高血糖」を呈するとともに、全身の筋肉(骨格筋)をアミノ酸へと強制的に分解して糖新生の材料にする「激烈な異化亢進(カタボリズム)」を開始します。重症患者様は、最初の1週間で1日あたり約2%もの骨格筋量を急速に失い、これが長期の生存者が抱える重篤な機能障害(ICU獲得性筋無力症など)を招く主原因となっています。

さらに深刻なのが「腸管バリアの崩壊(腸管機能不全)」です。全身の血流の偏り(虚血・再灌流)や過度な炎症ストレスにより、腸管の上皮細胞がアポトーシス(自死)を起こして萎縮し、細胞同士を緊密に結びつけていた結合タンパクが破壊されます。同時にお口からの食事摂取の途絶や広域抗菌薬の投与によって腸内細菌叢の劇的な乱れ(ディスバイオーシス)が生じ、通常は生体を守ってくれていた善玉菌が消え去り、病原性の強い「パトバイオーム(悪玉菌の巣)」へと変貌を遂げます。 このバリアの壊れた腸から、凶暴化した細菌やその毒素がリンパ流や血流を介して肺へと浸潤し、通常は無菌に近いとされる肺のマイクロバイオームを腸内細菌(エンテロコッカスやバクテロイデスなど)で支配してしまう「腸・肺軸(gut-lung axis)の炎症」を引き起こし、全身の多臓器不全をさらに増悪させる引き金となるのです。

2. 早期経腸栄養の原則と、安全な「制限食(trophic feeding)」への転換(栄養量)

腸管のバリア機能や細菌叢を維持するためには、お薬を点滴で入れる(静脈栄養:PN)よりも、お腹の中に直接チューブ等で栄養を届ける「早期経腸栄養(EN)」(ICU入室から24〜36時間以内)が優先されます。ENは、腸の細胞を物理的に直接刺激して血流を促し、タイトジャンクションの維持を強力にサポートするためです。

しかし、ここに「量(ドーズ)」の罠が存在します。初期の急性期に、エネルギー目標値の80〜100%を満たす「フルカロリー」を早期に投与すると、生体の同化能力を超えた代謝負荷が生じます。特に、循環動態が不安定で高用量の昇圧剤(ノルアドレナリンなど)を必要とするショック状態の患者様に対して無理にフルカロリーの経腸栄養を投与すると、血流の低下した腸管で酸素需要が急増し、致死的な「腸管壊死(腸管虚血)」の発生率が跳ね上がることがNUTRIREA-2および3試験などで証明されています。そのため、急性初期には、腸管粘膜の保護に必要な最低限の量(毎時10〜20 ml程度の持続注入)のみを投与する「栄養保護食(trophic feeding:微量経腸栄養)」や制限食(目標の約25%程度)を選択し、お薬による血糖管理(目標180 mg/dL未満)を並行しながら、炎症や異化のピークを安全にやり過ごすアプローチが現代医療の標準となっています。

3. 「高タンパク質」の幻想と急性腎障害(AKI)における有害性(タンパク量)

筋肉の喪失を防ぐために「高タンパク質(>2.0 g/kg/dayなど)」を積極的に補充するアプローチも、近年相次いで発表された超大型の臨床試験において、その優位性が完全に否定されました。1301名の重症患者様を対象としたEFFORT Protein試験、935名のPRECISE試験、そして3412名の大規模試験であるTARGET Protein試験において、高タンパク質投与群は通常の標準的なタンパク質投与(≤1.2 g/kg/day)と比較して、生存率や身体機能の改善効果を一切示しませんでした。 むしろ、急性腎障害(AKI)を合併している患者様などにおいては、過剰な窒素負荷が壊れかけた腎臓にさらなる負担をかけ、予後を悪化させる(死亡リスクや新規腎代替療法の必要性を高める)という有害なシグナルが明確に確認されています。生体の同化能が極限まで低下している急性期に、外から大量の原材料を無理に押し込んでも、窒素代謝物(尿素窒素など)となって生体を内側から汚染するだけという体の仕組みが実証されたのです。

4. 胃残渣量モニターの廃止推奨と、命を脅かす「再給餌(リフィーディング)」のサイエンス(モニタリング)

