- 2026年11月7日
高リスクPCIにImpellaは有効か?CHIP-BCIS3試験が示した左室アンローディングの効果と限界
はじめに
心臓の血管である冠動脈が狭くなったとき、カテーテルで血管を広げる治療をPCI(経皮的冠動脈インターベンション)と呼びます。
心臓のポンプ機能が大きく低下し、冠動脈の病変も複雑な患者さんでは、治療中に血圧が下がるなどの危険があります。そのため、心臓の血液の送り出しを補助する小型ポンプ「Impella(インペラ)」を、治療前から使用する方法が選ばれることがあります。
しかし、循環を補助できることが、そのまま長期の死亡や入院を減らすことにつながるとは限りません。
2026年にNew England Journal of Medicineに掲載されたCHIP-BCIS3試験では、重度の左室機能低下と広範な冠動脈疾患を持つ300人を対象に、Impella CPを予定して使用する方法と、予定した補助循環を用いないPCIを比較しました。
主要評価項目ではImpella CPの優越性は示されませんでした。心血管死がポンプ群で多いという結果も認められ、予防的使用の適応を慎重に考える必要性が示されました。
本記事では、研究で明らかになったことと、まだ結論づけられないことを整理します。
1.左室アンローディングとは何か
左室は、全身へ血液を送り出す心臓の部屋です。Impellaは大動脈弁をまたいで留置し、左室内の血液を大動脈へ送り出す経皮的な補助ポンプです。
左室の血液を直接くみ出して負荷を軽減することを「左室アンローディング」と呼びます。
PCIでは、バルーンで血管を広げる際などに、心筋への血流が一時的に低下することがあります。もともとの左室機能が低い患者さんでは、その影響が大きくなる可能性があります。
そこで、あらかじめポンプで循環を補助すれば、血行動態を維持しながら複雑な病変を治療しやすくなり、心筋障害や長期の有害事象も減らせるのではないか、と考えられてきました。CHIP-BCIS3は、この臨床的な利益を検証した研究です。

図説:Impellaによる左室アンローディングの概念図。大動脈弁をまたいで留置したポンプが左室から大動脈へ血液を送り出す。生理学的な循環補助が長期臨床転帰を改善するかどうかは、臨床試験での検証を要する。原著の記述に基づく独自模式図であり、実際の解剖学的寸法を再現するものではない。
心不全では、心臓の機能低下が肺うっ血や胸水として現れることもあります。画像と病態の関係は、心不全に伴う葉間胸水の症例解説もご参照ください。
2.CHIP-BCIS3試験はどのような研究か
英国21施設で行われた、多施設共同・非盲検・ランダム化比較試験です。登録期間は2021年8月から2024年12月までで、300人が参加しました。
主な対象条件
- 左室駆出率(LVEF)が35%以下。重度の僧帽弁逆流がある場合は45%以下。
- 広範な冠動脈疾患があり、BCIS Jeopardy Scoreが8以上。
- 特定の高リスク左冠動脈主幹部病変、複雑な石灰化病変、逆行性アプローチを予定する慢性完全閉塞病変など、規定の複雑PCI条件を満たす。
BCIS Jeopardy Scoreは、冠動脈病変によって血流が脅かされる心筋の範囲を評価する指標で、0~12点の範囲をとります。
実際の対象集団では、LVEFの中央値は27%、BCIS Jeopardy Scoreの中央値は12、SYNTAXスコアの中央値は38でした。左室機能低下と病変の複雑さの両面から、高リスクの集団だったといえます。
対象外となった病態
無作為化時点の心原性ショックや急性ST上昇型心筋梗塞は除外されました。
ただし、安定した外来患者さんだけの試験ではありません。急性冠症候群を適応とする患者さんは188人、緊急性のあるPCI適応は両群でそれぞれ72.3%、79.6%を占めました。「予定した補助循環の使用」を評価した試験であることと、「全例が安定冠動脈疾患であること」は区別する必要があります。
急性心筋梗塞の病型やST上昇については、急性心筋梗塞の病型分類と心電図診断で解説しています。
比較した治療
Impella CP群:148人
PCI直前にImpella CPを留置し、左室アンローディングを行う方針です。144人で留置に成功しました。
標準治療群:152人
補助循環を予定して使用せずにPCIを行う方針です。ただし、規定の重篤な循環不全などに対する救済的な補助循環は認められました。実際には9人で救済的補助循環が使用され、8人がIABP、1人がImpellaでした。標準治療群へのImpella使用はプロトコル上認められていませんでした。
解析は割付に基づくintention-to-treat解析で行われました。最低追跡期間は12か月、追跡期間中央値は22か月です。臨床イベントは割付を知らない独立した委員会が判定しました。

図説:英国21施設で、重度の左室機能低下と広範な冠動脈疾患を持ち、規定の複雑PCIを予定した300人を無作為化した。Impella CPを予定して使用する方針と、予定した補助循環を用いない方針を比較した。無作為化時点の心原性ショックおよび急性ST上昇型心筋梗塞は除外された。最低追跡期間12か月、中央値22か月。
3.主要評価項目は「重要度を付けた複合評価」
本試験では、単純に「何らかのイベントが起きた人数」を比較する方法ではなく、次の順に重要度を付けた階層的複合評価項目を用いました。
