• 2026年11月7日

HSV-1感染による再発性多形紅斑|口腔びらんと手掌・足底の標的状紅斑【NEJM 2026】

はじめに|口内炎と手足の発疹が同時に現れたら

口の中に痛みを伴う潰瘍ができ、同時に手のひらや足の裏に赤い発疹が現れる。

このような症状がみられた場合、単なる口内炎や湿疹ではなく、感染症をきっかけとした免疫反応によって皮膚と粘膜に炎症が起きている可能性があります。

その代表的な疾患の一つが「多形紅斑(Erythema Multiforme:EM)」です。

多形紅斑は、中心部と周辺部で色調が異なる「標的状紅斑(target lesion)」を特徴とする急性の免疫介在性皮膚粘膜疾患です。

単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)感染との関連が知られ、ときに再発を繰り返します。

2026年5月7日発行の『New England Journal of Medicine(NEJM)』には、発熱、口腔粘膜びらん、手掌・足底の標的状紅斑を呈した22歳男性の症例が報告されました。

口唇病変からHSV-1が検出され、HSV感染に関連した多形紅斑と診断されています。

本記事では、この画像症例をもとに、多形紅斑の特徴的な臨床所見、発症機序、鑑別診断、再発予防について解説します。

1.症例|発熱、口腔びらん、手足の標的状紅斑を呈した22歳男性

患者は、これまで特記すべき健康上の問題がなかった22歳男性です。

5日前から、手、足、口腔内に痛みを伴う皮膚粘膜病変が出現し、発熱と全身倦怠感を伴ったため救急外来を受診しました。

患者には、約2か月前にも同様の症状が出現した既往がありました。

来院時の体温は39.1℃でした。

身体診察では、以下の所見が認められました。

口腔・口唇の所見

  • 口唇に出血性痂皮(血液を含むかさぶた)
  • 右口角の潰瘍
  • 舌、口蓋、頬粘膜の浅いびらん

口腔粘膜の病変は疼痛を伴い、飲食に支障を来していました。

手掌・足底の所見

手掌と足底には、中心部に小水疱を伴う標的状紅斑が認められました。

標的状紅斑は多形紅斑を疑う重要な所見です。

皮疹の中心部と周辺部で色調や形態が異なり、同心円状の外観を呈します。

この症例では、中心部の小水疱が特徴的でした。

HSV-1関連多形紅斑の22歳男性。口唇の出血性痂皮と口腔粘膜びらん、手掌の中心部に小水疱を伴う標的状紅斑。

図説:22歳男性に認められたHSV-1関連多形紅斑の臨床所見。Panel Aでは、口唇の出血性痂皮、右口角の潰瘍、舌および口腔粘膜のびらんを認める。Panel Bでは、手掌に中心部の小水疱を伴う標的状紅斑がみられる。患者は39.1℃の発熱を伴い、約2か月前にも同様の症状を経験していた。口唇潰瘍から採取した検体のPCR検査でHSV-1が検出された。

検査所見

口唇潰瘍から採取した検体のPCR検査で、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が陽性となりました。

一方、HIV感染症および梅毒の検査は陰性でした。

特徴的な皮膚粘膜所見、再発歴、HSV-1の検出を総合して、HSV感染に関連した多形紅斑と診断されました。

なお、口唇病変からのHSV-1検出は関連するHSV感染の存在を支持しますが、それだけで多形紅斑の免疫学的発症機序を直接証明するものではありません。

2.多形紅斑とはどのような病気か

多形紅斑は、皮膚や粘膜に急性の炎症性病変が生じる免疫介在性疾患です。

皮疹は四肢の末端に現れやすく、左右対称に分布することがあります。

特に手背、手掌、足背、足底などに出現する標的状紅斑は、診断上重要な手がかりとなります。

特徴的な標的状紅斑

典型的な標的状紅斑では、同心円状に異なる3つの領域がみられます。

  • 中央:暗赤色、紫紅色、または水疱・びらんを伴う領域
  • 中間:比較的淡い浮腫性の領域
  • 外側:赤色の炎症性輪状領域

ただし、すべての皮疹で明瞭な3層構造が確認できるわけではありません。

病変の発症時期や炎症の程度によって形態は変化します。

粘膜病変を伴うこともある

多形紅斑では、皮膚だけでなく口腔粘膜にびらんや潰瘍が生じることがあります。

粘膜病変が強い場合、口唇の出血性痂皮、口腔内の疼痛、嚥下時痛、飲水困難などが問題となります。

今回の症例では、口腔粘膜病変が強く、経口摂取時の不快感が治療選択に影響しました。

3.HSV感染が多形紅斑を引き起こす仕組み

多形紅斑の誘因として重要なのが、単純ヘルペスウイルス感染です。

HSVには主に1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があり、口唇や口腔周囲のヘルペスではHSV-1がよくみられます。