本論文は、未だに多くの医療現場で慣習的に行われている「胃の中にたまっている消化液の量(胃残渣量)をシリンジで引いて確認し、多ければ栄養を一時停止する」という日常的な管理を、科学的根拠が皆無であるとして強く否定(strongly discouraged)していました。 REGANE試験やNUTRIREA-1試験によって、胃残渣量の多寡は誤嚥や吸入性肺炎の発生率と全く無関係であることが示されており、日常的な測定はかえって必要な栄養投与を不必要に遮断し、患者様の回復を妨げる害悪にしかならないことがわかっています。

一方で、最も厳格に見守るべきなのが、極度の低栄養状態や絶食状態にあった患者様に急に栄養を投与した際に発生する「リフィーディング症候群(再給餌症候群)」です。 栄養(糖)が入ることでインスリン分泌が急上昇し、糖とともにカリウム(K)、マグネシウム(Mg)、そしてリン(P)が細胞内へドミノ倒しのように引き込まれ、血中濃度が急降下して致命的な心不全や不整脈を引き起こします。 REFEEDING試験では、低リン血症が発生した瞬間にカロリーを厳格に制限し、電解質(特にリン)をこまめに補正しながらゆっくりと段階的に増量(ramping-up)させた群のほうが、生存率が劇的に向上する(91% vs 78%)ことが実証されました。

「Less is more(過ぎたるは及ばざるがごとし)」――。重症患者様の栄養管理は、単にカロリー計算を行うだけのものではなく、ミクロな生体の代謝のゆらぎや腸の叫びを詳細に見極め、精密かつフェーズに合わせて行う、最も論理的で繊細な全身管理のアートとなっていました。

□クリニックからのメッセージ

当院では、総合内科専門医・リウマチ膠原病専門医、および肝臓専門医が在籍し、日々勉学に努めることで正確な診断・治療を行えるよう努力を積み重ねています。患者様の訴えが、どのような「体の仕組み」で起きているのかを、身体診察、綿密な血液検査や超音波スクリーニング・必要に応じてCT等から論理的に解き明かし、正確な診断ならびに安全な治療管理プログラムをご提案します。当院の内科・発熱外来は土曜日の午後も17時まで診療を行っており、平日お忙しくて精密な健康管理や検査になかなか通えない患者様でも、週末にゆとりを持って専門医によるきめ細かなフォローアップを受けていただくことが可能です。

また、全身の健康や栄養状態を最適に保つ上で、お口の中の衛生管理(歯科管理)は、見過ごされがちですが命に関わる極めて重要な「防衛ライン」です。今回のNEJM論文が示したように、身体の防御能力や代謝バランスが揺らいでいる局面(病中病後、または慢性疾患の治療中など)において、お口の中に潜む重度の歯周病やバイオフィルム(慢性炎症)は重大な脅威となります。毎日のハミガキや食事の際の些細な刺激によって、傷ついた歯周ポケットの血管から大量の口腔内細菌が血液中へと容易に侵入します(一過性菌血症)。健康な状態であれば免疫系が速やかに排除しますが、糖尿病や慢性腎臓病などの持病をお持ちの方、あるいは免疫抑制中の方や高齢の患者様などの「構造的な弱点(基質)」がある状態では、血流に乗った細菌が全身の臓器、人工関節、心臓の弁などに定着し、重症の敗血症や化膿性感染症を引き起こす直接の原因経路となります。さらに、お口の細菌を睡眠中に唾液とともに誤って肺へ吸い込むことで起きる「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」は、肺機能を急激に低下させ、ICUなどでの人工呼吸器関連肺炎(VAP)や誤嚥性肺炎を誘発する極めて危険なトリガーです。当院の歯科は土曜日午後2時(14時)まで診療を行っており、医科と歯科が同じ電子カルテのもとで緊密に連携する「医科歯科連携治療」の強みを活かし、お体の栄養・免疫状態をリアルタイムに共有しながら、プロによる徹底的なお口の清掃(PMTCによるバイオフィルム除去)を安全に実施します。お口の細菌をきれいにリセットし、全身の安全を足元から支え抜きます。原因不明のだるさや食欲低下、生活習慣病のコントロール、お口のトラブルにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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Jayshil J. Patel, and Stephen A. McClave. “Nutrition Therapy in Critically Ill Adults.” The New England Journal of Medicine. 2026; 395(2): 162-174.

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【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

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