- 2026年9月11日
【円形脱毛症の治療】ステロイドからJAK阻害薬まで|重症度・年齢・病期で選ぶ最新治療を専門医が解説
円形脱毛症(Alopecia Areata:AA)の治療は、「この薬を使えばよい」という単純なものではありません。脱毛範囲、年齢、発症からの期間、進行速度によって治療法を使い分けます。日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」では、年齢・重症度・病期の3軸で治療を考える「AA-cube」が提示されました。本記事では、ステロイド外用・局所注射、局所免疫療法、ステロイドパルス療法、紫外線療法から、重症例の治療を大きく変えたJAK阻害薬まで、現在の治療選択を体系的に解説します。
円形脱毛症は、成長期の毛包に対して免疫反応が起こる自己免疫性の脱毛症です。
そのため治療の中心は、
「毛包に向けられた過剰な免疫反応を抑え、毛包が再び正常な毛髪を作れる環境を取り戻すこと」
にあります。
ただし、軽症例では自然に毛が再生することもある一方、全頭型・汎発型などでは長期間にわたって治療を必要とする場合があります。
したがって、円形脱毛症では脱毛面積だけでなく、年齢・病期・進行速度・これまでの治療歴まで含めて治療を選択することが重要です。
日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」では、ステロイド局所注射・ステロイド外用・JAK阻害薬などには強い推奨が与えられています。一方、従来から行われてきた治療の中には、エビデンスが限られているものもあります。
円形脱毛症の治療は「AA-cube」で考える
2024年版ガイドラインでは、円形脱毛症の治療選択を理解するためにAA-cubeという考え方が紹介されています。
AA-cubeでは、
- 年齢
- 重症度
- 病期
という3つの軸から治療を考えます。
例えば、
成人で小さな脱毛斑が数個だけある場合
と、
12歳の患者さんで頭髪の半分以上が長期間脱毛している場合
と、
成人で数週間のうちに急速に頭髪が抜け続けている場合
では、適切な治療は同じではありません。
ガイドラインでは、例えば、
- 局所免疫療法:比較的幅広い年齢・慢性期・広めの脱毛範囲
- ステロイドパルス療法:成人・急性期・広範囲
- JAK阻害薬:重症・難治・慢性経過
といった位置づけが示されています。
つまり、「どの薬が一番強いか」ではなく、「今の患者さんの状態にどの治療が最も合っているか」を考えることが円形脱毛症治療の基本です。

軽症の円形脱毛症―まず検討される治療
脱毛斑が小さく、数も限られている場合には、局所治療が中心になります。
ステロイド外用療法
ステロイド外用薬は、円形脱毛症に対して世界的にも広く行われている治療です。
頭皮にステロイドを塗布することで、毛包周囲に起きている免疫反応や炎症を抑えることを目的とします。
日本皮膚科学会ガイドラインでは、ステロイド外用療法は推奨度1(強い推奨)とされています。
特に、
- 小児
- 比較的軽症の成人
- 脱毛範囲が限定的
な場合に使用しやすい治療です。
一方で、長期間・広範囲に強力なステロイドを使用すると、
- 皮膚萎縮
- 毛細血管拡張
- 毛包炎
などが生じる可能性があります。
薬の強さ、塗布範囲、期間を調整しながら治療します。

ステロイド局所注射―成人の限局型で効果の高い治療
脱毛斑が数個程度に限られている成人では、ステロイド局所注射が重要な選択肢です。
脱毛部位にステロイドを直接少量ずつ注射し、毛包周囲の免疫反応を抑えます。
2024年版ガイドラインでは、
「単発型および多発型の成人症例に行うよう勧める」
として推奨度1、エビデンスレベルBとされています。
特に、脱毛斑が比較的小さい患者さんでは、外用薬より強い局所効果が期待できます。
一方、
- 注射時の痛み
- 出血
- 注射部位の皮膚萎縮
などに注意が必要です。
また、脱毛範囲が非常に広い場合には、多数の注射が必要となるため現実的ではありません。
激しい疼痛による精神的苦痛や局所萎縮のリスクがあるため、原則として小児には積極的には行われません。

