• 2026年10月7日

難治性SLE・全身性強皮症・炎症性筋疾患に対するCAR-T細胞療法|長期無薬寛解、CRS予測因子、自己免疫疾患特有のLICATSとは

重要要点

全身性エリテマトーデス(SLE)や全身性強皮症、皮膚筋炎などの自己免疫疾患では、免疫を抑える薬を何年も続けなければ病気を抑えられない患者さんがいます。

こうした難治例に対して近年注目されているのが、もともと血液がんの治療として開発された「CAR-T細胞療法」です。

患者さん自身のT細胞を特殊な方法で作り替え、病気に関係するB細胞を非常に深く除去することで、乱れた免疫システムそのものを一度「リセット」することを目指します。

2025〜2026年に報告された研究では、従来治療が効きにくかったSLE、全身性強皮症、特発性炎症性筋疾患などで、薬を中止したまま長期間病気が落ち着く「無薬寛解」が報告されています。

一方、CAR-T療法には発熱や血圧低下を伴うサイトカイン放出症候群(CRS)などの副作用があります。

さらに自己免疫疾患では、もともと病気に侵されていた皮膚、腎臓、筋肉などに一時的な炎症が起こる「LICATS」という新しい副作用の概念も明らかになってきました。

CAR-T療法はまだ限られた施設・研究段階を中心とする治療ですが、「長期間薬を続けて病気を抑える」という従来の膠原病治療から、「免疫システムそのものを再構築する」という新しい方向性を示す治療として注目されています。

CAR-T細胞療法とは?

CAR-T(Chimeric Antigen Receptor T-cell:キメラ抗原受容体T細胞)療法は、患者さん自身のT細胞を採取し、特定の細胞を認識して攻撃できるよう遺伝子改変したうえで体内へ戻す細胞治療です。

もともとはB細胞性白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性腫瘍に対して開発されました。

自己免疫疾患では、多くの病態にB細胞が関与しています。

B細胞は単に抗体を作るだけではありません。

  • 自己抗体の産生
  • 自己抗原の提示
  • T細胞の活性化
  • 炎症性サイトカインの産生
  • 自己免疫の「記憶」の維持

などに関与します。

そこでCD19などを標的とするCAR-T細胞を利用し、従来の抗CD20抗体などでは十分に除去できなかったB細胞集団まで深く枯渇させることで、自己免疫反応そのものをリセットできないか、という考え方が生まれました。

1.難治性自己免疫疾患で報告された高い治療反応

2026年のRMD Openのシステマティックレビューでは、難治性自己免疫性リウマチ疾患に対するCAR-T療法を検討した12研究、計44例が解析されました。

対象には、

  • 全身性エリテマトーデス(SLE)・ループス腎炎
  • 全身性強皮症(SSc)
  • 特発性炎症性筋疾患(IIM)
  • 関節リウマチ
  • シェーグレン病
  • 抗ARS抗体症候群

などが含まれていました。

患者さんは治療抵抗性が強く、CAR-T療法前には中央値5種類の治療歴を有していました。

報告された各研究では92〜100%という高い臨床反応率が認められ、完全奏効・寛解はCAR-T投与後おおむね2〜16週間で確認されています。

さらに、6〜46か月にわたり免疫抑制薬を使用せず寛解を維持した「Drug-Free Remission(無薬寛解)」も報告されました。

これは膠原病診療にとって非常に重要な概念です。

従来治療の多くは「薬を継続している間、免疫反応を抑える」治療です。

一方CAR-T療法では、一度の細胞療法によって病的なB細胞ネットワークを大きく再構築し、その後薬を使用しなくても免疫学的寛解が維持される可能性があります。

自己抗体も大きく低下する

同レビューでは、疾患関連自己抗体が全体として80〜99%程度低下するなど、強い免疫学的変化が確認されています。

SLEでは抗dsDNA抗体や抗リン脂質抗体、全身性強皮症では疾患特異的自己抗体などが著明に低下、あるいは陰性化した症例が報告されています。

ただし、これは「CAR-T療法によってすべての自己抗体が必ず消失する」という意味ではありません。

CAR-T製剤の標的、疾患、既存の形質細胞の寿命などによって反応は異なります。

特に長寿命形質細胞はCD19を十分発現しない場合があるため、近年はCD19に加えてBCMAなどを標的とする二重標的CAR-T療法も研究されています。

なぜ通常のB細胞除去療法より深い効果が期待されるのか

抗CD20抗体などの生物学的製剤でも末梢血中のB細胞は大きく減少します。

しかし、リンパ節、骨髄、炎症組織などに存在するB細胞の一部は残存する可能性があります。

CAR-T細胞は体内で増殖しながら標的細胞を探索するため、より深いB細胞除去を達成できる可能性があります。

その結果、

「病原性B細胞の除去」
↓
「自己抗体・抗原提示の低下」
↓
「T細胞-B細胞間の異常な免疫回路の解除」
↓
「新しいB細胞集団の再構築」
↓
「自己免疫寛容の再形成」

