- 2026年10月16日
糖尿病と失明。無症状でも失明につながる網膜虚血の病態と眼底画像所見、汎網膜光凝固術・抗VEGF療法による治療:増殖糖尿病網膜症(PDR)の視神経乳頭新生血管(NVD)
糖尿病網膜症は、長期間にわたる高血糖によって目の奥の細い血管が傷つき、視力低下や失明につながる病気です。特に進行した「増殖糖尿病網膜症」では、酸素不足になった網膜に異常な新生血管が形成され、出血や網膜剥離を引き起こすことがあります。2026年のNEJMに報告された58歳女性では、視力が保たれ、自覚症状もない段階で、視神経乳頭から硝子体へ伸びる新生血管が発見されました。レーザー治療と眼内への抗VEGF薬注射によって、3か月後には新生血管がほぼ消失しました。本症例は、糖尿病患者における定期的な眼底検査と早期治療の重要性を示しています。
1.はじめに:よく見えている目にも、失明につながる病変が存在する
糖尿病の慢性合併症の一つである糖尿病網膜症(Diabetic Retinopathy:DR)は、成人の視力障害を引き起こす重要な疾患です。
糖尿病網膜症の臨床的な難しさは、病気が進行しても、必ずしも患者本人が視力低下を自覚するとは限らないことにあります。
網膜の周辺部や視神経乳頭に重度の血管障害が生じていても、黄斑部の機能が比較的保たれていれば、中心視力は良好な状態が続くことがあります。
2026年6月、NEJMのImages in Clinical Medicineに、視力20/25を維持しながら、視神経乳頭に著明な新生血管を認めた58歳女性の症例が報告されました。
この新生血管は、正常な網膜血管とは異なり、網膜表面から硝子体腔へ立体的に突出していました。
そのまま進行すれば硝子体出血や牽引性網膜剥離につながる可能性があり、速やかな眼科治療を必要とする状態でした。
本稿では、この特徴的な眼底所見を出発点として、増殖糖尿病網膜症の病態生理、診断、治療戦略、そして糖尿病内科と眼科の連携について解説します。
2.症例提示:自覚症状のない58歳女性に認められた視神経乳頭新生血管
患者は長期間の2型糖尿病歴を持つ58歳女性です。
糖尿病網膜症をすでに合併しており、年1回の定期眼科検診のため受診しました。
受診時、本人に視覚症状の自覚はありませんでした。
眼科診察では、次の所見が認められました。
| 評価項目 | 右眼 | 左眼 |
|---|---|---|
| 視力 | 20/25 | 20/25 |
| 前眼部新生血管 | 認めず | 認めず |
| 視神経乳頭新生血管 | 著明に認める | 認めず |
| 過去の汎網膜光凝固痕 | あり | あり |
| 活動性増殖病変 | あり | 観察範囲では認めず |
右眼の散瞳眼底検査では、視神経乳頭から発生する著明な新生血管が確認されました。
立体眼底写真(Stereo Fundus Photography)によって、新生血管が網膜平面から硝子体腔側へ突出していることが明瞭に描出されました。
眼底の背景には、以前に施行された汎網膜光凝固術による黄色調のレーザー瘢痕が多数認められました。
一方、左眼にも過去の光凝固痕は存在していましたが、前眼部・後眼部に明らかな新生血管は認められませんでした。
これらの所見から、右眼の活動性増殖糖尿病網膜症と診断されました。
本症例の重要な特徴は、過去にレーザー治療を受けていたにもかかわらず、活動性の新生血管が存在していたこと、さらに視力が良好で無症状だったことです。
原著にはHbA1c、糖尿病罹病期間の正確な年数、腎機能、血圧、黄斑浮腫の有無、過去のレーザー治療範囲は記載されていません。これらについて推測で補うことは避ける必要があります。

図:増殖糖尿病網膜症における視神経乳頭新生血管(Neovascularization of the Disk:NVD)58歳女性の右眼に認められた活動性増殖糖尿病網膜症の眼底所見。視神経乳頭から繊細な異常新生血管が樹枝状に増殖し、網膜表面から硝子体腔側へ突出している。周辺の黄白色病変は過去の汎網膜光凝固術(PRP)による瘢痕に相当する。視力20/25と比較的良好で、自覚症状がない状態でも、出血や牽引性網膜剥離につながり得る活動性血管新生が存在することを示す。原著:Gehrke EJ, Han IC. N Engl J Med. 2026;394.