局所免疫療法―広い脱毛にも使用される特殊な治療
局所免疫療法は、円形脱毛症に特徴的な治療法です。
SADBE(squaric acid dibutylester)やDPCP(diphenylcyclopropenone)などの物質を頭皮に塗布し、あえて軽いアレルギー性接触皮膚炎を起こすことで、毛包を攻撃している免疫反応を変化させる治療です。
一見すると、
「炎症を起こして治療する」
ため不思議に感じるかもしれません。
AAでは毛包へ向いている免疫反応がありますが、別の免疫反応を皮膚表面に誘導することで、その免疫環境を変化させることが治療機序の一つと考えられています。
ガイドラインでは推奨度2(弱い推奨)ですが、長い治療実績があり、広範囲のAAにも使用されます。
一方、
- 強いかぶれ
- 水疱
- リンパ節腫脹
- 色素沈着
- アトピー性皮膚炎の悪化
などが起こることがあります。
適切な濃度調整と皮膚科での管理が重要です。

急速に広がる円形脱毛症―ステロイドパルス療法
数週間から数か月の間に急速に脱毛が広がる場合には、ステロイドパルス療法が検討されることがあります。
通常は入院またはそれに準じた管理下で、大量のステロイドを短期間静脈投与します。
狙いは、活動性の高い免疫反応を早い段階で一気に抑えることです。
AA-cubeでも、
成人 × 急性期 × 広範囲
が比較的よい適応として位置づけられています。
ただし、慢性化した全頭型・汎発型に対して同じような効果が期待できるとは限りません。
またステロイドですので、
- 感染症
- 血糖上昇
- 血圧上昇
- 不眠・精神症状
- 消化器症状
などにも注意が必要です。
ガイドラインでは推奨度2となっています。

ステロイド内服療法
ステロイド内服でも免疫反応を強力に抑えることができます。
しかし、AAは長期間の治療が必要となることも多く、ステロイドを減量・中止すると再び脱毛が進行する場合があります。
長期投与では、
- 感染症
- 骨粗鬆症
- 糖尿病
- 高血圧
- 白内障・緑内障
- 副腎抑制
など全身性副作用が問題になります。
そのため、漫然と長期間投与する治療ではなく、病期や進行速度を考えて慎重に使用します。
2024年版ガイドラインでは推奨度2です。
紫外線療法
エキシマライト/エキシマレーザー、narrow-band UVBなどの紫外線療法もAA治療の選択肢です。
紫外線には皮膚の局所免疫反応を調節する作用があります。
急速に進行している急性期を直ちに止める治療というより、AA-cubeでは比較的慢性で、中等症程度までの患者さんで検討しやすい位置づけです。
ガイドラインでは推奨度2です。
一方、スーパーライザーやLED、低出力レーザーなど、紫外線療法以外のいわゆる光線・レーザー療法については、現時点では十分な根拠がなく推奨しないとされています。
重症円形脱毛症の治療を大きく変えたJAK阻害薬
近年、円形脱毛症治療でもっとも大きな変化をもたらしたのがJAK阻害薬です。
円形脱毛症では、毛包周囲で、
IFN-γ → JAK-STATシグナル → IL-15 → 細胞傷害性T細胞
という免疫回路が形成されています。
JAK阻害薬は、この炎症シグナル伝達を細胞内で遮断することで、毛包を攻撃する自己免疫反応を抑えます。
2024年版ガイドラインでは、広範囲に及ぶ難治性AAに対する経口JAK阻害薬等について、推奨度1、エビデンスレベルAとされています。

現在、日本で円形脱毛症に使用できる代表的な経口薬は、
- バリシチニブ(オルミエント®)
- リトレシチニブ(リットフーロ®)
です。
バリシチニブ(オルミエント®)
バリシチニブは、主にJAK1/JAK2を阻害する薬剤です。
BRAVE-AA1、BRAVE-AA2という大規模第3相臨床試験によって、重症AAに対する発毛効果が示されました。
ガイドライン策定時には成人治療が中心でしたが、現在の日本の添付文書では、
成人および12歳以上かつ体重30 kg以上の小児
に使用可能です。
円形脱毛症については、原則として、
治療開始時に頭髪の概ね50%以上が脱毛しており、過去6か月程度に自然再生が認められない難治例
が対象となります。
通常4 mgを1日1回使用し、患者さんの状態に応じて2 mgへ減量します。
リトレシチニブ(リットフーロ®)
リトレシチニブはJAK3およびTECファミリーキナーゼを標的とする薬剤です。
ALLEGRO試験では、重症AAに対する発毛効果が示されました。
日本では、
成人および12歳以上の小児
に50 mgを1日1回投与します。
こちらも、
頭部全体のおおむね50%以上に脱毛があり、過去6か月程度自然再生が認められない難治性AA
が基本的な対象です。
つまり現在は、重症AAに対して12歳以上からJAK阻害薬という選択肢を検討できる時代になっています。


