• 2026年11月8日

急性食道壊死(黒色食道)とは?内視鏡所見・原因・治療をNEJM症例から解説

食道は通常、内視鏡で観察すると淡いピンク色の粘膜に覆われています。しかし、重度の循環障害や粘膜傷害が重なると、食道の粘膜が広い範囲で壊死し、黒く変色することがあります。

この病態は「急性食道壊死(Acute Esophageal Necrosis:AEN)」と呼ばれ、その特徴的な外観から「黒色食道(Black Esophagus)」とも呼ばれています。

今回紹介するのは、コーヒー残渣様の嘔吐と飲み込みにくさを訴えて救急外来を受診した51歳男性の症例です。

上部消化管内視鏡では、食道粘膜が全周性に黒く変色していました。しかし、適切な治療によって、わずか1週間後には粘膜の再生が確認されました。

2026年のNew England Journal of Medicine(NEJM)に掲載された症例をもとに、急性食道壊死の原因、診断、治療、そして食道粘膜が回復する仕組みを解説します。

1.症例:コーヒー残渣様嘔吐で救急外来を受診した51歳男性

患者は51歳の男性です。

救急外来を受診する約2時間前から、コーヒー残渣様の嘔吐と嚥下困難が出現しました。

コーヒー残渣様嘔吐とは、血液が胃酸などの影響によって暗褐色に変化し、コーヒーのかすのように見える症状です。上部消化管出血を疑う重要な所見です。

患者には、発症前の生活状況として特徴的な経過がありました。

  • 前日は賭博に熱中し、食事と水分をほとんど摂取していなかった
  • 受診の約12時間前に、アルコール度数の高い蒸留酒を約500mL摂取していた
  • 冠動脈疾患の既往があった
  • 喫煙習慣はなく、日常的な飲酒習慣もなかった

診察では、軽度の心窩部圧痛が認められました。

血液検査では、好中球優位の白血球増多、乳酸アシドーシス、ケトーシスが確認されました。

これらの所見は、全身の代謝異常や循環・組織灌流の障害を考えるうえで重要です。

ただし、原著には血圧、血糖値、血中乳酸値、ケトン体濃度などの具体的な数値は示されていません。

したがって、この症例を糖尿病性ケトアシドーシスや循環ショックと断定することはできません。

2.上部消化管内視鏡:食道粘膜が全周性に黒色化

診断の決め手となったのは、上部消化管内視鏡検査でした。

内視鏡では、食道中部から広い範囲にわたって、粘膜がびまん性かつ全周性に黒く変色していました。

さらに、粘膜は脆弱で、容易に傷つく状態でした。

特に特徴的だったのは、黒色化した食道粘膜が胃食道接合部(Gastroesophageal Junction:GEJ)で突然終わっていたことです。

この所見は、急性食道壊死に特徴的な内視鏡像として知られています。

急性食道壊死では、一般に食道下部を中心として壊死性変化が生じ、症例によっては中部食道まで広がります。

本症例でも、食道中部から胃食道接合部まで連続する黒色粘膜が観察されました。

これらの内視鏡所見と臨床経過から、急性食道壊死と診断されました。

急性食道壊死の初診時と1週間後の内視鏡画像4枚。初診時は食道中部から胃食道接合部まで黒色の壊死性粘膜が広がり、1週間後には再上皮化が認められる。

図説:原著の上部消化管内視鏡画像。A:初診時の中部食道。食道粘膜のびまん性・全周性黒色化と脆弱化が認められる。B:初診時の胃食道接合部。黒色化した食道粘膜が胃食道接合部で明瞭に終わっている。C:治療1週間後の中部食道。黒色粘膜は消退し、再上皮化が認められる。D:治療1週間後の胃食道接合部。粘膜の再生が進む一方、表在性潰瘍が残存している。Nie K, Wang X. N Engl J Med. 2026;394:e46.