HSV感染に関連した多形紅斑は、ウイルスが皮膚全体に直接感染して水疱を形成する病態とは異なります。

HSV感染を契機として宿主の免疫反応が活性化し、その結果として皮膚や粘膜に炎症性障害が生じると考えられています。

HSV-1感染や再活性化を契機に細胞性免疫応答が生じ、皮膚・粘膜の炎症性障害を通じて標的状紅斑と口腔粘膜びらんが現れると考えられる病態模式図。

図説:HSV感染に関連した多形紅斑の発症機序を示す概念図。HSV感染または再活性化を契機として、ウイルス関連抗原に対する細胞性免疫応答が誘導され、皮膚・粘膜に炎症性障害が生じると考えられている。T細胞を介した炎症や表皮細胞障害が病態に関与することが示唆されているが、詳細な分子機序には未解明の部分がある。本図は既存の免疫学的研究に基づく模式図であり、今回のNEJM症例で各経路の活性化が直接証明されたものではない。

HSV関連多形紅斑の免疫学的機序

HSV関連多形紅斑では、ウイルス由来抗原に関連した細胞性免疫応答が病態に関与すると考えられています。

従来の研究では、皮膚病変におけるHSV由来DNA断片の検出や、T細胞を介した炎症応答が報告されています。

これらの知見から、HSV関連抗原に対する免疫応答が表皮細胞障害を引き起こす機序が提唱されています。

ただし、多形紅斑のすべての症例に共通する単一の分子機序が確立しているわけではありません。

今回のNEJM症例でも、皮膚組織における免疫細胞の解析やHSV由来DNAの検出が示されたわけではありません。

したがって、HSV関連多形紅斑の発症機序は、既存の基礎研究に基づく病態モデルとして理解する必要があります。

なお、口唇ヘルペスの潜伏感染、再活性化、抗ウイルス薬による治療については、当院の関連記事「口唇ヘルペス(熱の華)の原因と早く治すための正しい対処法」でも解説しています。

4.多形紅斑とStevens–Johnson症候群の違い

多形紅斑を診断する際に重要なのが、Stevens–Johnson症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)との鑑別です。

これらは皮膚粘膜病変を呈するという共通点がありますが、現在では多形紅斑とSJS/TENは基本的に異なる疾患群として扱われています。

多形紅斑を示唆する所見

  • 手足など四肢末端を中心とする皮疹
  • 典型的な標的状紅斑
  • HSV感染との関連
  • 同様の皮疹を繰り返す病歴
  • 皮膚病変が比較的限局していることが多い

SJS/TENを疑う所見

  • 広範囲に及ぶ疼痛性の紅斑や水疱
  • 非典型的な標的状病変や紫紅色斑
  • 体幹優位の病変
  • 表皮の剥離や壊死
  • 眼、口腔、外陰部などの重度の粘膜障害
  • 新たに開始した薬剤との時間的関連

SJS/TENは生命を脅かすことがある重症の皮膚粘膜障害であり、速やかな診断と専門的な管理が必要です。

ただし、発熱や口腔粘膜病変の有無だけで多形紅斑とSJS/TENを区別することはできません。

今回の患者も39.1℃の発熱と出血性口唇病変を呈していました。

診断には、皮疹の形態、分布、進行速度、薬剤歴、感染歴、粘膜障害の範囲などを総合的に評価する必要があります。

判断が難しい場合は、皮膚科による評価や皮膚生検を検討します。

マイコプラズマ感染関連粘膜皮膚疾患との鑑別

口腔粘膜のびらんを伴う疾患として、Mycoplasma pneumoniae感染に関連した粘膜皮膚疾患も重要です。

現在はMIRM(Mycoplasma pneumoniae-induced rash and mucositis)や、より広い概念としてRIME(reactive infectious mucocutaneous eruption)という用語が用いられます。

