• 2026年9月3日

尿道を絨毯のように埋め尽くす乳頭状病変。免疫抑制下におけるHPV11型「尿道尖圭コンジローマ」の病態機序と経尿道アブレーション・5-FU注入治療。

白血病移植後の免疫低下が招いたウイルスの大暴走。コイロサイトーシス変性が暴く扁平上皮の異常増殖と、DNA合成阻害による微小病変根絶の体の仕組み

悪性リンパ腫や急性白血病などの造血器腫瘍に対する「造血幹細胞移植」は、多くの患者様の命を救う根治的治療です。しかし、移植後に不可避となる「慢性移植片対宿主病(cGVHD)」に対する強力かつ長期的な免疫抑制療法は、生体からウイルスや病原体と闘う強力な防衛壁を一時的に奪い去ります。その結果、健康な状態であれば局所的なイボにとどまるはずの良性ウイルスが、尿道という極めて閉鎖的で繊細な管腔内で爆発的に増殖し、尿路を物理的に閉塞させるほどの劇症化を遂げることがあります。

世界最高峰の医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に掲載された臨床症例(2026年7月9日号)は、急性リンパ性白血病(ALL)の移植治療後にcGVHDを発症し、長期にわたり免疫抑制下にあった42歳男性の経過を描いています。本症例は、頻尿と尿流減少という日常的な排尿トラブルの影で、ウイルスが尿道粘膜を絨毯(じゅうたん)のように埋め尽くした衝撃の病態と、ミクロの組織学的解析から病因を特定し、外科的アブレーションとお薬の尿道内注入を組み合わせて完治へ導いた集学的治療のプロセスが示されています。

1. 2週間続く頻尿と尿流の細少:免疫不全という背景(臨床経過)

患者様は特記すべき持病のなかった42歳の男性ですが、4ヶ月前にALLに対して造血幹細胞移植を受けていました。移植後にcGVHDを合併したため、強力な免疫抑制療法を継続中でした。受診の2週間前から、急激な「頻尿(urinary frequency)」と、おしっこの勢いが極端に弱くなる「尿流減少(weak stream)」が出現し、泌尿器科外来を受診されました。 また、受診の1ヶ月前からは、陰茎のシャフト(体部)に複数の小さなブツブツ(丘疹)ができていることにも気づいていました。一人の固定されたパートナーとの一対一の性交渉関係にあり、HIV抗体検査は陰性、尿路感染症を示す尿培養も陰性でした。

2. 尿道鏡が捉えた絨毯状の腫瘍と、HPV11型の分子病態(体の仕組み)

診断の決め手となったのが、尿道鏡(Urethroscopy)検査です。カメラを尿道内に進めると、そこには正常なピンク色の滑らかな粘膜ではなく、白っぽくザラザラとした乳頭状の腫瘍が尿道粘膜全体を隙間なく覆い尽くしている(carpeting)光景が広がっていました。

この病態の正体は、ヒトパピローマウイルス(HPV)11型による「尿道尖圭コンジローマ(condyloma acuminata of the urethra)」でした。 通常、HPVに対する生体の防御システムは、主にT細胞を主体とする「細胞性免疫」が担っています。しかし、造血幹細胞移植とcGVHDの治療によって細胞性免疫が著しく抑制された本症例では、体内の免疫監視システムが完全に機能停止していました。 この隙を突き、皮膚や粘膜の基底細胞に潜入したHPV11型が自律的に大暴走を開始。ウイルスの設計図であるE6・E7サイトカイン様のタンパク質が、宿主細胞の細胞周期(増殖サイクル)を強力に乱し、コントロールを失った扁平上皮細胞を急速かつ無制限に分裂・増殖させました。これが、尿道の内腔を物理的に塞ぎ、尿の流れを著しく妨げる巨大な乳頭状病変へと成長したミクロの体の仕組みです。

3. コイロサイトーシス(空胞化)が示す、ウイルス感染のミクロのサイン(診断)

診断を盤石のものとするため、陰茎の丘疹の切除生検、および経尿道的に採取された尿道組織の病理組織学的検査が施行されました。 顕微鏡下(H&E染色)では、著明な乳頭状の扁平上皮増殖とともに、「コイロサイトーシス変性(koilocytic atypia)」を伴う異型細胞が多数確認されました。コイロサイト(koilocytes)とは、HPVに感染した扁平上皮細胞に特異的に見られる現象で、細胞核が不整形に濃縮・腫大し、その周囲の細胞質がまるで白く抜け落ちたように丸く空胞化(ハロを形成)した変性細胞です。このコイロサイトーシスの存在と、病変部検体を用いた遺伝子検査(PCR)においてHPV11型のDNAが陽性と判定されたこと、そして患者様が過去に一度もHPVワクチンを接種していなかったことが、病態の決定打となりました。