3.増殖糖尿病網膜症(PDR)とは何か
糖尿病網膜症は、大きく非増殖糖尿病網膜症(Nonproliferative Diabetic Retinopathy:NPDR)と増殖糖尿病網膜症(Proliferative Diabetic Retinopathy:PDR)に分類されます。
3-1.非増殖糖尿病網膜症から増殖糖尿病網膜症への進展
初期の糖尿病網膜症では、慢性的な高血糖による微小血管障害を背景に、毛細血管瘤、点状・斑状出血、硬性白斑などが認められます。
進行すると、毛細血管閉塞に伴う網膜虚血が増大し、綿花様白斑、静脈数珠状変化、網膜内細小血管異常(IRMA)などが出現する場合があります。
さらに虚血が強まると、網膜は新たな血管形成を促すシグナルを放出するようになります。
この異常な血管新生が出現した段階が増殖糖尿病網膜症です。
| 病期 | 主な眼底所見 | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| 軽症NPDR | 毛細血管瘤など | 初期の微小血管障害 |
| 中等症NPDR | 出血、滲出性変化などの増加 | 網膜血管障害の進行 |
| 重症NPDR | 広範な出血、静脈数珠状変化、IRMAなど | PDRへの進展リスクが高い |
| PDR | NVD、NVEなどの新生血管 | 硝子体出血、牽引性網膜剥離のリスク |
NPDRの各段階の分類は、国際臨床糖尿病網膜症重症度分類に準じた概略です。
3-2.NVDとNVEの違い
増殖糖尿病網膜症における新生血管は、発生部位によって主に次のように区別されます。
NVD(Neovascularization of the Disk)
視神経乳頭上、または乳頭から1乳頭径以内に認められる新生血管を指します。
NVE(Neovascularization Elsewhere)
視神経乳頭部以外の網膜領域に形成される新生血管です。
本症例で確認されたのはNVDであり、増殖糖尿病網膜症を特徴づける重要な所見です。
NVDは高リスク増殖糖尿病網膜症の評価において特に重要ですが、NVDの存在のみで、すべての症例が古典的な高リスクPDR基準を満たすわけではありません。新生血管の大きさや硝子体・網膜前出血の有無などを総合して判断します。

図:糖尿病網膜症の重症度分類と代表的眼底所見 正常眼底から非増殖糖尿病網膜症(NPDR)、増殖糖尿病網膜症(PDR)に至る各病期の参考眼底画像。NPDRでは毛細血管瘤、網膜出血、硬性白斑などが認められ、進行例では静脈数珠状変化や網膜内細小血管異常(IRMA)が出現する。PDRは視神経乳頭または網膜の新生血管形成によって特徴づけられる。重症度の確定には、各病変の分布、範囲および新生血管の有無を総合的に評価する必要がある。
4.病態生理:網膜虚血がVEGFを誘導し、異常な血管を形成する
糖尿病網膜症における新生血管形成の中心的な機序は、慢性的な網膜虚血と血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)の過剰発現です。
4-1.慢性高血糖と網膜微小血管障害
長期間の高血糖は、終末糖化産物(AGEs)の蓄積、酸化ストレス、炎症反応、血管内皮機能障害などを引き起こします。
網膜毛細血管では、周皮細胞の減少や基底膜の肥厚、血管透過性の亢進などが生じます。
これらの変化により毛細血管閉塞が進行し、網膜組織への酸素供給が不足します。
4-2.HIF-1αとVEGFによる血管新生シグナル
低酸素環境では、低酸素誘導因子(Hypoxia-Inducible Factor-1α:HIF-1α)の分解が抑制され、低酸素応答に関わる遺伝子発現が促進されます。
その代表的な因子がVEGFです。
VEGFは血管内皮細胞の増殖や遊走、血管透過性の亢進を促進します。
生理的な血管新生では組織への酸素供給を改善する役割がありますが、進行した糖尿病網膜症では血管新生の制御が破綻します。
その結果、構造的に脆弱で出血しやすい新生血管が形成されます。
4-3.なぜ新生血管は硝子体腔へ突出するのか
正常な網膜血管は網膜組織内に存在します。
一方、増殖糖尿病網膜症の新生血管は、網膜内境界膜を越えて網膜表面から硝子体側へ増殖することがあります。
新生血管には線維性組織の増殖が伴い、線維血管増殖膜を形成する場合があります。
そのため、この病変は単なる血管拡張ではなく、硝子体と網膜の境界面における異常な組織増殖と考える必要があります。
本症例では、まさにこの立体的な血管増殖が眼底写真によって確認されました。

