- 2026年9月10日
【皮膚科・リウマチ膠原病内科】寛解中の乾癬が「傷跡に沿って」再び出現。NEJM症例に学ぶケブネル現象と皮膚外傷による免疫再活性化の仕組み
リサンキズマブで18か月間寛解していた乾癬が、なぜ湿式カッピング後に再び出現したのか。皮膚への外傷によって同じ皮膚疾患の病変が誘発される「ケブネル現象(Koebner phenomenon)」を、最新NEJM症例とともに解説します。
乾癬(Psoriasis)や白斑、扁平苔癬などの皮膚疾患では、治療によって病勢が十分にコントロールされ、皮疹がほとんど消えている状態でも、擦り傷、切り傷、やけど、強い摩擦などを受けた場所に、新しい皮疹が現れることがあります。
このように、もともと皮疹のなかった皮膚が外傷を受けたあと、その部位に元の皮膚疾患と同じ病変が出現する現象を、
「ケブネル現象(Koebner phenomenon)」
あるいは
「同形反応(isomorphic response)」
と呼びます。
2026年7月23日号の『The New England Journal of Medicine(NEJM)』には、リサンキズマブによって18か月間寛解を維持していた乾癬患者が、湿式カッピング(wet cupping)を受けた部位に沿って乾癬を再び生じた症例が報告されました。
乾癬が良好にコントロールされていても、皮膚への外傷によってケブネル現象が起こりうることを、非常に分かりやすく示した症例です。
1.18か月間の寛解後、湿式カッピングの傷に沿って乾癬が出現
患者は35歳の男性です。
中等症から重症の尋常性乾癬(plaque psoriasis)があり、IL-23を標的とする生物学的製剤、
リサンキズマブ(risankizumab)
による治療を受けていました。
治療効果は非常に良好で、過去18か月間にわたり乾癬は寛解状態を維持していました。
しかし受診の2週間前、腰痛を和らげる目的で、初めて湿式カッピング(wet cupping)を受けました。
湿式カッピングでは、皮膚に小さな切開を複数加えたあと、その部分にカップを装着し、陰圧をかけて少量の血液を吸引します。
その2週間後、背中に新しい皮疹が出現しました。
診察すると、
- 肩
- 背中の中央
- 腰部
など、カッピングの際に小切開が加えられた場所と一致して、境界明瞭な紅斑性の丘疹・局面と鱗屑が集簇していました。
重要なのは、皮疹が無秩序に出現したのではなく、
「皮膚が傷つけられた場所に沿って乾癬が再現されていた」
という点です。
この特徴的な分布から、
湿式カッピングによって誘発された乾癬のケブネル現象
と診断されました。
2.ケブネル現象とは?
ケブネル現象は、もともと皮疹のなかった皮膚に外傷が加わったあと、その患者が持っている皮膚疾患と同じ病変が外傷部位に出現する現象です。
古典的には、
- 乾癬
- 白斑
- 扁平苔癬
などで知られています。
乾癬では、
- 擦り傷
- 切創
- やけど
- 手術創
- タトゥー
- 強い摩擦
- 繰り返される掻破
- その他の機械的刺激
などがきっかけになることがあります。
今回のNEJM症例で特に重要なのは、乾癬が18か月間良好にコントロールされていた患者でもケブネル現象が生じたことです。
通常、ケブネル現象は活動性の高い乾癬でみられやすいとされていますが、病勢が安定していても完全に起こらなくなるわけではありません。
3.なぜ「傷ついた場所」に乾癬が現れるのか?
ケブネル現象の分子メカニズムは完全には解明されていません。
しかし現在では、単なる皮膚の傷ではなく、
「皮膚損傷を免疫系が検知し、乾癬に関係する炎症経路が局所で再び動き始める」
ことが重要だと考えられています。
角化細胞が傷つき、「危険信号」が放出される
皮膚が切られたり強く刺激されたりすると、表皮を構成する角化細胞(ケラチノサイト)が損傷します。
すると細胞から、
- 自己DNA
- 自己RNA
- DAMPs(damage-associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)
- LL-37などの抗菌ペプチド
といった物質が放出されます。
これらは、本来は感染や組織損傷から身体を守るために免疫系へ危険を知らせるシグナルです。
LL-37と自己核酸が自然免疫を刺激する
乾癬では、抗菌ペプチドの一つであるLL-37が重要な役割を果たします。
LL-37は、傷ついた細胞から放出された自己DNAやRNAと複合体を形成し、皮膚に存在する免疫細胞を刺激します。
特に、形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell:pDC)が活性化されると、I型インターフェロンなどの炎症シグナルが産生されます。
IL-23/Th17経路へ炎症がつながる
さらに骨髄系樹状細胞などが活性化され、
IL-23/Th17/IL-17を中心とする乾癬に特徴的な免疫経路
へ炎症反応がつながっていくと考えられています。
その結果、
ケラチノサイトの過剰な増殖や角化異常
が起こり、もともと正常に見えていた皮膚に乾癬病変が形成されます。
つまりケブネル現象は、
皮膚外傷
↓
損傷細胞から自己核酸・炎症シグナルが放出
↓
自然免疫系が活性化
↓
IL-23/Th17系など乾癬に関わる炎症反応が再活性化
↓
傷ついた場所に乾癬病変が形成
という流れで理解すると分かりやすいでしょう。
