- 2026年9月21日
【NEJM 2026】急性低酸素性呼吸不全にHFNCは有効か?SOHO試験が示した死亡率・気管挿管率への影響
急性低酸素性呼吸不全に対する高流量鼻カニューレ(HFNC)酸素療法と標準酸素療法を比較。第3相多施設RCT「SOHO試験」が示した28日死亡率と気管挿管率
重い肺炎などによって肺から十分な酸素を取り込めなくなる「急性低酸素性呼吸不全」では、酸素をどのような方法で届けるかが重要です。
高流量鼻カニューレ(HFNC)は、温めて加湿した酸素を鼻から大量に送り込む方法で、患者さんの呼吸を楽にしながら酸素化を支えます。
2026年にNEJMで報告されたSOHO試験では、1,110人の患者さんを対象にHFNCと標準的な酸素療法を比較しました。
その結果、28日以内の死亡率は両群とも14.6%で、HFNCによる明らかな死亡率低下は確認されませんでした。
一方、28日以内に気管挿管が必要となった患者さんは、
- HFNC:42.4%
- 標準酸素療法:48.4%
とHFNC群で少なく、さらに治療開始早期には呼吸数や呼吸苦の改善もみられました。
つまりHFNCは「命を救う効果が標準酸素療法より明確に高い」とまでは証明されなかったものの、患者さんの呼吸負担を軽減し、気管挿管を回避できる可能性を持つ重要な呼吸管理法であることが改めて示された、と言えます。

急性低酸素性呼吸不全とは?
肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)などによって肺胞でのガス交換が障害されると、肺から血液へ十分な酸素を取り込めなくなります。
これが「急性低酸素性呼吸不全(acute hypoxemic respiratory failure)」です。
重症化すると、
- 息が速くなる
- 強い息苦しさが出る
- 血液中の酸素濃度が低下する
- 呼吸筋への負担が増える
- 最終的に気管挿管・人工呼吸管理が必要になる
といった経過をたどることがあります。
そのため、できるだけ十分な酸素を届けながら、患者さん自身の呼吸負担を軽減することが重要になります。

HFNCは普通の酸素療法と何が違うのか?
一般的な酸素療法では、鼻カニューレや酸素マスクを通して酸素を投与します。
これに対して高流量鼻カニューレ(High-Flow Nasal Cannula:HFNC)では、加温・加湿した酸素を毎分40 L以上などの高流量で鼻から送り込みます。
HFNCで期待される主な作用
HFNCには、単に「大量の酸素を入れる」以上の生理学的効果があります。
- 高流量によって患者さんの吸気需要に対応する
- 上気道の解剖学的死腔を洗い流す
- 吸入酸素濃度(FiO2)を比較的安定させる
- 軽度の呼気終末陽圧(PEEP)効果を生じる
- 加温・加湿によって気道の乾燥を抑える
- 呼吸仕事量を軽減する
こうした特徴から、HFNCは急性低酸素性呼吸不全における重要な非侵襲的呼吸補助法として広く使用されています。
一方で、状態が悪化している患者さんにHFNCを長く続けすぎると、必要な気管挿管が遅れる可能性もあります。
そのため「HFNCを使っているから安心」ではなく、呼吸数、酸素化、意識状態、循環動態などを継続して評価することが重要です。

SOHO試験とは?
2026年、The New England Journal of Medicine(NEJM) に、HFNCと標準酸素療法を直接比較した大規模ランダム化比較試験「SOHO試験」が報告されました。
正式名称は、
Standard Oxygen versus High-Flow Oxygen Therapy in Acute Hypoxemic Respiratory Failure
です。
フランス42施設のICUで実施された、多施設・オープンラベル・ランダム化比較試験です。
1. 対象となった患者さん
対象は急性低酸素性呼吸不全でICU管理となった成人患者です。
主な選択基準は、
- 呼吸数 25回/分超
- 胸部画像で肺浸潤影を認める
- PaO2/FiO2比 200 mmHg以下
でした。
1,116人がランダム化され、最終的に1,110人が解析されました。
- HFNC群:556人
- 標準酸素療法群:554人
患者背景では肺炎が大部分を占めており、かなり強い低酸素血症を伴う患者集団でした。
HFNC群では原則として50 L/分以上の高流量酸素を使用。
標準酸素療法群では、フェイスマスクまたは非再呼吸式マスクなどを用い、10 L/分以上を基本として酸素投与が行われました。
いずれもSpO2 92~96%を目標として調整されました。

