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- 2026年9月11日
【SLE・ループス腎炎】2024–2026最新ガイドラインを専門医が解説|早期併用療法・ステロイド最小化・腎寛解を目指す治療戦略
KDIGO 2024、ACR 2024ループス腎炎ガイドライン、EULAR 2025 updateが示す新しい治療戦略。ヒドロキシクロロキン(HCQ)を基盤に、MMF・カルシニューリン阻害薬・ベリムマブなどを早期から組み合わせ、ステロイドを速やかに減量しながら、3・6・12か月の尿蛋白・腎機能を指標として「腎臓を長期的に守る」治療へ。
全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己免疫反応によって皮膚、関節、血液、肺、心臓、神経、腎臓など多くの臓器に炎症を起こす全身性自己免疫疾患です。
なかでもループス腎炎(lupus nephritis:LN)は、SLEの長期予後を左右する重要な臓器病変の一つです。
近年、ループス腎炎治療は大きく変化しています。
従来のように「まず高用量ステロイドを投与し、効かなければ免疫抑制薬を追加する」という段階的治療から、
治療開始早期から複数の作用機序を組み合わせて疾患活動性を速やかに抑え、その代わりステロイドへの依存をできるだけ早く減らす
という方向へ移行しています。
この考え方は、「KDIGO 2024、ACR 2024ループス腎炎ガイドライン(2025年発表)」、「EULAR 2025 update(2026年発表)」に共通してみられる大きな流れです。ACRはClass III/IV LNに対して、MPAA+ベリムマブ、MPAA+CNIなどを含む三剤併用療法を条件付きで推奨しています。
添付資料でもEULAR・ACR・KDIGOそれぞれについて、MMF/シクロホスファミドを中心とする治療に加えてBEL/CNIを組み込む治療戦略と、GCを5 mg/日以下へ減量する方向性が比較されています。

1.治療の「土台」はヒドロキシクロロキン(HCQ)
SLEおよびループス腎炎では、禁忌がない限りヒドロキシクロロキン(HCQ)が治療の基本薬となります。
KDIGO 2024でも、SLE患者にはループス腎炎の有無を問わず、禁忌がなければHCQまたは同等の抗マラリア薬を使用することが推奨されています。
HCQには単なる抗炎症作用だけではなく、
- SLE再燃の抑制
- 腎再燃の抑制
- 血栓リスク低下
- 脂質・糖代謝への好影響
- 長期的な臓器障害の抑制
など複数の利益が期待されています。
投与量については、理想体重が長年用いられてきましたが、HCQの投与量は、網膜毒性リスクを抑える観点から、実体重に基づき5 mg/kg/日以下(最大400 mg/日)が基本となります。長期投与では網膜毒性に注意し、眼科での定期的なスクリーニングが重要です。
したがって、HCQは「症状が強いときだけ使用する薬」というより、SLEの長期的な臓器保護を支える基盤治療と考える方が適切です。
2.ループス腎炎では「早期コンビネーション療法」へ
活動性Class III/IVループス腎炎では、治療開始時からグルココルチコイドに加えて、
- ミコフェノール酸製剤(MMF/MPAA)
- 低用量静注シクロホスファミド
- ベリムマブ+MPAAまたは低用量シクロホスファミド
- MPAA+カルシニューリン阻害薬(CNI)
などを組み合わせる治療が現在の中心となっています。
KDIGO 2024でも、Class III/IV LNに対しこれらの選択肢が初期治療として明示されています。なお、CNIを使用する場合には特に腎機能に注意が必要で、KDIGOではMPAA+CNI療法についてeGFRが高度に低下していない患者を対象としています。
ACR 2024ではさらに一歩進み、Class III/IV LNに対して三剤併用療法(triple immunosuppressive therapy)を積極的に位置づけています。
たとえば、
GC+MPAA+ベリムマブ
あるいは
GC+MPAA+CNI
という組み合わせです。
蛋白尿が高度な症例ではCNIを含む治療が選択肢となり、腎外病変も強い症例ではベリムマブを含む治療が選択されやすいなど、すべての患者に同じ治療を当てはめるのではなく、病型・蛋白尿・腎機能・腎外病変に応じて治療を個別化する考え方が重要になっています。