という、いわば免疫システムの「再起動」が起こる可能性があります。

ただし、この“immune reset”の詳しい機序はまだ研究段階であり、すべての患者で同じように起こることが証明されているわけではありません。

2.CAR-T療法最大の急性毒性「CRS」

CAR-T療法で最もよく知られる副作用が、

サイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome:CRS)

です。

CAR-T細胞が標的細胞を攻撃すると大量のサイトカインが放出され、

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 頻脈
  • 低血圧
  • 低酸素血症

などが起こることがあります。

血液悪性腫瘍に対するCAR-T療法では、重症CRSが集中治療を必要とすることもあります。

自己免疫疾患のCRSは比較的軽症が多い

2026年にThe Lancet Rheumatologyで報告された、ドイツ6施設・中国1施設の計108例を対象とした多施設後ろ向き研究では、CAR-T投与後に86例(80%)でCRSが発生しました。

内訳は、

  • Grade 1:71例(66%)
  • Grade 2:14例(13%)
  • Grade 3:1例(1%)

でした。

つまり、CRS自体は決して珍しくありません。

一方で、そのほとんどはGrade 1〜2の軽症〜中等症であり、重症CRSは非常に少ないという特徴が確認されました。

ICANS(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群)も108例中3例(3%)にとどまり、Grade 3以上は認められませんでした。

CRSを予測する「投与前B細胞数」とIL-6

この108例の研究で非常に興味深かったのが、CAR-T投与前の状態からCRS発症リスクをある程度予測できる可能性が示されたことです。

CRSを発症した患者では、発症しなかった患者よりも投与前の

  • B細胞数
  • IL-6
  • CRP

が高値でした。

多変量解析では、

B細胞数高値:OR 1.31
IL-6高値:OR 2.28

がCRS発症と独立して関連していました。

CAR-T細胞が攻撃する「標的となるB細胞」が多ければ、それだけCAR-T細胞の活性化も大きくなります。

さらに治療前からIL-6を中心とした炎症状態が存在すれば、CAR-Tによる免疫反応が増幅されやすいと考えられます。

将来的にはこうしたバイオマーカーを用いて、患者ごとにCRSのリスクを層別化できる可能性があります。

AIによるCRS予測研究も進んでいる

別の血液悪性腫瘍CAR-T研究では、体温、血圧、CRP、フィブリノゲン、血清Na、リンパ球数などを組み合わせた機械学習モデルによって、CRS発症を24〜72時間前から予測する試みも進められています。

ただし、このAIモデルはリンパ腫・多発性骨髄腫患者を対象とした研究であり、現時点で自己免疫疾患CAR-T患者にそのまま適用できると証明されたものではありません。

自己免疫疾患領域では、まず投与前B細胞数やIL-6など、より単純な臨床指標によるリスク層別化の有用性が示され始めた段階と考えるのが適切です。

3.自己免疫疾患CAR-T特有の新しい副作用「LICATS」

自己免疫疾患にCAR-T療法を応用することで、がん領域ではあまり認識されてこなかった新しい有害事象も明らかになってきました。

2025年、The Lancet Rheumatologyに、

Local Immune Effector Cell-Associated Toxicity Syndrome(LICATS)
局所免疫エフェクター細胞関連毒性症候群

という新しい概念が報告されました。

LICATSは「もともと病変があった臓器」に起こる

この研究では、

  • SLE:20例
  • 全身性強皮症:13例
  • 特発性炎症性筋疾患:6例

計39例が解析されました。

そのうち30例(77%)に、計54件のLICATSが確認されました。

非常に特徴的だったのは、

LICATSが、その患者さんの自己免疫疾患によって以前から障害されていた臓器だけに発生した

ことです。

最も多かったのは、

  • 皮膚:19件(35%)
  • 腎臓:12件(22%)