図:糖尿病網膜症におけるVEGF依存性血管新生とTip Cell–Notchシグナル 慢性的な高血糖に伴う網膜微小血管障害と虚血は、VEGFを介した病的血管新生を促進する。本図ではVEGF濃度勾配に応答した内皮細胞の先導細胞(Tip Cell)形成、周囲のStalk Cellとの機能分化、およびDLL4–Notchシグナルを介した血管新生制御を模式的に示す。Tip CellはVEGF刺激に応答して新生血管の伸長方向を誘導し、Notchシグナルは隣接する内皮細胞の過剰なTip Cell化を抑制する。これらの制御機構の変調は、糖尿病網膜症における異常血管新生の病態理解に重要である。
5.立体眼底写真(Stereo Fundus Photography)の診断的意義
原著で特に重要なのが、視神経乳頭新生血管を立体眼底写真で観察している点です。
通常の眼底写真では、網膜や視神経乳頭の色調、血管走行、出血、滲出物などを平面的に評価します。
一方、立体眼底写真では、わずかに異なる角度から撮影した2枚の画像を立体視することで、網膜構造の奥行きを評価できます。
この方法により、視神経乳頭上の異常血管が単に表面を走行しているのではなく、網膜平面から硝子体腔側へ突出していることが把握できます。
原著の眼底画像では、視神経乳頭から放射状・樹枝状に広がる繊細な新生血管と、その周囲に存在する過去のレーザー光凝固痕が確認できます。
これらは、過去の治療歴と現在の活動性病変を同時に示す特徴的な所見です。
5-1.他の眼科画像検査との関係
増殖糖尿病網膜症では、症例に応じて以下の検査も重要です。
- 散瞳眼底検査・眼底写真: 新生血管、網膜出血、レーザー瘢痕などの評価。
- フルオレセイン蛍光眼底造影(FA): 新生血管からの色素漏出や網膜無灌流領域の把握。
- OCT: 網膜断層構造や糖尿病黄斑浮腫の評価。
- OCT angiography(OCTA): 非侵襲的な血流構造の描出。深さ方向の解析や撮影アーチファクトの解釈に注意が必要。
- 超音波Bモード: 硝子体出血などで眼底が観察しにくい場合の網膜剥離評価。
ただし、今回の原著で実際に報告されている画像手法は立体眼底写真です。FA、OCT、OCTAの結果が示されているわけではありません。

図:増殖糖尿病網膜症における線維血管増殖膜形成、硝子体網膜牽引および牽引性網膜剥離の発症機序 (A)正常網膜の断層構造。 神経網膜は網膜色素上皮(RPE)に接しており、硝子体側への異常な牽引や網膜の挙上は認められない。(B)増殖糖尿病網膜症に伴う牽引性網膜剥離の模式図。 網膜虚血に伴う血管内皮増殖因子(VEGF)の発現亢進を背景に、網膜表面から硝子体側へ病的新生血管と線維性組織が増殖し、線維血管増殖膜(Fibrovascular Membrane)が形成される。増殖膜と後部硝子体皮質の癒着、および膜の収縮によって硝子体網膜牽引(Vitreoretinal Traction)が生じ、神経網膜が網膜色素上皮から挙上・分離することで牽引性網膜剥離(Tractional Retinal Detachment:TRD)に至る。特に黄斑部への牽引や剥離の進展は、重篤な視機能障害を引き起こす可能性がある。※病態生理の理解を目的として作成した独自の医学的模式図であり、実際の患者のOCT画像ではない。
6.増殖糖尿病網膜症が失明につながる3つの機序
増殖糖尿病網膜症で最も警戒すべき合併症は、硝子体出血、牽引性網膜剥離、新生血管緑内障です。
6-1.硝子体出血(Vitreous Hemorrhage)
新生血管は正常血管に比べて脆弱で、血管壁が破綻しやすい性質があります。
出血が硝子体腔内へ広がると、突然の視力低下、飛蚊症、黒い影などを引き起こします。
出血が多量の場合には眼底の観察自体が難しくなることがあります。
6-2.牽引性網膜剥離(Tractional Retinal Detachment)
新生血管に伴う線維血管増殖膜が収縮すると、網膜に牽引力が加わります。
その結果、網膜が正常な位置から持ち上げられる牽引性網膜剥離が発生することがあります。
牽引が黄斑部に及ぶと、不可逆的な視機能障害につながる可能性があります。
6-3.新生血管緑内障(Neovascular Glaucoma)
高度の眼内虚血に伴うVEGF産生により、虹彩や隅角にも新生血管が形成される場合があります。
隅角の線維血管膜形成や周辺虹彩前癒着が進むと房水流出が障害され、眼圧が上昇します。
新生血管緑内障は視力予後が不良となり得る重篤な合併症です。
今回の症例では、前眼部に新生血管は認められておらず、新生血管緑内障の発症が報告されたわけではありません。
7.治療戦略:汎網膜光凝固術(PRP)と抗VEGF療法
本症例では、活動性増殖糖尿病網膜症に対して、汎網膜光凝固術(Panretinal Photocoagulation:PRP)および抗VEGF薬の毎月の硝子体内注射が実施されました。