JAK阻害薬は「飲めばすぐ治る薬」ではありません
JAK阻害薬は非常に大きな治療進歩ですが、いくつか重要な点があります。
第一に、効果判定には時間がかかります。
バリシチニブでは通常36週程度、リトレシチニブでは48週程度まで経過をみて治療反応を評価します。
数週間飲んで毛が生えないからといって、直ちに無効とは判断できません。
第二に、これらはAAそのものを永久に消し去る薬ではありません。
治療によって免疫反応が抑えられて発毛しても、治療中止後に再び脱毛することがあります。
ガイドラインも、治療中止後の再発があり得ることを重要な注意点として挙げています。
JAK阻害薬では感染症などの安全管理が重要
JAK阻害薬は免疫反応を調節するため、安全管理が不可欠です。
治療前には、患者さんの状態に応じて、
- 結核
- B型肝炎
- C型肝炎
- 血算
- 肝機能
- 腎機能
- 脂質
- ワクチン歴
などを確認します。
治療中には、
- 重篤な感染症
- 帯状疱疹
- 血球減少
- 肝機能異常
- 血栓塞栓症
- 悪性腫瘍
- 心血管イベント
などに注意が必要です。
日本皮膚科学会では、AAに対するJAK阻害薬について安全使用マニュアルと施設要件を定めています。2026年6月にはバリシチニブの安全使用マニュアルも改訂されています。
したがって、
「脱毛が多いからとりあえずJAK阻害薬を使う」
という治療ではありません。
正確な診断、適応評価、感染症リスクの確認、治療効果と安全性の継続的評価が必要です。

抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、特にアトピー性皮膚炎やアレルギー疾患を合併したAA患者さんで使用されることがあります。
AAそのものに対するエビデンスはJAK阻害薬やステロイド局所注射ほど強くありません。
ガイドラインでは推奨度2です。
アトピー性皮膚炎などを同時に治療する目的も含め、患者さんごとに使用を判断します。
セファランチン・グリチルリチン配合剤など
日本では従来から、
- セファランチン
- グリチルリチン・グリシン・メチオニン配合錠
- カルプロニウム塩化物外用液
などがAAに使用されてきました。
ガイドラインではいずれも推奨度2です。
長い使用経験がありますが、現在のエビデンスの強さという点では、ステロイド局所注射やJAK阻害薬とは異なります。
補助的治療として位置づけるのが適切です。
ミノキシジルは円形脱毛症にも効く?
ミノキシジルはAGA(男性型脱毛症)や女性型脱毛症でよく知られた薬です。
AAでも外用療法が補助的に用いられることがありますが、自己免疫反応そのものを抑える薬ではありません。
2024年ガイドラインでは、
ミノキシジル外用:推奨度2
です。
一方、
ミノキシジル内服:推奨しない
とされています。
したがって、いわゆる「飲むミノキシジル」をAA治療目的で安易に使用することは推奨されません。
現時点で推奨されない治療
2024年版ガイドラインでは、十分な有効性を裏付けるエビデンスや安全性が確立していないことなどから、以下は原則として推奨しないとされています。
- ミノキシジル内服
- シクロスポリン
- メトトレキサート
- 生物学的製剤(デュピルマブを含む)
- 漢方薬
- 抗うつ薬・抗不安薬をAA治療目的で使用すること
- タクロリムスなど免疫抑制外用薬
- プロスタグランジン外用
- 催眠療法・心理療法を発毛治療として用いること
- PRP療法
- スーパーライザー・低出力レーザーなど
です。
ここで注意したいのは、「推奨しない=絶対に効かない」ではないことです。
現時点で、有効性・安全性・エビデンスの質を考えたときに、標準治療として積極的に勧められるだけの根拠が不足しているという意味です。