ただし、この免疫経路のすべてが今回の患者で直接測定・証明されたわけではありません。
現在の乾癬研究から考えられている、ケブネル現象を説明する有力な病態モデルです。
4.生物学的製剤を使用していても起こることがある
今回の患者は、乾癬治療薬であるリサンキズマブを使用していました。
リサンキズマブは、乾癬の病態で重要なサイトカインであるIL-23を標的とするモノクローナル抗体製剤です。
この治療によって患者の乾癬は18か月間寛解していました。
それでも皮膚外傷後にケブネル現象が生じました。
ここから分かる重要なポイントは、
「生物学的製剤が効いていない」という意味ではない
ということです。
実際、この患者ではリサンキズマブそのものが変更されたわけではありません。
良好な治療効果が得られている場合でも、強い局所刺激によって皮膚の炎症反応が誘発されることがあるため、薬物治療と同時に皮膚への不要な外傷を避けることも重要なのです。
5.治療はどうしたのか?――リサンキズマブはそのまま継続
今回の患者は、湿式カッピングを中止しました。
一方で、乾癬の基本治療であるリサンキズマブは同じ用量のまま継続されました。
つまり、ケブネル現象が起こったからといって、直ちに生物学的製剤を増量したり、別の薬へ変更したりしたわけではありません。
そして3か月後の再診時には、背部の皮疹は軽快していました。
この経過は非常に示唆的です。
乾癬患者に新しい皮疹が現れた場合には、
「薬が効かなくなったのではないか?」
だけでなく、
「最近、その部位に何らかの外傷や刺激がなかったか?」
という視点も重要です。
6.乾癬患者が日常生活で注意したい皮膚刺激
ケブネル現象を経験したことがある方や、乾癬の活動性が高い方では、必要以上の皮膚外傷を避けることが大切です。
例えば、
- 強く皮膚をこする
- 繰り返し掻く
- 強いあかすり
- 皮膚を傷つける施術
- タトゥー
- 不必要な切創や刺創
- 強い摩擦を繰り返す
などは、状況によって皮疹を誘発する可能性があります。
もちろん、すべての皮膚刺激で必ずケブネル現象が起こるわけではありません。
また、必要な手術・注射・医療処置を一律に避ける必要もありません。
大切なのは、
「乾癬では皮膚への外傷が新しい病変のきっかけになることがある」
という特性を知り、不必要な皮膚刺激を減らすことです。
新しい施術や美容処置、タトゥーなどを検討している場合には、乾癬の活動性や治療状況も含め、事前に主治医へ相談すると安心です。
7.このNEJM症例から学べること
今回の症例から得られる最大の教訓は、
「皮膚症状が消えていること」と「皮膚の免疫学的な素因が完全になくなっていること」は同じではない
という点です。
乾癬は、皮膚だけに限局した単純な「発疹」ではありません。
皮膚のバリア機能、自然免疫、獲得免疫、IL-23/Th17経路などが複雑に関与する慢性炎症性疾患です。
生物学的製剤によって病勢を非常に良好にコントロールできる時代になった一方で、
皮膚を守る生活習慣も治療の一部
と考えることが重要です。
また乾癬では、一部の患者で乾癬性関節炎(Psoriatic Arthritis:PsA)を合併することがあります。
指や足趾の腫れ、朝のこわばり、腱付着部痛、腰痛などを伴う場合には、皮膚だけでなく関節や脊椎を含めた全身評価が必要になることがあります。
クリニックからのメッセージ
当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医および肝臓専門医が在籍し、症状だけを見るのではなく、問診・身体所見・血液検査・画像検査などを組み合わせながら、「なぜその症状が起きているのか」を病態生理から考える診療を大切にしています。
皮疹に加えて、
- 原因不明の関節痛・関節腫脹
- 朝のこわばり
- 指や足趾の腫れ
- 長引く腰痛
- 発熱
- 倦怠感
- その他の全身症状
などを伴う場合には、乾癬性関節炎や膠原病を含めた評価が必要になることがあります。
皮膚疾患そのものについて専門的な皮膚科診療が必要と判断した場合には、適切な皮膚科医療機関と連携しながら対応します。
また、乾癬と歯周病はいずれも慢性炎症を背景とする疾患であり、疫学研究では乾癬患者で歯周炎が多い可能性も報告されています。
ただし、歯周病治療によって乾癬そのものが改善すると断定できる段階ではありません。
全身疾患の治療中であっても、むし歯や歯周病を適切に予防・治療し、良好な口腔環境を維持することは大切です。
当院では医科と歯科が同一施設内で診療しており、必要に応じて情報を共有しながら、全身と口腔の双方から健康管理を行っています。
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正式な引用文献
Demir Y, Kutlubay Z. Koebner Phenomenon from Wet Cupping. N Engl J Med. 2026;395. doi:10.1056/NEJMicm2603647.











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【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
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