3.ステロイドは「治療の土台」から「橋渡し」へ
近年のループス治療で非常に重要なのが、グルココルチコイド(GC)の早期減量です。
ステロイドは急性炎症を速やかに抑える非常に有効な薬剤ですが、累積投与量が増えるほど、
- 重症感染症
- 骨粗鬆症
- 糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症
- 心血管疾患
- 白内障・緑内障
- ステロイド性筋症
などのリスクが問題になります。
GCは「治療の土台」ではなく、免疫抑制薬・生物学的製剤が効果を発揮するまでのbridge therapy(橋渡し治療)へ移行しているといえます。
EULAR
メチルプレドニゾロン静注を必要に応じて使用したうえで、経口PSL相当量を概ね
0.3〜0.7 mg/kg/日
から開始し、可能であれば
4〜6か月以内に5 mg/日以下
まで減量することを目標とします。
ACR
ACRでは、
プレドニゾン換算 ≤0.5 mg/kg/日(最大40 mg/日)
から開始し、
6か月までに≤5 mg/日
へ減量することが条件付きで推奨されています。
つまり現在の治療目標は、
「ステロイドを使わない」ことではなく、必要な初期治療には適切に使用し、その後できるだけ早くステロイド依存から離脱すること
です。

4.ループス腎炎治療は「何か月でどこまで蛋白尿が減ったか」を追う
現在のループス腎炎治療では、単に「良くなった・悪くなった」と評価するのではありません。
尿蛋白と腎機能を時間軸で追うTreat-to-Targetが重要です。
EULARでは、おおよその目安として、
3か月:蛋白尿を少なくとも25%減少
6か月:少なくとも50%減少
12か月:UPCR<0.7 g/g
を目標としています。
ここで大切なのは、一回の尿蛋白値だけを見るのではなく、「どの速度で改善しているか」を見ることです。
5.完全腎反応(CRR)とは何か
ACR/KDIGOで用いられる代表的な完全腎反応(complete renal response:CRR)の目安は、
蛋白尿(UPCR)<0.5 g/gCr
かつ
腎機能が安定または改善していること
です。
KDIGOでは一般に治療開始後6〜12か月で評価されますが、完全反応の達成には12か月以上かかる症例もあります。
6.部分腎反応(PRR)は「蛋白尿50%低下」だけではない
部分腎反応(partial renal response:PRR)は一般に、
蛋白尿がベースラインから50%以上減少し、ネフローゼ域であった場合には3 g/日前後未満まで改善していること
に加え、
腎機能が安定または改善していること
が重要です。
ACR/KDIGOでは概ね6〜12か月で評価します。

7.目標に届かないときは「すぐ薬を増やす」のではなく原因を再評価する
蛋白尿が予定通り減少しない場合には、単純に「薬が効いていない」と判断して免疫抑制を強化するわけではありません。
まず、
- 服薬アドヒアランス
- 薬剤投与量
- 腎機能に応じた薬剤調整
- 活動性LNが本当に残存しているか
- 慢性腎障害・瘢痕化による蛋白尿ではないか
- 血圧管理
- 他の腎疾患
- 薬剤性腎障害
などを再評価します。
ACRでは、適切な治療を6か月以上行っても蛋白尿・血尿・腎機能低下が持続する場合には、再腎生検も選択肢とされています。
これは非常に重要です。
「活動性炎症が残っている蛋白尿」と「既に形成された腎瘢痕による蛋白尿」では、治療方針が全く異なるためです。
8.腎生検は治療法を決める重要な情報源
ループス腎炎では、尿蛋白量だけで治療薬を決めることはできません。
腎生検によって、
- Class III
- Class IV
- Class V
- 活動性病変
- 慢性病変
- 半月体形成
- 血栓性微小血管症(TMA)
などを評価します。
ACRでは、SLE患者で蛋白尿>0.5 g/gまたは原因不明の腎機能低下がある場合に腎生検を条件付きで推奨しています。
治療後も経過が想定と合わない場合には、再生検が治療方針を決める重要な手掛かりになることがあります。
9.オビヌツズマブという新しい選択肢
近年、抗CD20抗体オビヌツズマブ(obinutuzumab)も注目されています。
第III相REGENCY試験などを踏まえ、米国FDAは2025年10月、標準治療を受けている活動性ループス腎炎の成人に対してオビヌツズマブを承認しました。
一方、日本では2026年9月時点でループス腎炎に対する承認・保険適用とはなっておらず、今後の国内での開発・承認状況を確認していく必要があります。
10.免疫抑制だけでなく「腎臓そのものを守る治療」が重要
ループス腎炎では、炎症を抑えるだけでは十分ではありません。
一度失われたネフロンを取り戻すことは困難であるため、慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐ治療を同時に行います。
血圧・蛋白尿管理
蛋白尿を認める患者では、ACE阻害薬・ARBなどのRAAS阻害薬を中心とした血圧・蛋白尿管理が重要です。
ACRでは、蛋白尿がある場合には、血圧が高くなくても、腎保護・蛋白尿減少を目的としてACE阻害薬やARBなどのRAAS阻害薬を検討することがあります。
減塩
EULARでは腎保護の一環として食塩5 g/日以下が示されています。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬についても、CKDに対する腎保護作用を背景として注目されています。
活動性腎炎がコントロールされた後にも蛋白尿やCKDリスクが残る患者では、腎機能・脱水・感染症リスクなどを評価しながらSGLT2阻害薬を腎保護目的に検討する必要があります。
KDIGO 2024も、安定した患者における腎保護薬の一つとしてRAAS阻害薬やSGLT2阻害薬を挙げています。
11.感染症、骨粗鬆症、心血管疾患まで含めて治療する
SLEの長期予後は、SLEそのものだけでは決まりません。
治療に伴う感染症、動脈硬化、骨粗鬆症なども非常に重要です。
そのため、
- インフルエンザ
- COVID-19
- 肺炎球菌
- 帯状疱疹
などのワクチンを、年齢・免疫抑制薬・既往歴に応じて検討します。
ただし、免疫抑制療法中の生ワクチンには注意が必要であり、ワクチンの種類と接種時期を主治医と調整する必要があります。
さらに、
- 骨密度評価
- Ca/Vitamin Dを含む骨代謝管理
- 必要に応じた骨粗鬆症治療
- 血圧管理
- LDLコレステロール管理
- 禁煙
- 適正体重
- 運動
などを並行して行うことが、長期的な臓器障害を減らすために重要です。