- 全死亡
- 障害を残す脳卒中
- 自然発症の心筋梗塞
- 心血管疾患による入院
- 周術期心筋障害
解析にはwin ratioを使用しました。Impella群の各患者と標準治療群の各患者を組み合わせ、まず死亡までの時間を比較します。その段階で優劣が決まらなければ、順に次の項目で比較します。入院については回数、同数なら初回入院までの時間を評価します。
Win ratioが1より大きければImpella群に有利、1より小さければ標準治療群に有利という読み方です。
なお、「周術期心筋障害」はPCI前後の高感度心筋トロポニン変化を用いて評価された項目です。自然発症の心筋梗塞とは別の指標として扱われています。
4.主要結果:Impella CPの優越性は示されなかった
全22,496組の患者間比較では、以下の結果でした。
- Impella群が有利:36.6%
- 標準治療群が有利:43.0%
- 優劣が決まらなかった比較:20.4%
Win ratioは0.85、95%信頼区間は0.63~1.15、P=0.30でした。
数値の方向は標準治療群に有利でしたが、統計学的に有意な差は認められませんでした。
したがって、結論は「Impella CPを予定して使用する方針が、標準治療より良い臨床転帰をもたらすことは示されなかった」です。
36.6%と43.0%は、患者さんのイベント発生率ではありません。患者同士を組み合わせた比較で、どちらの群が有利だったかを示す割合です。また、win ratio 0.85を「イベントが15%減った」と読むこともできません。

図説:全22,496組の患者間比較において、Impella群が有利だった比較は36.6%、標準治療群が有利だった比較は43.0%、最終的に優劣が決まらなかった比較は20.4%であった。Win ratioは0.85(95%CI 0.63–1.15、P=0.30)で、Impella CP使用方針の優越性は示されなかった。割合は患者単位のイベント発生率を示すものではない。
5.死亡に関する結果はどう読むべきか
全死亡
- Impella群:47人。24か月推定累積発生率32.6%。
- 標準治療群:33人。24か月推定累積発生率23.4%。
- ハザード比:1.54(95%信頼区間0.99~2.41)。
全死亡はImpella群で数値上多い結果でしたが、95%信頼区間は1をまたいでいます。
心血管死
- Impella群:36人。24か月推定累積発生率26.7%。
- 標準治療群:20人。24か月推定累積発生率14.5%。
- ハザード比:1.91(95%信頼区間1.11~3.30)。
心血管死の24か月推定累積発生率の差は12.2パーセントポイントで、Impella群で高い結果でした。
ただし、これらは副次評価項目であり、信頼区間は多重比較について調整されていません。心血管死が増える可能性を示す重要な所見として扱いながら、確定的な有害作用と断定しないことが必要です。
また、ポンプそのものが死亡差を生んだ機序は、この試験だけでは明らかになっていません。
※上記の割合はKaplan–Meier法による24か月時点の推定値です。追跡中に実際に観察された人数を、割付人数で単純に割った割合とは異なります。

図説:24か月時点のKaplan–Meier推定累積発生率は、全死亡がImpella群32.6%、標準治療群23.4%、心血管死が26.7%、14.5%であった。ハザード比はそれぞれ1.54(95%CI 0.99–2.41)、1.91(1.11–3.30)。実測イベント数は全死亡47人対33人、心血管死36人対20人。割合は実測人数を割付人数で割った値ではない。副次評価項目の信頼区間は多重比較未調整であり、確定的な有害作用の証明とは解釈しない。
6.心筋障害と血行再建の結果
周術期心筋障害は減少しなかった
- Impella群:評価可能133人中82人、61.7%。
- 標準治療群:評価可能124人中62人、50.0%。
- リスク比:1.23(95%信頼区間0.99~1.54)。
左室の負荷を軽くすれば、PCIに伴う心筋障害も減るのではないかという期待に対し、本試験では減少は認められませんでした。数値上はImpella群で多い結果でしたが、信頼区間は1をまたいでいます。
なお、この項目には評価不能例があり、両群の全割付患者で測定できた結果ではありません。
最終的な血行再建の程度は同程度だった
段階的なPCIを含めた冠動脈血行再建指数の中央値は、両群とも67%でした。残存SYNTAXスコアの中央値も、Impella群14、標準治療群13と近い値でした。
一方、段階的PCIはImpella群10人、標準治療群27人に実施されました。治療を進めるタイミングには違いがあったものの、最終的な血行再建の程度に大きな違いは示されませんでした。
左冠動脈主幹部PCIにおける画像ガイドの臨床的価値については、IVUSガイドと冠動脈造影ガイドを比較したOPTIMAL試験も参考になります。補助循環と血管内画像は異なる介入であり、それぞれの対象と研究結果を個別に評価する必要があります。
7.出血や血管合併症はどうだったか
退院前の大出血は以下のとおりでした。
- Impella群:148人中16人、10.8%。
- 標準治療群:151人中11人、7.3%。
- リスク比:1.48(95%信頼区間0.71~3.09)。
軽度の血管合併症は15.5%対9.9%、重大な血管合併症は1.4%対0.7%でした。