3.急性食道壊死とはどのような病気か

急性食道壊死は、食道粘膜に重度の虚血性・壊死性傷害が生じる比較的まれな疾患です。

上部消化管内視鏡を受けた患者における報告頻度は、おおむね0.01〜0.28%とされています。ただし、対象集団や研究条件によって異なり、実際の頻度は十分に把握されていません。

急性食道壊死は、単一の原因によって発症するというより、複数の要因が重なって生じる病態と考えられています。

代表的な要因は、次の3つです。

① 食道粘膜への血流低下

食道の組織も、血液から酸素と栄養を供給されています。

脱水、循環血液量の減少、低血圧、心血管疾患などによって血流が低下すると、食道粘膜の細胞は十分な酸素を受け取れなくなります。

この状態が重度になると、細胞のエネルギー産生が障害され、粘膜傷害や壊死につながります。

特に食道下部は、複数の血管系からの血流供給を受ける食道のなかでも、相対的に虚血の影響を受けやすい領域と考えられています。

ただし、食道下部の壊死を血管分布だけで説明することはできません。

② 胃酸や胃内容物の逆流による傷害

胃の粘膜には、強い酸から組織を守る防御機構が備わっています。

一方、食道粘膜は胃酸に対する防御能力が十分ではありません。

胃酸や消化液が食道へ逆流すると、食道の扁平上皮に化学的傷害が生じます。

通常は粘膜の防御機構や修復機能によって傷害が軽減されますが、虚血が加わると組織の修復能力が低下します。

その結果、逆流による傷害が増幅される可能性があります。

③ 粘膜防御機能の低下

低栄養、重症疾患、代謝異常、全身状態の悪化なども、粘膜の防御・修復機能を低下させる要因となります。

急性食道壊死は、これらの要因が互いに作用し、食道粘膜の防御機構が破綻した結果として発症すると考えられています。

重要なのは、黒色食道が単なる重症の逆流性食道炎ではなく、全身の循環状態や代謝異常を反映しうる疾患であるという点です。

胃食道逆流と食道粘膜の関係については、バレット食道の体の仕組みとリスク層別化2026でも解説しています。

ただし、バレット食道は慢性的な逆流に伴う食道上皮の変化であり、急性の虚血性・壊死性傷害を主体とする急性食道壊死とは異なる病態です。

急性食道壊死の発症に関与する3要因。血流低下、胃酸逆流、粘膜防御機能低下が重なって食道粘膜の壊死性傷害につながる概念図。

図説:急性食道壊死の病態を示す概念図。食道粘膜の虚血、胃内容物逆流による化学的傷害、粘膜防御・修復機能の低下が複合的に作用すると考えられている。これらの因子の相対的寄与は症例によって異なり、単一の機序で説明されるものではない。既報の病態生理学的知見に基づく独自模式図。