2. 主要評価項目:28日死亡率は14.6% vs 14.6%
SOHO試験の主要評価項目は、ランダム化から28日以内の全死亡でした。
結果は、
- HFNC群:14.6%(81/556人)
- 標準酸素療法群:14.6%(81/554人)
でした。
群間差は、
−0.05 percentage points
95%信頼区間 −4.21~4.10
P=0.98
であり、HFNCによる28日死亡率の有意な低下は認められませんでした。
「同じ死亡率」=「完全に同等」とは限らない
ここは試験を読むうえで重要です。
両群の死亡率は偶然にも14.6%と同じでしたが、SOHO試験は「両治療が同等であること」を証明するための同等性試験ではありません。
したがって、
「HFNCと標準酸素療法の死亡率が同等であることが証明された」
ではなく、
「HFNCは標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下させなかった」
と解釈するのが正確です。

3. 気管挿管率はHFNC群で低かった
注目された副次評価項目が、28日以内の気管挿管です。
- HFNC群:42.4%(236/556人)
- 標準酸素療法群:48.4%(268/554人)
絶対差は、
−5.93 percentage points
95%信頼区間 −11.78~−0.08
でした。
単純計算では、HFNC群で気管挿管を必要とした患者さんが約6ポイント少なかったことになります。
これは臨床的に興味深い結果です。
ただし、気管挿管率は主要評価項目ではなく副次評価項目であり、この信頼区間は多重比較について調整されていません。
したがって、
「HFNCが気管挿管を確実に減らすことが証明された」
と断定するより、
「HFNCによって気管挿管が少なくなる可能性を支持する結果が得られた」
と解釈するのが適切です。

4. HFNCによって呼吸は早期から楽になる
HFNCの利点は死亡率だけでは測れません。
治療開始1時間後には、HFNC群で呼吸数の低下がみられ、患者さん自身が感じる呼吸困難感についても改善が認められました。
これはHFNCによって、
「肺そのものが短時間で治った」のではなく、酸素供給と換気効率が改善し、呼吸するために必要な仕事量が軽減された
と考えると理解しやすくなります。
急性呼吸不全では、一回一回の呼吸そのものが大きな運動負荷になります。
HFNCによってこの負担を減らせることは、患者さんの苦痛軽減という意味でも重要です。

5. 人工呼吸器を使用せずに生存できた日数もHFNC群で長い傾向
28日までの人工呼吸器非使用生存日数(ventilator-free days)の中央値は、
- HFNC群:28日
- 標準酸素療法群:26日
でした。
中央値の差は2日でした。
ただし、これも副次評価項目です。
主要評価項目である死亡率に差がなかったことを踏まえると、SOHO試験全体としては、
「HFNCが生命予後を改善した試験」
というより、
「死亡率改善は示されなかったものの、気管挿管や呼吸負担など患者さんにとって重要な臨床アウトカムに好ましいシグナルがみられた試験」
と整理するとよいでしょう。

6. 安全性:HFNCにも注意すべき点がある
自然呼吸中に発生した重大有害事象である心停止または気胸は、
- HFNC群:13人(2.3%)
- 標準酸素療法群:6人(1.1%)
でした。
頻度そのものは低いものの、HFNCが「リスクのない治療」ではないことも重要です。
ただし本試験はこの差の因果関係を検証する目的で設計されたものではなく、HFNCによって重大有害事象が増加したと断定することはできません。いずれの酸素療法を選択する場合も、病状悪化を見逃さない継続的なモニタリングが重要です。
急性呼吸不全では、HFNCを使用していても病態が進行する患者さんがいます。
呼吸数の増加、酸素化の悪化、呼吸仕事量の増大、意識障害や循環不全などが出現すれば、HFNCに固執せず、適切なタイミングで気管挿管・人工呼吸管理へ移行する必要があります。

