- 2026年7月7日
お腹の中の赤ちゃんを「幹細胞」で救う世界初の挑戦:二分脊椎(脊髄髄膜瘤)の最新胎児治療(CuRe試験)を柏我孫子の総合内科専門医が読解&解説
羊水が神経を壊す前に治す。胎盤から作られた「幹細胞シート」が未来の歩行機能を守る画期的な証明
「脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)」という病気をご存知でしょうか。これは二分脊椎と呼ばれる先天性の難病の中で最も重症なタイプであり、お腹の中にいる赤ちゃんの背骨(神経管)がうまく閉じず、脊髄が体の外にむき出しになってしまう病気です。 これまでは生まれてから手術を行うのが一般的でしたが、近年では「お腹の中にいるうち(胎児期)に手術をした方が、脳や神経への後遺症を減らせる」ことが分かってきました。しかしそれでも、胎児手術を受けた子どもの半数以上は将来的に自力で歩くことが難しいという限界がありました。 今回、権威医学誌『The Lancet』にて、この限界を突破するための世界初の臨床試験(CuRe試験)の結果が発表されました。それは、お腹の中の赤ちゃんの手術中に「生きた幹細胞」を直接脊髄に貼り付けるという、まさにSFのような最先端の再生医療です。今回は、赤ちゃんの神経がダメージを受ける「体の仕組み」と、未来の命を救う画期的な治療についての論文内容を柏我孫子の総合内科専門医が読解&解説します。
1. 羊水が神経を溶かす?「ツー・ヒット(2段階)仮説」という体の仕組み
なぜ、脊髄がむき出しになると下半身麻痺や排泄障害といった重い障害が残るのでしょうか?実は、病気の原因は「背骨が閉じなかったこと(第1のダメージ)」だけではありません。 むき出しになった脊髄が、お腹の中を漂う「羊水」に長時間さらされたり、子宮の壁に擦れることで、化学的・物理的に激しく傷つけられてしまうこと(第2のダメージ)が、神経を破壊する最大の原因なのです。この「2段階でダメージが進行する体の仕組み」を食い止めるため、羊水にさらされる期間を少しでも短くしようと、妊娠中(24〜25週頃)に子宮を開いて赤ちゃんの背中を塞ぐ「胎児手術」が行われるようになりました。
2. 手術に「胎盤の幹細胞」を足し算する画期的なアプローチ
胎児手術によって物理的に背中を塞ぐことはできても、「すでに傷ついてしまった神経」を元通りにすることはできません。そこで今回のアメリカの研究チームは、神経を保護し再生を促す能力に優れた「胎盤由来間葉系幹細胞(PMSCs)」に目をつけました。 ドナーから提供された胎盤から特殊な幹細胞を培養し、それをFDA認可の医療用シート(細胞外マトリックス)に付着させます。そして、胎児手術で赤ちゃんの背中を塞ぐ際に、この「生きた幹細胞シート」を直接むき出しの脊髄に貼り付ける(局所塗布する)という、世界初のアプローチを開発したのです。
3. 母子ともに合併症ゼロ。脳の落ち込み(キアリ奇形)も改善
未知の幹細胞を胎児に使うことは、腫瘍(がん)化などのリスクが懸念されていました。しかし、6人の妊婦さんと赤ちゃんを対象に行われた第1相試験の結果、安全性が極めて高いことが証明されました。 細胞治療に関連する髄液漏れや感染、腫瘍の形成は1例も発生せず、全員が無事に誕生し、背中の傷も完全に治癒していました。さらにMRI検査では、脊髄が引っ張られることで生じる脳の落ち込み(後脳ヘルニア)が、治療後に全例で改善するという素晴らしい効果も確認されています。
4. 妊娠前からの「体づくり」が最大の予防策
この研究は、難病を抱える子どもたちの未来を明るく照らす、再生医療の大きな一歩です。同時に、私たちに「妊娠中の胎内環境がいかに赤ちゃんの成長に直結しているか」を教えてくれます。 脊髄髄膜瘤などの神経管閉鎖障害は、妊娠前から妊娠初期にかけての「葉酸」の不足が大きな原因の一つであることが分かっています。これから妊娠を望まれる方は、日頃から栄養状態を整え、ご自身の「体の仕組み」を最良の状態に保つことが、未来の赤ちゃんを守る最大の防衛策となります。
柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、総合内科・リウマチ専門医のみならずかかりつけ医の視点から、妊娠前・妊娠中の免疫状態や栄養状態が、お母さんと赤ちゃんにどのような影響を与えるのかという**「体の仕組み」を丁寧に紐解きながら**、最適な健康管理(プレコンセプションケア)をご提案します。当院では胎児手術などの高度医療は行っておりませんが、かかりつけの皆様に少しでもよい情報を提供できるよう、また、健康診断や日常的な内科疾患のコントロール、そして医科歯科連携を通じたお口の健康維持を通じて、元気な赤ちゃんを迎えるための体づくりができるよう全力でサポートいたしております。ご自身の体調や将来の妊娠に不安がある方は、柏・我孫子エリアの相談窓口である当院へお気軽にご相談ください。
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Diana L Farmer, Priyadarsini Kumar, Elizabeth Reynolds, et al. “Feasibility and safety of cellular therapy for in-utero repair of myelomeningocele (CuRe Trial): a first-in-human, phase 1, single-arm study.” Lancet 2026; 407: 867–875.
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