4.なぜ、この患者に急性食道壊死が起きたのか

本症例では、複数の因子が重なっていました。

第一に、患者は前日から食事や水分をほとんど摂取していませんでした。

水分摂取不足は、循環血液量の減少や組織灌流低下に関与した可能性があります。

第二に、大量の高濃度アルコールを短時間に摂取していました。

アルコール摂取は、胃食道逆流や消化管粘膜傷害、代謝異常に関与しうる要因です。

第三に、乳酸アシドーシスとケトーシスが認められました。

乳酸アシドーシスは、組織低灌流などを背景として生じることがあります。ただし、乳酸上昇には複数の原因があり、本症例でもその機序が確定されたわけではありません。

また、食事摂取不足と大量飲酒という経過は、飢餓やアルコール関連のケトーシスを考える手がかりとなります。

第四に、冠動脈疾患の既往がありました。

冠動脈疾患は、心血管系の基礎疾患が存在することを示しています。ただし、冠動脈疾患の既往だけで食道の血流障害が証明されるわけではありません。

以上から、本症例では、摂取不足に伴う循環・代謝異常、アルコール摂取に関連する傷害、基礎的な血管疾患などが複合的に関与した可能性があります。

このような多因子性の病態は、急性食道壊死の特徴です。

5.急性食道壊死の診断で重要なポイント

急性食道壊死では、吐血、コーヒー残渣様嘔吐、黒色便など、上部消化管出血を契機として診断されることが多くあります。

また、嚥下困難、胸部不快感、心窩部痛などを伴うこともあります。

診断で重要なのは、上部消化管内視鏡による特徴的な粘膜所見です。

特徴的な内視鏡所見

  • 食道粘膜のびまん性・全周性の黒色化
  • 食道下部を中心とした病変分布
  • 胃食道接合部での明瞭な境界
  • 粘膜の脆弱化や潰瘍形成

ただし、食道に黒色病変を認めた場合、すべてが急性食道壊死とは限りません。

鑑別診断としては、腐食性物質による食道傷害、感染性食道炎、重症逆流性食道炎、色素沈着性病変などを考慮します。

診断には、内視鏡像だけでなく、病歴、全身状態、循環動態、代謝異常、薬剤・化学物質への曝露歴などを組み合わせることが必要です。

急性食道壊死では、典型的な臨床像と内視鏡所見がそろえば、必ずしも生検を必要としません。

壊死した食道粘膜は脆弱であるため、組織採取を行う場合には慎重な判断が求められます。

また、食道の穿孔が疑われる場合には、内視鏡操作のリスクを考慮し、CTなどによる追加評価が重要となります。

6.治療:胃酸抑制と食道の安静

本症例では、以下の治療が行われました。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)の静脈内投与
  • 絶食による食道の安静
  • 静脈栄養による栄養管理
  • 経鼻胃管の留置を回避

PPIは胃酸分泌を抑制し、酸による食道粘膜への追加傷害を軽減する目的で使用されます。

また、重度の食道傷害がある時期には、経口摂取を中止し、粘膜の回復を待つことがあります。

重要なのは、経鼻胃管の留置が食道穿孔の危険につながる可能性があることです。

急性食道壊死では食道壁が脆弱になっているため、通常の栄養管理や減圧目的で用いられる経鼻胃管であっても、慎重に取り扱う必要があります。

本症例では、経鼻胃管を使用せず、静脈栄養によって栄養管理が行われました。

一般的な急性食道壊死の治療では、これらに加えて、輸液、循環動態の安定化、電解質・代謝異常の補正、原因となった基礎疾患の治療が重要です。

ただし、原著では輸液の詳細、具体的なPPI投与量、栄養管理の組成などは報告されていません。

7.1週間後の内視鏡:黒色粘膜から再上皮化へ

治療開始から1週間後、退院前に上部消化管内視鏡が再検されました。

その結果、初診時に広範囲に認められていた黒色粘膜は大きく改善していました。

食道粘膜の再上皮化が認められ、一部に表在性潰瘍が残存する状態となっていました。

これは、急性食道壊死が必ずしも不可逆的な食道全層の壊死を意味するわけではないことを示しています。

食道粘膜の傷害が改善し、血流や周囲環境が回復すれば、粘膜上皮の再生が進む場合があります。

一方で、粘膜が再生したことと、食道の機能が完全に回復したことは同じではありません。

治癒過程で線維化が進行すると、後になって食道狭窄を生じることがあります。

本症例では1週間後の再上皮化が確認されていますが、それ以降の長期的な経過は原著に示されていません。

したがって、長期的に狭窄などを生じなかったと結論づけることはできません。

急性食道壊死の経過。初診時の黒色粘膜、PPI・絶食・静脈栄養による治療、1週間後の再上皮化、長期的に注意すべき食道狭窄を示す模式図。

図説:本症例の治療と食道粘膜の回復過程を示す概念図。初診時には食道粘膜の全周性黒色化が認められ、静脈内PPI投与、絶食、静脈栄養による治療が行われた。1週間後には再上皮化が認められたが、表在性潰瘍は残存していた。一般に急性食道壊死では治癒後の食道狭窄に注意が必要である。長期的な経過は本症例では報告されていない。

8.急性食道壊死で注意すべき合併症

急性食道壊死で重要な合併症には、食道穿孔と食道狭窄があります。

食道穿孔

壊死が深部まで及ぶと、食道壁が破れ、穿孔する可能性があります。

穿孔が起きると、食道内容物が縦隔へ漏出し、縦隔炎などの重篤な感染症を引き起こすおそれがあります。

急激な胸痛、発熱、呼吸状態の悪化、循環不全などが生じた場合には、速やかな評価が必要です。

食道穿孔の病態については、特発性食道破裂の症例解説でも紹介しています。

ただし、特発性食道破裂は急激な食道内圧上昇などによって生じるものであり、急性食道壊死に伴う穿孔とは発症機序が異なります。

食道狭窄

急性期の壊死性傷害が改善した後、瘢痕形成によって食道が狭くなることがあります。

食道狭窄が生じると、食物がつかえる、固形物を飲み込みにくい、食事量が減るといった症状が現れます。

狭窄の程度によっては、内視鏡的な拡張治療が必要になる場合もあります。

このため、急性期の内視鏡所見が改善しても、嚥下障害の再出現などに注意した経過観察が重要です。

嚥下困難の原因は多様です。食道が外側から圧迫されることによって生じる嚥下障害については、右鎖骨下動脈起始異常によるルゾリア嚥下障害のNEJM症例も参考になります。