治療開始から3か月後、視神経乳頭新生血管はほぼ完全に退縮していました。
7-1.汎網膜光凝固術(PRP)
PRPは、網膜の周辺部を中心にレーザー照射を行う治療法です。
虚血に関連する新生血管刺激を軽減し、活動性新生血管の退縮と重篤な視力障害の予防を目指します。
歴史的なDiabetic Retinopathy Study(DRS)では、汎網膜光凝固術によって重度視力障害のリスクが低下することが示されました。
ADA 2026が引用するDRSのデータでは、重度視力障害の割合は非治療群15.9%、治療群6.4%でした。これは過去の比較試験における集団データであり、今回のNEJM症例から算出された結果ではありません。
PRPは治療効果が比較的持続する一方、周辺視野障害、夜間視機能低下、黄斑浮腫の悪化などに注意が必要です。
7-2.抗VEGF薬硝子体内注射
抗VEGF療法は、新生血管形成の中心的因子であるVEGFの働きを阻害する治療です。
眼内のVEGF活性を抑制することにより、病的な新生血管の退縮を促進します。
PDRに対しては、適切な条件下でPRPの代替治療として選択される場合があります。
しかし、薬剤の効果は永続的ではなく、反復注射と継続的な眼科受診が必要になることがあります。
定期受診が途絶えると病変が再活動化し、視力予後が悪化する可能性があるため、通院継続の見通しが重要です。
7-3.PRPと抗VEGF療法はどのように使い分けるか
| 項目 | PRP | 抗VEGF療法 |
|---|---|---|
| 主な作用 | 虚血関連の血管新生刺激を軽減 | VEGFを直接阻害 |
| 効果の持続 | 比較的長期的 | 反復治療が必要になり得る |
| 主な利点 | 注射に依存しない長期管理が可能 | 新生血管を退縮させ、黄斑浮腫にも有効 |
| 主な制約 | 周辺視野障害など | 通院・注射継続の負担 |
| 重要な有害事象 | 視野障害、黄斑浮腫悪化など | 眼内炎、眼圧上昇、眼内出血など |
抗VEGF療法には、まれではあるものの感染性眼内炎などの重篤な眼局所合併症のリスクがあります。また、線維血管増殖を伴う進行例では、注射後の急速な膜収縮による牽引性変化にも注意が必要です。
治療の選択は、新生血管の活動性、黄斑浮腫の有無、牽引性変化、硝子体出血の程度、通院可能性などを踏まえ、網膜疾患を専門とする眼科医が判断します。
なお、今回のNEJM症例では両治療が併用されているため、PRPと抗VEGF療法のどちらがどの程度退縮に寄与したかを独立して評価することはできません。

図:汎網膜光凝固術(Panretinal Photocoagulation:PRP)施行後の眼底所見 汎網膜光凝固術後の広角眼底写真。網膜周辺部を中心に多数の円形レーザー凝固瘢痕が分布している。PRPは虚血網膜に関連するVEGF産生刺激を軽減し、病的新生血管の退縮および重篤な視力障害の予防を目的として施行される。抗VEGF薬の硝子体内注射とは作用機序が異なり、治療選択には新生血管の活動性、黄斑浮腫の有無、牽引性病変および通院継続の可能性などを考慮する。※画像はPRP後の眼底所見を示すものであり、抗VEGF療法の治療効果を直接示すものではない。
8.治療3か月後の経過と症例解釈
PRPと毎月の抗VEGF薬硝子体内注射を受けた後、3か月時点で右眼視神経乳頭新生血管はほぼ完全に退縮していました。
この経過は、活動性の増殖糖尿病網膜症に対して適切な眼科治療を行うことで、明らかな血管新生病変が退縮し得ることを示しています。
しかし、次の点には注意が必要です。
第一に、新生血管の退縮は糖尿病網膜症そのものの完全治癒を意味しません。
第二に、原著には治療後の詳細な視力推移、長期再発率、治療中止後の経過などは報告されていません。
第三に、本症例は単一症例の画像報告であり、特定の治療の優越性を検証する介入研究ではありません。
したがって、3か月後の解剖学的改善を、長期的な失明リスクの完全な解消と同一視してはいけません。
継続的な眼科評価と全身の糖尿病管理が必要です。
9.糖尿病患者の眼科スクリーニング:なぜ無症状でも眼底検査が必要なのか
2026年のADA Standards of Careでは、成人2型糖尿病患者について、診断時に包括的な眼科検査を実施することが推奨されています。
その後の検査間隔は、網膜症の有無、血糖管理状態、進行リスクなどによって調整します。
| 患者の状態 | 眼科検査の考え方 |
|---|---|
| 2型糖尿病の新規診断 | 診断時に包括的眼科検査 |
| 網膜症がなく血糖管理良好 | 原則定期評価。条件によって1〜2年ごとも検討 |