これらでは、口腔・眼・外陰部などの粘膜障害が目立つ一方、皮膚病変が比較的少ない場合があります。

先行する発熱、咳嗽、肺炎などの呼吸器症状が診断の手がかりになります。

実際のNEJM画像症例については、「マイコプラズマ感染およびマイコプラズマ誘発性発疹・粘膜疹」でも解説しています。

今回の症例は、手掌・足底の典型的な標的状紅斑とHSV-1検出が、多形紅斑の診断を支持しました。

5.再発性多形紅斑の治療とHSV感染への対応

多形紅斑の治療では、病変の重症度、粘膜障害の程度、誘因となる感染症などを評価します。

軽症例では対症療法が中心

軽症の多形紅斑では自然軽快することもあり、症状に応じた支持療法が中心になります。

皮膚症状には外用ステロイドや抗ヒスタミン薬などを検討し、口腔粘膜の疼痛が強い場合には、局所的な疼痛管理、口腔ケア、水分・栄養摂取の維持が重要になります。

HSV関連の再発例では抗ウイルス薬を検討

HSV感染に関連した多形紅斑では、再発を繰り返すことがあります。

特に再発性HSV関連多形紅斑では、アシクロビルなどの抗ウイルス薬を継続投与することで、再発頻度を減らせる可能性があります。

過去の小規模な無作為化比較試験では、再発性多形紅斑の患者20例を対象に、アシクロビル400 mgを1日2回、6か月間投与する方法が評価されました。

その結果、プラセボ群と比較して多形紅斑の再発が有意に減少しました。

ただし、再発予防に関する無作為化比較試験のエビデンスは限定的であり、投与期間や対象患者の選択には個別の判断が必要です。

全身性ステロイドの位置づけ

口腔粘膜障害が強く、飲食が困難な場合などには、全身性グルココルチコイドが使用されることがあります。

しかし、急性期多形紅斑に対する全身性ステロイドの有効性については、質の高い比較試験による確実な裏付けが十分ではありません。

そのため、すべての多形紅斑患者に全身性ステロイドを投与するわけではありません。

特に活動性感染症を伴う場合には、感染の評価と治療を並行して行う必要があります。

6.今回のNEJM症例の治療経過

今回の患者では、口腔粘膜病変によって経口摂取が障害されていました。

そのため、全身性グルココルチコイドが投与され、同時にHSVに対する抗ウイルス療法が行われました。

抗ウイルス薬は治療目的で使用された後、再発予防を目的とした投与に移行しました。

受診から3週間後には、口腔粘膜病変と手掌の皮疹が軽快し、その時点までに再発は認められませんでした。

原著では、使用されたステロイドや抗ウイルス薬の具体的な薬剤名、投与量、投与期間は示されていません。

また、3週間後の改善は治療経過として重要ですが、単一症例であるため、ステロイドと抗ウイルス薬のそれぞれが改善にどの程度寄与したかを判断することはできません。

長期的な再発予防効果についても、今回の観察期間のみから結論づけることはできません。

HSV-1関連多形紅斑の治療3週間後。口唇・口腔粘膜のびらんと手掌の標的状紅斑が軽快した状態。

図説:治療開始から3週間後の皮膚粘膜所見。Panel CおよびDでは、初診時に認められた口腔粘膜病変と手掌の標的状紅斑が軽快している。患者には、経口摂取時の不快感に対して全身性グルココルチコイドが投与され、HSVに対する治療的抗ウイルス療法に続いて予防的抗ウイルス療法が行われた。3週間後の時点では再発を認めなかったが、長期的な再発予防効果については評価できない。