12.現在のループス腎炎治療を一言で表すなら
現在の治療戦略は、
「高用量ステロイドで長期間抑え込む治療」から、「早期から複数の治療標的を組み合わせ、ステロイドを早く減らしながら腎臓を長期的に守る治療」へ
変化しています。
しかし、すべての患者に同じ治療が適しているわけではありません。
腎組織型、蛋白尿、eGFR、腎外病変、感染症リスク、妊娠希望、年齢、併存疾患などを総合的に評価して治療を個別化する必要があります。
さらに最新の論評では、Treat-to-Targetを実臨床へ落とし込む方法や、新規治療薬へのアクセスなど、今後解決すべき課題も指摘されています。
ループス腎炎は、「薬を何にするか」だけではなく、どのタイミングで何を目標にし、腎臓と全身をどのように長期間守るかまで設計する疾患になってきています。

クリニックからのメッセージ
当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医が、血液検査・尿検査・症状・これまでの経過を総合的に評価し、SLEをはじめとする自己免疫疾患の診療を行っています。
ループス腎炎が疑われる場合や、腎生検・強力な寛解導入療法が必要と判断される場合には、腎臓内科や入院設備を有する基幹病院と連携して治療を行うことが重要です。
一方、安定期には、
- SLEの疾患活動性評価
- 尿蛋白・eGFRの経時的確認
- ステロイド減量
- 感染症対策
- ワクチン
- 骨粗鬆症予防
- 血圧・脂質・糖代謝管理
まで含めた長期フォローが重要になります。
また、免疫抑制療法を受けている方では、歯周炎や根尖性歯周炎などの口腔内感染源を放置しないことも大切です。
当院では医科と歯科が診療情報を共有し、全身状態や使用薬剤を確認したうえで、必要に応じた歯科治療・口腔衛生管理を行っています。

正式な主要引用文献
- Fanouriakis A, et al. EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus with kidney involvement: 2025 update. Ann Rheum Dis. 2026;85(1):75-90. doi:10.1016/j.ard.2025.09.007.
- Sammaritano LR, et al. 2024 American College of Rheumatology (ACR) Guideline for the Screening, Treatment, and Management of Lupus Nephritis. Arthritis Rheumatol. 2025;77(9):1115-1135. doi:10.1002/art.43212.
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Lupus Nephritis Work Group. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Management of Lupus Nephritis. Kidney Int. 2024;105(1S):S1-S69.
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一方、現在の治療ではステロイドだけに依存するのではなく、免疫抑制薬や生物学的製剤を早期から組み合わせ、治療効果を維持しながらステロイドをできるだけ早く減量することが重視されています。
ステロイドがなぜ炎症を抑えるのか、長期投与によってなぜ感染症・骨粗鬆症・糖代謝異常・心血管疾患などが問題となるのか、そして安全に治療を継続するために何を管理する必要があるのかを詳しく解説しています。

【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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