本試験では、出血や血管合併症の明確な群間差は示されませんでした。ただし、イベント数が少なく、推定値にも幅があります。「差が示されなかった」ことは「安全性が同等と証明された」ことを意味しません。
また、試験では事前の血管評価や画像を用いた穿刺が重視されていました。著者らも、実臨床の患者集団では出血・血管合併症の不利益を過小評価している可能性を指摘しています。
8.心原性ショックへの使用とは分けて考える
CHIP-BCIS3が評価したのは、無作為化時点で心原性ショックのない患者さんに、PCI前から予定してImpella CPを使用する方針です。
すでに心原性ショックに陥った患者さんへの治療とは、使用の目的、時期、背景リスクが異なります。
原著でも、ST上昇型心筋梗塞に伴う心原性ショックを対象としたDanGer-Shock試験では、Impella使用群で180日全死亡が低かったことに言及しています。
これらの結果は対象病態が異なるため、単純には比較できません。CHIP-BCIS3の結果を、心原性ショックに対する補助循環全体へ一般化することはできません。
9.研究の強みと限界
本研究の強みは、重度の左室機能低下と複雑な冠動脈病変を持つ患者さんを対象に、予定した補助循環の追加利益をランダム化比較試験で検証した点です。独立した盲検イベント判定が行われ、全例で12か月の追跡情報が得られました。
一方、解釈には以下の限界があります。
- 対象は300人: 小さな治療利益や、特定の患者集団での利益まで完全に否定できる規模ではありません。
- 非盲検試験: 機器の使用は隠せず、術者の手技選択や治療方針へ影響した可能性があります。
- 英国の施設で実施: 医療体制や手技の違いを踏まえて他地域へ適用する必要があります。
- 対象と機器が限定される: Impella CPを用いた本試験の結果を、すべての補助循環機器や病態へ一括して適用することはできません。
- 副次評価項目の多重性: 死亡や合併症の個別結果は、探索的な側面を踏まえて評価する必要があります。
- 追跡期間: 中央値22か月の結果であり、さらに長期の転帰には追加の追跡が必要です。
本試験は優越性を検証した研究です。有意差がなかったことから、両方針が同等である、あるいはあらゆる患者さんでImpellaが不要である、と結論づけることはできません。
10.臨床への示唆
CHIP-BCIS3は、「左室機能が低く、PCIが複雑だから」という理由だけでImpella CPを一律に予定使用すれば、長期予後が改善するという考えを支持しませんでした。
臨床では、循環動態、治療する心筋領域、病変の複雑さ、血管アクセス、段階的治療の選択肢などを踏まえ、補助循環を追加する目的と期待できる利益を個別に検討する必要があります。これは本研究を踏まえた臨床的な解釈であり、特定の選択基準の有効性が本試験で証明されたわけではありません。
機器の生理学的な働きと、患者さんにとっての長期的な利益を、それぞれ検証することが重要です。
参考文献
- Perera D, Ryan M, Ezad SM, et al.; CHIP-BCIS3 Investigators. Left Ventricular Unloading in High-Risk Percutaneous Coronary Intervention. N Engl J Med. 2026;394:1779–1789. DOI: 10.1056/NEJMoa2515704. オンライン公開:2026年3月29日。
- Ryan M, Ezad SM, Webb I, et al. Percutaneous Left Ventricular Unloading During High-Risk Coronary Intervention: Rationale and Design of the CHIP-BCIS3 Randomized Controlled Trial. Circ Cardiovasc Interv. 2024;17:e013367. DOI: 10.1161/CIRCINTERVENTIONS.123.013367.
- Møller JE, Engstrøm T, Jensen LO, et al. Microaxial Flow Pump or Standard Care in Infarct-Related Cardiogenic Shock. N Engl J Med. 2024;390:1382–1393. DOI: 10.1056/NEJMoa2312572.
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【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら
【クリニック共同監修体制】
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)(日本歯内療法学会専門医)
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科の各専門医が連携し、最新の医学的エビデンスに基づいた正確な医療情報を分かりやすく解説・発信しています。
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