| 網膜症を認める | 少なくとも年1回、進行度に応じて短縮 |
| 中等症以上のNPDR、PDRなど | 網膜症診療に精通した眼科医へ速やかに紹介 |
| 急な視力低下・新しい飛蚊症・視野の異常 | 定期検査を待たず速やかに眼科受診 |
ADA Standards of Care in Diabetes—2026の推奨に基づく一般的な整理。個別の検査間隔は眼科医が判断します。
本症例では、患者本人は症状を感じていませんでした。
それでも定期眼科検査によって活動性のNVDが発見され、重篤な眼科合併症が発生する前に治療を開始することができました。
糖尿病網膜症の診療では、「見えにくくなってから眼科へ行く」のではなく、見えているうちに定期検査を続けることが極めて重要です。
10.内科・眼科連携:血糖・血圧・腎機能を含めた全身管理
増殖糖尿病網膜症の局所的な新生血管には眼科治療が不可欠ですが、糖尿病網膜症の発症・進展リスクに対する全身管理も重要です。
長期的な血糖管理、血圧管理、脂質異常症への対応、腎機能・アルブミン尿の評価などを組み合わせて診療する必要があります。
特に、糖尿病網膜症と糖尿病性腎臓病は、微小血管障害という共通する病態背景を持ちます。
ただし、網膜症の重症度から腎障害の程度を直接推定できるわけではありません。
また、重症網膜症を有する患者では、必要な血糖改善を進めながらも、急速な血糖変化に伴う網膜症の早期悪化の可能性を考慮し、眼科フォローアップを適切に行うことが重要です。
今回の症例では、HbA1cや腎機能などのデータがないため、特定の全身管理上の問題が新生血管形成の直接原因だったと断定することはできません。
11.臨床的考察:本症例から学ぶべき3つのポイント
11-1.視力の良好さと網膜症の安全性は同義ではない
本症例では両眼の視力が20/25と保たれていました。
しかし右眼には、硝子体腔へ突出する活動性新生血管が存在していました。
視力だけでは糖尿病網膜症の重症度を十分に把握できないことを示しています。
11-2.PRP施行歴があっても、新生血管の活動性評価は必要である
右眼には過去の汎網膜光凝固痕が認められました。
それでも活動性のNVDが確認されたため、追加の治療が行われました。
PRP後であっても、新生血管の残存や再活動化の可能性を考慮し、定期的な眼底評価を継続する必要があります。
ただし原著のみから、今回の新生血管が完全退縮後の再発なのか、残存病変の進行なのかを特定することはできません。
11-3.解剖学的な改善後も、長期的な診療継続が重要である
3か月後には新生血管がほぼ消失しました。
しかし、糖尿病に伴う微小血管障害の背景が完全に解消したことを意味するものではありません。
眼科による再活動化の評価と、内科による長期的な代謝・血管リスク管理を継続することが重要です。
12.まとめ:糖尿病網膜症は「見えているうち」に発見・治療する
今回のNEJM症例では、58歳女性が自覚症状を伴わず、両眼の視力が保たれていたにもかかわらず、右眼の視神経乳頭に著明な新生血管を形成していました。
立体眼底写真は、網膜表面から硝子体腔へ突出するNVDの構造を明瞭に描出しました。
患者はPRPと毎月の抗VEGF薬硝子体内注射を受け、3か月後には新生血管がほぼ完全に退縮しました。
本症例から得られる最も重要な教訓は、糖尿病網膜症では視力低下を自覚する前に、失明につながり得る病変が進行している場合があるという点です。
眼科での定期検査と、内科での血糖・血圧・脂質などの全身管理を両立させることが、長期的な視機能保護につながります。
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参考文献
原著論文
Gehrke EJ, Han IC. Neovascularization of the Disk in Proliferative Diabetic Retinopathy. N Engl J Med. 2026;394:e52.
DOI: 10.1056/NEJMicm2601416
https://doi.org/10.1056/NEJMicm2601416
補足資料:2026年ADA診療基準
American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S261–S276.
DOI: 10.2337/dc26-S012

【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
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