ウィッグも「治療」の一部です
AAの治療というと薬だけを考えがちですが、日本皮膚科学会ガイドラインではかつら・ウィッグの使用は推奨度1です。
これは非常に重要です。
円形脱毛症では、脱毛の程度と患者さんの精神的負担が必ずしも一致しません。
眉毛や前頭部など目立つ部分の脱毛だけでも、
- 学校へ行きづらい
- 人前に出るのが怖い
- 仕事に集中できない
- 周囲の視線が気になる
など大きな影響を受けることがあります。
ウィッグ、帽子、眉毛のカモフラージュなどのアピアランスケアも医学的に重要な治療の一部です。

「自然に治ることもある」からこそ治療選択が難しい
軽症の円形脱毛症では、治療を行わなくても自然に発毛する場合があります。
一方で、
- 脱毛範囲が広い
- 長期間持続している
- 全頭型・汎発型
- 蛇行型
- 爪病変を伴う
- 若年発症
- アトピー素因を伴う
などの場合には、難治化する可能性があります。
そのため、
自然回復を待つべきなのか、早期に積極的治療を始めるべきなのか
を一律に決めることはできません。
患者さんごとの病勢と将来リスクを評価することが重要です。
円形脱毛症の治療で重要なのは「早く強い薬を使うこと」ではない
現在はJAK阻害薬の登場によって、重症AAに対して以前には考えられなかったほど高い発毛効果を期待できる時代になりました。
しかし、
最も新しい薬=すべての患者さんに最もよい薬
ではありません。
限局した脱毛斑であればステロイド局所注射が合理的な場合があります。
小児や軽症例では外用療法が適している場合があります。
急速進行期ではステロイドパルスが検討される場合があります。
慢性広範囲例では局所免疫療法やJAK阻害薬が選択肢になります。
だからこそ、
年齢 × 重症度 × 病期
というAA-cubeの考え方が重要なのです。

円形脱毛症はどこで治療する?
小さな脱毛斑であっても、
- 急速に拡大している
- 複数箇所に増えている
- 眉毛や睫毛も抜けている
- 頭髪の半分以上が脱毛している
- 半年以上ほとんど発毛しない
- 爪にも変化がある
- 小児に発症した
場合には、皮膚科での専門的評価をおすすめします。
特にJAK阻害薬を検討する重症例では、日本皮膚科学会が定めた要件を満たす施設での治療が必要です。
クリニックからのメッセージ
円形脱毛症は、毛包を標的とする自己免疫疾患です。
一方で、患者さんによっては、
- アトピー性皮膚炎
- アレルギー性鼻炎
- 甲状腺疾患
- 尋常性白斑
- SLE
- 関節リウマチ
などを合併することがあります。
当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医および肝臓専門医が在籍し、脱毛だけを見るのではなく、必要に応じてアレルギー素因・甲状腺機能・自己免疫疾患など全身的な背景を「点ではなく線」で評価することを大切にしています。
一方、円形脱毛症そのもののトリコスコピーによる専門的評価、局所免疫療法、JAK阻害薬導入などについては、治療内容に応じて皮膚科専門医・専門施設との連携が必要です。
「円形脱毛症なのか分からない」
「急速に脱毛が広がっている」
「脱毛だけでなく、関節痛や倦怠感など全身症状がある」
「甲状腺疾患や自己免疫疾患がないか心配」
といった場合には、全身評価も含めてご相談ください。

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参考文献
- 日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン策定委員会. 円形脱毛症診療ガイドライン2024. 日本皮膚科学会雑誌. 2024;134(10):2491-2526.
- King B, Ohyama M, Kwon O, et al. Two Phase 3 Trials of Baricitinib for Alopecia Areata. N Engl J Med. 2022;386:1687-1699.
- King B, Zhang X, Harcha WG, et al. Efficacy and Safety of Ritlecitinib in Adults and Adolescents with Alopecia Areata: ALLEGRO Phase 2b/3 Trial. Lancet. 2023;401:1518-1529.
- PMDA. オルミエント®添付文書. 2026年7月改訂.
- PMDA. リットフーロ®添付文書.
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【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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