でした。

その他にも筋骨格系など、既存病変部位を中心に局所炎症が生じています。

発症時期中央値はCAR-T投与後10日で、B細胞無形成期に限って発生しました。

CRSとは異なる炎症反応

CRSは全身性のサイトカイン放出によって起こります。

一方LICATSは、

過去に自己免疫炎症が存在した臓器局所に限局する

という点が大きく異なります。

そのため、CAR-T治療後に一時的に

  • 皮疹が悪化する
  • 蛋白尿が増える
  • 腎機能が変動する
  • 筋肉痛や関節痛が起こる

といった症状が出現した場合、単純に「原疾患が再燃した」と判断してしまうと、治療方針を誤る可能性があります。

「Clean-up reaction」という仮説

LICATSの正確な病態はまだ完全には解明されていません。

現在提唱されている仮説の一つが、病変組織内に存在するB細胞をCAR-T細胞が急速に除去する過程で起こる局所炎症です。

CAR-T細胞によってB細胞が死滅すると、その細胞成分をマクロファージなどの貪食細胞が処理します。

この局所的な「免疫細胞の清掃過程」に伴って一時的な炎症が起こる可能性があり、いわば“clean-up reaction”と考えることができます。

ただし、これは現時点では病態仮説であり、確立した機序ではありません。

LICATSの多くは自然軽快する

54件のLICATSのうち、

  • Grade 1:35件(65%)
  • Grade 2:16件(30%)
  • Grade 3:3件

でした。

Grade 1は自然軽快し、Grade 2では症状や臓器障害に応じて短期間の副腎皮質ステロイド治療などが行われました。

重要なのは、

全LICATSイベントが後遺症なく改善した

ことです。

CAR-T療法後の臓器症状をすべて原疾患再燃として強く免疫抑制してしまうのではなく、CRS、感染症、原疾患再燃、LICATSを区別することが重要になります。

4.CAR-T療法は「膠原病を治す治療」なのか?

現時点では、「CAR-T療法によって自己免疫疾患が根治する」と断定することはできません。

確かに、これまでの研究では従来治療では得にくかった長期間の無薬寛解が報告されています。

しかし、2026年のシステマティックレビューでも対象は44例にすぎません。

さらに、

  • 症例報告・ケースシリーズが多い
  • ランダム化比較試験がほぼない
  • 重症・難治例を選択している
  • CAR-T製剤や標的が統一されていない
  • 観察期間がまだ短い
  • 若年者中心である
  • 出版バイアスの可能性がある

といった重要な限界があります。

したがって現在の位置づけは、

「非常に有望な免疫リセット療法ではあるものの、長期的な有効性・安全性・適切な患者選択については今後の臨床試験が必要」

という段階です。

長期安全性も重要

CAR-T療法ではCRSやLICATSだけでなく、

  • 好中球減少
  • リンパ球減少
  • 感染症
  • 低γグロブリン血症
  • B細胞無形成
  • ICANS
  • リンパ球除去化学療法に伴う毒性

などにも注意が必要です。

そのためCAR-T療法は、リウマチ・膠原病内科だけで完結する治療ではありません。

血液内科、細胞治療部門、感染症科、集中治療科、腎臓内科、神経内科などを含む多職種・多診療科連携が不可欠です。

CAR-T療法が示す「膠原病治療の未来」

これまで膠原病治療では、

「免疫を抑える薬を長期間続ける」

ことが基本でした。

CAR-T療法は、この考え方そのものを変える可能性があります。

つまり、

持続的免疫抑制
→ 病原性免疫細胞の深い除去
→ 免疫システムの再構築
→ 無薬寛解

という治療戦略です。

今後、より安全なCAR-T、CAR-NK、in vivo CAR-T、二重特異的抗体やT-cell engagerなどが発展すれば、「難治性自己免疫疾患をどこまで深く免疫学的にリセットできるのか」がリウマチ学の大きなテーマになると考えられます。

クリニックからのメッセージ

全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、炎症性筋疾患などの膠原病治療は、この数年間で急速に変化しています。

CAR-T細胞療法はその中でも特に注目される治療ですが、現時点ではすべての患者さんが一般診療として受けられる治療ではなく、専門施設や臨床研究を中心に検討される高度な細胞治療です。

当院でCAR-T細胞療法そのものを実施しているわけではありません。

一方、総合内科専門医・リウマチ専門医として、現在の病気の活動性、臓器障害、自己抗体、感染症リスク、これまでの治療歴を総合的に評価し、必要に応じて高次医療機関と連携しながら治療方針を検討することは可能です。

「薬を何種類使っても病気が安定しない」
「ステロイドをなかなか減らせない」
「現在の治療以外に選択肢があるのか知りたい」

といった場合には、まず現在の病態を正確に整理することが重要です。

CAR-T療法を考える前にも、従来治療が十分に最適化されているか、診断や臓器評価に見落としがないかを確認する必要があります。

また、高度な免疫抑制療法や細胞治療を受ける患者さんでは、感染症対策も非常に重要です。

口腔内の感染巣についても必要に応じて歯科と連携し、全身治療を安全に行うための環境を整えることが大切です。

当院では医科と歯科が同一施設内で診療しており、全身状態を踏まえた口腔管理についても連携して対応しています。

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参考文献

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  3. Hagen M, Müller F, Wirsching A, et al. Local immune effector cell-associated toxicity syndrome in CAR T-cell treated patients with autoimmune disease: an observational study. Lancet Rheumatol. 2025;7(6).
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  4. Zhang Y, Han W. Management of Cytokine Release Syndrome (CRS) following CAR T-cell therapy: a comprehensive review. Clin Cancer Bull. 2025;4:15.
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  5. Paludo J, et al. Machine learning-based prediction of cytokine release syndrome post CAR-T cell therapy. J Clin Oncol. 2025;43(16_suppl).
    doi:10.1200/JCO.2025.43.16_suppl.e13622

【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

柏五味歯科内科リウマチクリニック

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