SOHO試験から何が分かったのか?
SOHO試験の結論を整理すると、次のようになります。
- HFNCは標準酸素療法より28日死亡率を有意に低下させなかった
- 28日気管挿管率はHFNC群で約6ポイント低かった
- HFNCでは治療早期の呼吸数・呼吸苦が改善した
- 人工呼吸器非使用生存日数にも好ましい方向の差がみられた
- 一方、HFNC使用中も病状悪化や重大有害事象への監視が必要である
つまりHFNCの価値は、
「死亡率を劇的に改善する治療」
というより、
「適切な患者さんに使用することで呼吸負担を軽減し、侵襲的人工呼吸への移行を回避できる可能性を持つ治療」
として理解するのが適切です。

従来のガイドラインと矛盾するのか?
欧州呼吸器学会(ERS)のガイドラインでは、急性低酸素性呼吸不全に対して、従来型酸素療法よりHFNCを使用することが条件付きで提案されています。
SOHO試験によって、この考え方が直ちに否定されたわけではありません。
むしろ、
死亡率という最も強いアウトカムには差がなかった一方、気管挿管や呼吸苦など別の重要なアウトカムにはHFNCのメリットを示唆する結果が得られた
というのが今回のポイントです。
患者さんの重症度、呼吸状態、基礎疾患などを総合的に判断し、HFNC・標準酸素療法・NIV・気管挿管を適切に使い分けることが重要です。

クリニックからのメッセージ
息切れや低酸素血症は、それ自体が病名ではありません。
肺炎、喘息、間質性肺疾患、心不全、貧血、肺血栓塞栓症など、さまざまな病気によって生じる可能性があります。
当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医、消化器・肝臓領域の専門医が、問診、診察、血液検査、画像検査などを組み合わせ、個々のデータを「点」ではなく病態という「線」として評価することを大切にしています。
長引く咳、息切れ、発熱、酸素化低下などでは、外来で経過をみてよい状態なのか、より高度な検査や入院治療が必要なのかを適切に判断することが重要です。
重い呼吸困難や低酸素血症が疑われる場合には、速やかな救急医療機関への受診が必要となります。
呼吸器疾患と口腔ケア ―「口腔―肺連関」という視点
口腔内は多くの細菌が存在する場所であり、特に高齢者、嚥下機能が低下した方、入院中・人工呼吸管理中の患者さんでは、口腔内細菌の下気道への微小誤嚥が肺炎の一因となることがあります。
実際、入院患者を対象とした研究では、日常的な歯磨きを含む口腔ケアと院内肺炎減少との関連も報告されています。
これは、
「歯をきれいにすればすべての肺炎を防げる」
という意味ではありません。
一方で、全身管理の一部として口腔環境を良好に保つことには医学的な意義があります。
当院では内科と歯科が同一施設内で診療している特徴を生かし、基礎疾患や服薬状況を踏まえた有病者歯科・口腔管理にも取り組んでいます。

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参考文献
- Frat JP, Quenot JP, Guitton C, Coudroy R, Gacouin A, Badie J, et al.; SOHO Trial Group and the REVA Network.
High-Flow or Standard Oxygen in Acute Hypoxemic Respiratory Failure.
N Engl J Med. 2026;394:2095-2106.
doi:10.1056/NEJMoa2516087- Oczkowski S, Ergan B, Bos L, et al.
ERS clinical practice guidelines: high-flow nasal cannula in acute respiratory failure.
Eur Respir J. 2022;59(4):2101574.
doi:10.1183/13993003.01574-2021- Ehrenzeller S, Klompas M.
Association Between Daily Toothbrushing and Hospital-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-Analysis.
JAMA Intern Med. 2024;184(2):131-

【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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