7.この症例から学ぶ臨床上のポイント

① 皮膚と粘膜を一緒に観察する

口腔内のびらんや口唇の出血性痂皮を認めた場合、口腔内だけで診断を完結させず、手掌・足底を含めた全身の皮膚所見を確認することが重要です。

今回の症例では、手掌・足底の標的状紅斑が診断に大きく寄与しました。

② 再発歴からHSV関連多形紅斑を考える

多形紅斑が繰り返し出現する場合には、HSV感染との関連を検討します。

口唇ヘルペスの既往、皮疹出現前の口唇症状、再発の頻度などを確認することが診断の助けになります。

HSV感染が明らかでない場合にも、病歴や皮疹所見に応じた検査を検討します。

③ 標的状紅斑の形態が鑑別に役立つ

「標的状」という言葉だけでは、多形紅斑とSJS/TENを十分に区別できません。

典型的な3層性の標的状紅斑なのか、非典型的な平坦な標的状病変なのか、どこに分布しているのかが重要です。

④ 粘膜障害の重症度を評価する

多形紅斑では、皮膚病変の範囲が限られていても、口腔粘膜の疼痛によって飲水や食事が困難になることがあります。

脱水、栄養摂取障害、疼痛の程度を評価し、必要に応じて入院管理を検討します。

眼症状、急速に進行する皮膚剥離、広範囲の粘膜障害などがある場合には、SJS/TENを含む重症疾患の評価が優先されます。

まとめ|口腔びらんと標的状紅斑からHSV関連多形紅斑を見抜く

今回のNEJM症例は、22歳男性に発熱、口腔粘膜びらん、手掌・足底の標的状紅斑が出現し、HSV-1感染に関連した多形紅斑と診断された症例でした。

多形紅斑では、特徴的な皮疹の形態と分布、粘膜症状、感染歴、再発歴を組み合わせて診断することが重要です。

特にHSV関連多形紅斑では再発を繰り返すことがあり、抗ウイルス薬による予防的治療が選択肢になります。

一方、重篤な皮膚粘膜病変を呈するSJS/TENとの鑑別は不可欠です。

本症例は、皮膚と粘膜の所見を全身的に評価することの重要性を示しています。

口内炎と発疹が同時に現れた場合はご相談ください

口の中に痛みを伴う潰瘍ができ、手足に赤い発疹が現れた場合には、感染症や免疫反応が関係していることがあります。

特に発熱を伴う場合や、同じような症状を繰り返す場合には、原因を詳しく調べることが大切です。

柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科・リウマチ膠原病・アレルギーの診療を通じて、皮膚症状と全身症状を総合的に評価しています。

必要に応じて皮膚科などの専門医療機関とも連携し、適切な診断・治療につなげます。

なお、皮膚が急速に剥がれる、眼の痛みや充血が強い、水分が取れないなどの症状がある場合には、重症の皮膚粘膜疾患の可能性があるため、速やかな救急受診が必要です。

あわせて読みたい関連記事

① 口唇ヘルペス(熱の華)の原因と早く治すための正しい対処法

単純ヘルペスウイルスの潜伏感染と再活性化、口唇ヘルペスの特徴的な症状、抗ウイルス薬による治療について解説しています。

今回のNEJM症例ではHSV-1感染が多形紅斑の誘因と考えられました。口唇ヘルペスそのものと、HSV感染を契機として生じる免疫介在性の多形紅斑との違いを理解するうえで役立つ記事です。

② マイコプラズマ感染およびマイコプラズマ誘発性発疹・粘膜疹

マイコプラズマ感染を背景に、口唇の出血性痂皮、口腔潰瘍、皮疹、結膜炎などを呈したNEJM画像症例を紹介しています。

多形紅斑、感染関連粘膜皮膚疾患(MIRM/RIME)、SJS/TENは、いずれも口腔粘膜障害を呈することがあり、臨床的な鑑別が重要です。

今回のHSV関連多形紅斑と比較することで、感染症を契機とした皮膚粘膜反応の多様性を理解できます。

③ ドライマウス(口腔乾燥症)の原因と全身疾患との関係

口腔粘膜の健康を維持する唾液の働きや、口腔乾燥の背景にある全身疾患について解説しています。

今回の症例は急性の口腔粘膜びらんを呈したもので、口腔乾燥症とは病態が異なりますが、口腔症状を局所的な問題だけでなく、全身疾患の一部として評価する重要性を考えるうえで関連する記事です。

一次文献・参考文献

原著論文

Pereira Amaral I, Antunes J. Erythema Multiforme. N Engl J Med. 2026;394:e36.

DOI: 10.1056/NEJMicm2517901

https://doi.org/10.1056/NEJMicm2517901

再発性多形紅斑に対するアシクロビルの臨床試験

Tatnall FM, Schofield JK, Leigh IM. A double-blind, placebo-controlled trial of continuous acyclovir therapy in recurrent erythema multiforme. Br J Dermatol. 1995;132:267–270.

DOI: 10.1111/j.1365-2133.1995.tb05024.x

https://doi.org/10.1111/j.1365-2133.1995.tb05024.x

多形紅斑の治療に関するシステマティックレビュー

Interventions for erythema multiforme: a systematic review.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30680804

国内ガイドライン

日本皮膚科学会.重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.

https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/EM%20major%281%29.pdf

重症多形滲出性紅斑診療ガイドライン策定委員会.重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン補遺2025.日本皮膚科学会雑誌.2025;135:701–714.

https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/SJSTEN2025.pdf

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら

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■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)(日本歯内療法学会専門医)

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