• 2026年9月26日

【NEJM2026】子どものワクチンへの不安にどう向き合う?「ワクチン躊躇」と信頼を築く対話法を専門医が解説

ワクチンについて迷うことは、珍しいことではありません

「本当に安全なのだろうか」
「こんなに何種類も接種して大丈夫?」
「インターネットで怖い情報を見たけれど、本当?」

子どもの予防接種について、このような不安を感じる保護者の方は少なくありません。

こうした「接種した方がよいとは思うけれど、心配もある」という状態は、ワクチン躊躇(Vaccine Hesitancy)と呼ばれます。

大切なのは、不安を頭ごなしに否定することではありません。

まず疑問や心配を聞き、そのうえで医学的に分かっていることを共有し、保護者と医療従事者が一緒に考えていくことが重要です。

2026年の『The New England Journal of Medicine(NEJM)』では、小児期のワクチン躊躇について、行動科学の視点からその背景を整理し、医療現場でどのように対話すればよいのかがまとめられました。

今回は、

  • なぜワクチンへの不安が生まれるのか
  • 医療従事者はどのように説明すればよいのか
  • MMRワクチンと自閉症の関係
  • 複数ワクチンの同時接種
  • ワクチンに含まれるアルミニウム

など、保護者の方からよく聞かれる疑問について、最新の医学的知見をもとに分かりやすく解説します。


予防接種は、過去50年間で多くの命を救ってきた

ワクチンは、現代医学における最も大きな公衆衛生上の成果の一つです。

WHOが主導した世界規模の解析では、1974年から2024年までの50年間に、14種類の感染症に対する予防接種によって、世界で推計約1億5,400万人の死亡が回避されたと推定されています。

その多くは小児であり、なかでも麻疹ワクチンは大きな役割を果たしてきました。

一方、ワクチンが普及したことで、

「麻疹で重症化した子どもを見たことがない」
「ポリオという病気を身近に感じない」

という世代も増えました。

これはワクチンが成功した結果でもあります。

病気そのものを見る機会が減る一方、インターネットやSNSではワクチンの副反応に関する情報を目にする機会が増えています。

その結果、

「感染症そのものの危険性より、ワクチンの危険性の方が身近に感じられる」

という心理的な逆転が起こることがあります。


「ワクチン躊躇」とは何か?

ワクチンに対する考え方は、

「すべて受けたい」

から、

「少し不安がある」

「一部だけ延期したい」

「受けるか迷っている」

「接種したくない」

まで、はっきり二つに分かれるものではありません。

連続したスペクトラムとして存在します。

ワクチン躊躇とは、単純な「反ワクチン」と同じ意味ではありません。

むしろ多くの場合、

「子どもを病気から守りたい」という思いと、「副反応が心配」という思いの間で迷っている状態

と考えた方が実態に近いでしょう。

この「迷い」をどのように理解するかが、医療コミュニケーションでは非常に重要です。


WHOの「BeSDフレームワーク」――接種するかどうかは気持ちだけでは決まらない

WHOは、ワクチン接種に影響する要因をBehavioural and Social Drivers of Vaccination(BeSD)という枠組みで整理しています。

大きく4つに分かれます。

① 考えと感情(Thinking and Feeling)

  • その感染症をどの程度危険だと感じているか
  • ワクチンの効果を信頼しているか
  • 副反応をどの程度心配しているか
  • 医療制度やワクチンそのものを信頼できるか

などです。

② 社会的プロセス(Social Processes)

  • 家族や友人の考え
  • SNSから得た情報
  • 周囲で一般的に接種されているか
  • 医師や看護師から推奨されたか

といった社会的な影響です。

③ 動機(Motivation)

「実際にこのワクチンを受けようと思っているか」という接種への意思です。

④ 実践的問題(Practical Issues)