4. 経尿道アブレーションと「5-FU」尿道内注入による二段構えの攻撃(治療)

治療は、尿道という極めて狭く屈曲した粘膜を傷つけずに、ウイルスに冒された細胞だけをいかに根絶するかが鍵となりました。 医療チームは、まず尿道鏡を用いて肉眼で見える乳頭状の病変を電気的・レーザーによって徹底的に焼き払う「経尿道的病変焼灼術(transurethral ablation)」を施行しました。

しかし、これだけでは粘膜の奥深くや肉眼では捉えきれない微小な領域に潜むHPVを完全に排除することはできず、極めて高い確率で再再発をきたします。 そこで、物理的な焼灼ののち、抗がん剤・代謝拮抗薬である「5-フルオロウラシル(5-FU)」の尿道内注入療法(intraurethral instillations)が追加で実施されました。5-FUは、活発に分裂・増殖を繰り返すHPV感染細胞のDNA合成(チミジル酸合成酵素の活性)を強力に阻害し、細胞の増殖サイクルを根元からフリーズさせて自死(アポトーシス)へと追いやる薬理作用を持ちます。 この「物理的除去(焼灼)」と「化学的根絶(5-FU注入)」を巧みに組み合わせた二段構えの治療戦略により、初回診断から11ヶ月後のフォローアップ尿道鏡検査において、尿道粘膜は元通りの滑らかで健康な状態に回復し、コンジローマの再発は一切認められませんでした。

免疫が低下した状態において、ウイルスは時に想像を超えるスピードと規模で生体を蝕みます。些細な排尿時の違和感や皮膚の異変をあきらめず、病理検査や遺伝子解析からその背景にある体の仕組みを論理的に解き明かすこと、そして最新の分子化学療法を適切に選択することが、大切な臓器の機能を守り、完治を勝ち取るための確固たる医療の防衛線となるのです。

□クリニックからのメッセージ

当院では、総合内科専門医・リウマチ膠原病専門医、および肝臓専門医が在籍し、日々勉学に努めることで正確な診断・治療を行えるよう努力を積み重ねています。患者様の訴えが、どのような「体の仕組み」で起きているのかを、身体診察、綿密な血液検査や超音波スクリーニング・必要に応じてCT等から論理的に解き明かし、正確な診断ならびに安全な治療管理プログラムをご提案します。当院の内科・発熱外来は土曜日の午後も17時まで診療を行っており、平日お忙しくて精密な健康管理や検査になかなか通えない患者様でも、週末にゆとりを持って専門医によるきめ細かなフォローアップを受けていただくことが可能です。

また、免疫力が低下している患者様において、お口の中の衛生管理(歯科管理)は、見過ごされがちですが命に関わる極めて重要な「防衛ライン」です。今回のNEJM症例で示されたヒトパピローマウイルス(HPV)は、実は陰部や尿道だけでなく、唾液や直接接触を介して「お口の粘膜(口腔・中咽頭)」にも極めて定着しやすい性質を持っています。特にお口の中に重度の歯周病やプラークの蓄積、バイオフィルム(慢性炎症)が存在していると、口腔粘膜のバリアが破れ、HPVが容易に定着・増殖し、将来的な「中咽頭がん(お口の奥のがん)」を引き起こす引き金となることが明らかになっています。さらに、免疫抑制療法を行っている局面では、些細なブラッシングや食事の咀嚼によって傷ついた歯周ポケットの血管から、お口の細菌が大量に血液中に侵入する「一過性菌血症」が生じやすくなります。健康な状態であれば排除されますが、血管や臓器にインプラント(人工関節など)や構造的な弱点を持つ患者様では、血流に乗った細菌がそこに定着し、重症の化膿性感染症や敗血症を引き起こす直接の原因経路となります。当院の歯科は土曜日午後2時(14時)まで診療を行っており、医科と歯科が同じ電子カルテのもとで緊密に連携する「医科歯科連携治療」の強みを活かし、内科での全身管理・免疫状態と完全に連動しながら、プロによる徹底的なお口の清掃(PMTCによるバイオフィルム除去)を安全に提供します。体全体の入り口であるお口の環境をきれいに整え、全身の免疫力と安全性を飛躍的に高めます。原因不明のだるさや排尿・皮膚の違和感、お口のトラブルにお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。

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Jung Hoon Bae, and Hyong Woo Moon. “Condyloma Acuminata of the Urethra.” The New England Journal of Medicine. 2026; 395(2): 175.

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【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

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