9.今回のNEJM症例から学ぶ臨床的ポイント

① コーヒー残渣様嘔吐では、食道そのものの病変も考える

上部消化管出血では、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃食道静脈瘤などを考えることが多いですが、食道粘膜の広範な壊死も原因となりえます。

特に、脱水、代謝異常、循環障害などを伴う患者では、急性食道壊死も鑑別診断に含める必要があります。

② 食道粘膜の黒色化は、全身状態を反映する可能性がある

急性食道壊死は、食道だけの局所的な問題ではありません。

低灌流、心血管疾患、代謝異常、低栄養など、全身的な異常が病態に関与することがあります。

したがって、食道の治療だけでなく、全身状態の評価と是正が重要です。

③ 食道粘膜は高度な傷害から回復することがある

本症例では、初診時に全周性の黒色変化を認めた食道粘膜が、1週間後には再上皮化していました。

これは、重度の粘膜傷害であっても、適切な支持療法によって比較的短期間に内視鏡所見が改善する場合があることを示しています。

ただし、すべての患者が同様に回復するわけではなく、全身状態や合併症によって予後は大きく異なります。

④ 急性期の改善だけでなく、遅発性合併症にも注意する

黒色粘膜が消失しても、治癒過程で食道狭窄が生じる可能性があります。

急性期治療と、その後の嚥下機能・食道狭窄の評価を分けて考えることが重要です。

10.まとめ

急性食道壊死(Black Esophagus)は、食道粘膜が広範囲に黒色化する比較的まれな疾患です。

その病態には、食道の血流低下、胃内容物による化学的傷害、粘膜防御機能の低下などが複合的に関与すると考えられています。

今回の51歳男性では、摂取不足、大量飲酒、冠動脈疾患の既往、乳酸アシドーシス、ケトーシスが認められ、内視鏡で特徴的な全周性黒色食道が確認されました。

静脈内PPI、絶食、静脈栄養などによる治療が行われ、1週間後には食道粘膜の再上皮化が認められました。

本症例の重要な教訓は、急性食道壊死を全身の循環・代謝異常と関連する病態として捉え、原因への対応と食道粘膜の保護を同時に進めることです。

また、急性期の改善が得られた後も、食道狭窄などの合併症に注意する必要があります。

11.医療機関を受診する際の注意点

コーヒー残渣様の嘔吐、吐血、黒色便などは、上部消化管出血の可能性を示す症状です。

これらの症状がある場合には、速やかに救急医療機関で評価を受ける必要があります。

特に、めまい、冷汗、意識の変化、強い胸痛・腹痛、呼吸困難などを伴う場合には、重篤な出血や消化管穿孔などの可能性も考えられます。

急性食道壊死の診断や治療には、上部消化管内視鏡検査や入院管理が必要となることがあるため、適切な消化器専門医療機関での診療が重要です。

関連記事

① 特発性食道破裂の一例

嘔吐などを契機に食道壁が破裂する重篤な疾患です。急性食道壊死とは発症機序が異なりますが、食道穿孔の危険性や早期診断の重要性を理解するうえで参考になります。

② 右鎖骨下動脈起始異常によるルゾリア嚥下障害

食道の外側を走る血管が食道を圧迫し、嚥下困難を引き起こしたNEJM症例です。嚥下障害の原因が粘膜病変だけでなく、血管の解剖学的異常にも存在することを解説しています。

③ 腹膜垂炎の一例

腹部臓器の局所的な循環障害によって生じる疾患です。食道壊死とは病態や重症度が異なりますが、腹部疾患の診断で虚血性変化を考える際の参考になります。

参考文献

  1. Nie K, Wang X. Acute Esophageal Necrosis. N Engl J Med. 2026;394. DOI: 10.1056/NEJMicm2600976
  2. Dias E, Santos-Antunes J, Macedo G. Diagnosis and management of acute esophageal necrosis. Ann Gastroenterol. 2019;32:529–540. PubMed
  3. Acute Esophageal Necrosis: An In-depth Review of Pathogenesis, Diagnosis and Management. World J Gastrointest Surg. 2022. 全文
  4. Acute esophageal necrosis in the post-operative period: a narrative review of presentation, management, and outcomes. 2024. PubMed

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
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