接種したいと思っていても、

  • 予約が取れない
  • 接種できる医療機関が遠い
  • 診療時間が合わない
  • 費用がかかる
  • 子どもを連れて受診する時間がない

といった事情によって、接種できない場合があります。

つまり、

「ワクチンを受けていない=ワクチンを拒否している」

とは限りません。

なぜ接種に至っていないのかを見極め、それぞれに合った対応をすることが重要なのです。


医療従事者の「はっきりした推奨」は重要

NEJM総説で強調されているポイントの一つが、医療従事者からの明確な推奨です。

保護者にとって、医師や看護師は依然としてワクチンに関する重要な情報源です。

そのため、

「ワクチンを打つかどうか、どうしますか?」

と完全に白紙の状態から尋ねるよりも、

「今日は予定されている〇〇ワクチンを接種していきましょう」

と、予防接種を通常の医療として提示する方法があります。

これを「Presumptive Recommendation(前置的・推定的アプローチ)」と呼びます。

重要なのは、「強制する」という意味ではないことです。

接種を医学的に推奨される標準的な選択肢として明確に示し、そのうえで疑問があれば丁寧に答える、という方法です。


不安が出てきたら「説得」ではなく「対話」へ

保護者から、

「副反応が怖いです」

「SNSで危険だという話を見ました」

という反応が出てきた場合、さらに強く説得しようとすると、かえって信頼関係を損ねることがあります。

そこで役立つのが、「Motivational Interviewing(動機づけ面接:MI)」です。

動機づけ面接で大切なこと

まず、

「どのような点が一番心配ですか?」

と尋ねます。

そして不安の内容を確認します。

そのうえで、

「医学的に分かっていることをご説明してもよろしいですか?」

と、情報を伝える前に許可を得ます。

一方的に知識を押しつけるのではなく、

聞く → 理解する → 情報を共有する → 一緒に考える

という流れです。

その日の接種に至らなかったとしても、信頼関係が残れば、次回の受診時に再び相談することができます。


誤情報には「共感しながら訂正する」

近年は、「Empathetic Refutational Interviewing(ERI:共感的反論面接)」と呼ばれる方法も研究されています。

ワクチンに関する誤情報を単純に、

「それは間違っています」

と否定するのではありません。

基本的な流れ

  1. 医学的な推奨を明確に伝える
  2. 何を心配しているのか聞く
  3. 心配する気持ちを理解する
  4. 許可を得て医学的事実を説明する
  5. 誤解があれば具体的に訂正する
  6. 最後に正しい情報をもう一度確認する

という流れです。

2025年に報告された実臨床研究でも、ERIやMIを用いた共感的な対話によって、ワクチンに対する態度や接種意思、予約行動などが改善する可能性が示されています。

ただし、これは「あらゆる人に必ず有効」という意味ではありません。

患者さん・保護者それぞれの価値観や不安の内容に応じて、柔軟に対応することが大切です。


よくある疑問①「何種類ものワクチンを同時に打って大丈夫?」

複数のワクチンを同じ日に接種する同時接種については、長年にわたり安全性と有効性が検討されています。

承認された組み合わせで、定められた接種スケジュールに従って行う同時接種は、一般に安全な方法と考えられています。

子どもの免疫系は、生まれた直後から、

  • 細菌
  • ウイルス
  • 食物
  • 環境中のさまざまな抗原

に日常的に接しています。

ワクチンで提示される抗原は、免疫系が日常的に処理している刺激の一部にすぎません。

したがって、

「複数のワクチンを同時に接種すると免疫が処理しきれなくなる」

という考えを支持する科学的根拠はありません。

ただし、接種するワクチンの種類や年齢、基礎疾患、過去の副反応などによって判断が異なることがあります。

実際の接種スケジュールについては医師と相談してください。


よくある疑問②「MMRワクチンは自閉症の原因になりますか?」

現在までに得られている質の高い疫学研究では、MMRワクチンと自閉スペクトラム症との因果関係を支持する証拠は認められていません。

この問題は世界中で繰り返し検証されてきました。

2025年にWHOのワクチン安全性に関する専門家委員会が改めて科学的エビデンスを検討した際にも、ワクチンと自閉スペクトラム症との因果関係を支持する根拠はないとの結論が再確認されています。

なお、ここで一つ重要な点があります。

日本の定期接種では、麻疹・風疹を組み合わせたMRワクチンが使用されており、米国などで一般的なMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)とは制度が異なります。

日本では、おたふくかぜワクチンは2026年現在、原則として任意接種です。

海外の研究結果を読む際には、この制度上の違いも理解しておく必要があります。


よくある疑問③「ワクチンに含まれるアルミニウムは大丈夫?」

一部のワクチンには、免疫反応を十分に引き出すため、アルミニウム塩がアジュバント(免疫増強剤)として使用されています。

アルミニウムアジュバントには数十年にわたる使用実績があります。

WHOは現在の科学的エビデンスを検討したうえで、ワクチンに含まれる微量のアルミニウムについて、重大な慢性疾患との関連を示す質の高い証拠は認められていないとしています。

2025年には、デンマークの全国登録データを用いた100万人を超える小児の大規模研究でも、乳幼児期のアルミニウム含有ワクチンへの曝露と、50種類の慢性疾患との関連は認められませんでした。

アルミニウムは食物や飲料水など自然環境にも広く存在しています。

乳児期にワクチンから受けるアルミニウム量は少量であり、これまでの薬物動態研究や大規模疫学研究も含め、現在使用されているアルミニウム含有ワクチンの安全性を支持するデータが蓄積されています。

「絶対に副反応が起こらない」という意味ではありません。

ワクチンも医薬品ですので、接種部位の痛み、発熱などの副反応が起こることがあります。

大切なのは、ワクチンによる利益と副反応の両方を、感染症そのもののリスクと比較しながら判断することです。


ワクチンについて「疑問を持つこと」と「誤情報を信じること」は同じではない

ワクチンについて疑問を持つこと自体は、悪いことではありません。

特に、自分の子どもの体に関わることであれば、

「本当に大丈夫なのだろうか」

と慎重になるのは自然な反応です。

医療者側に求められるのは、

「そんなことを心配する必要はありません」

と一方的に否定することではありません。

まず、

「何が心配なのか」

を具体的に確認することです。

そして、

  • どこまで分かっているのか
  • どこには不確実性が残っているのか
  • その感染症にはどの程度の危険性があるのか
  • 接種によってどのような利益が期待できるのか
  • どのような副反応が知られているのか

を、一つずつ共有することが重要です。

これこそが、ワクチン医療における「信頼」の基本だと考えます。


今回のNEJM総説から学べること

ワクチン躊躇への対応は、単に「正しい医学知識を教える」だけでは十分ではありません。

必要なのは、

「科学的根拠」 × 「共感」 × 「信頼関係」 × 「接種しやすい医療環境」

です。

医療従事者がはっきりと推奨する。

疑問があればきちんと聞く。

誤情報があれば人格や価値観を否定せず、根拠を示して訂正する。

そして、その日の接種に至らなくても、次に相談できる関係を残す。

こうした積み重ねが、子どもと家族を感染症から守るための重要な医療になります。


クリニックからのメッセージ

柏五味歯科内科リウマチクリニックでは、予防接種について、

「接種してよいか分からない」

「持病や薬があるけれど大丈夫?」

「以前、副反応があって心配」

といったご相談にも対応しています。

当院には総合内科専門医・リウマチ専門医、消化器・肝臓領域を専門とする医師が在籍しており、基礎疾患や使用中のお薬、過去の接種歴などを確認しながら予防接種について判断します。

特に、リウマチ・膠原病などで免疫抑制薬を使用している場合は、不活化ワクチンと生ワクチンでは対応が異なり、治療薬や接種時期との調整が必要になることがあります。

「ワクチンについて質問したら怒られるのではないか」と心配する必要はありません。

疑問があれば、一緒に整理していくことが大切です。

また当院は医科・歯科を併設しており、同一施設内で情報を共有しながら、全身疾患と口腔疾患の両面から健康管理を行っています。

適切な口腔衛生管理は、むし歯や歯周病を予防・管理するうえで重要です。

一方、PMTCを受けることでワクチンの効果が高まる、あるいは全身の感染症を直接予防できるという意味ではありません。

予防接種、基礎疾患管理、生活習慣、そして口腔衛生を、それぞれの医学的役割に応じて適切に管理していくことが大切です。


受診をご希望の方へ

【医科】

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参考文献

  1. O’Leary ST, Danchin M. Childhood Vaccine Hesitancy. N Engl J Med. 2026;394:2134-2145.
    DOI: 10.1056/NEJMcp2516616
  2. World Health Organization. Behavioural and Social Drivers of Vaccination: Tools and Practical Guidance for Achieving High Uptake. 2022.
  3. Shattock AJ, et al. Contribution of vaccination to improved survival and health: modelling 50 years of the Expanded Programme on Immunization. Lancet. 2024;403:2307-2316.
  4. World Health Organization Global Advisory Committee on Vaccine Safety. Review of vaccines and autism. 2025.
  5. Fasce A, et al. A field test of empathetic refutational and motivational interviewing to address vaccine hesitancy among patients. npj Vaccines. 2025;10:142.
  6. Andersson NW, et al. Aluminum-Adsorbed Vaccines and Chronic Diseases in Childhood: A Nationwide Cohort Study. Ann Intern Med. 2025;178:1369-1377.

【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

柏五味歯科内科リウマチクリニック

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