• 2026年9月11日

【円形脱毛症】原因・種類・診断を専門医が解説|毛包の自己免疫とトリコスコピー・SALTによる評価

円形脱毛症(Alopecia Areata:AA)は、単に「丸く髪が抜ける病気」ではありません。成長期毛包を標的とした自己免疫反応を背景に、斑状型・全頭型・汎発型・蛇行型・びまん型など多彩な臨床像を示します。本記事では、日本皮膚科学会「円形脱毛症診療ガイドライン2024」に基づき、毛包の免疫寛容が破綻する仕組みから、SALTスコア、ヘアプルテスト、トリコスコピー、鑑別診断、アトピー素因・自己免疫疾患との関連まで詳しく解説します。

円形脱毛症(Alopecia Areata:AA)は、典型的には境界のはっきりした円形または類円形の脱毛斑を生じる、後天性の非瘢痕性脱毛症です。

「非瘢痕性」とは、毛包そのものが不可逆的に破壊されてしまう瘢痕性脱毛症とは異なり、毛包が残っているため、病勢が落ち着けば再び毛が生えてくる可能性があることを意味します。

軽症では小さな脱毛斑が数個程度にとどまり自然に回復することもありますが、一部では脱毛範囲が拡大し、頭髪全体、さらには眉毛・睫毛や体毛まで失われることがあります。日本皮膚科学会も、AAは生命予後を直接悪化させる疾患ではない一方、身体イメージや学校・仕事・社会生活に大きな影響を及ぼし、生活の質(QOL)を低下させる可能性があるとしています。

本邦のレセプトデータベースを用いた研究では、AAの有病率は2012年の0.16%から2019年の0.27%へ増加していました。ただし、調査方法によって推定値には幅があり、「日本人全体の正確な有病率が0.27%である」と断定できるものではありません。

円形脱毛症はなぜ起こる?―成長期毛包への自己免疫反応

円形脱毛症の中心的な病態は、成長期にある毛包組織を標的とする自己免疫反応です。

髪の毛は、

  • 成長期(anagen)
  • 退行期(catagen)
  • 休止期(telogen)

という毛周期を繰り返しています。

通常、成長期の毛包下部には、免疫細胞から過剰な攻撃を受けにくくする「免疫特権(immune privilege)」と呼ばれる仕組みが備わっています。

円形脱毛症では、この毛包の免疫特権が破綻することが病態の重要な鍵と考えられています。

CD8陽性NKG2D陽性T細胞とIFN-γ/IL-15ループ

AAの活動性病変では、CD8陽性・NKG2D陽性の細胞傷害性T細胞が毛包周囲に集まり、インターフェロンγ(IFN-γ)などの炎症シグナルを産生します。

IFN-γによって毛包上皮細胞からIL-15が産生され、IL-15がさらに細胞傷害性T細胞を活性化することで、炎症が維持されるpositive feedback loopが形成されると考えられています。

この免疫反応によって成長期毛包の正常な毛髪産生が妨げられ、脱毛が生じます。

病理組織では毛包周囲にリンパ球が集まる像がみられ、古典的には「swarm of bees(ミツバチの群れ)」と表現されます。

ただし、この所見がすべての患者・すべての病期で必ず認められるわけではありません。

「ストレスだけが原因」ではありません

「強いストレスで円形脱毛症になった」と考えられることがありますが、少し注意が必要です。

AAにはHLAをはじめとする遺伝的素因や免疫関連遺伝子が関与しており、その上に感染症、出産、精神的・身体的ストレスなどの環境要因が発症・増悪のきっかけとなる可能性が考えられています。

一方で、明らかな誘因を認めない患者さんも少なくありません。

したがって、

「ストレスが円形脱毛症を起こす」

と単純に考えるのではなく、

「遺伝的・免疫学的背景を持つ人に、さまざまな環境因子が関与して発症する可能性がある」

と理解する方が現在の医学的理解に近いでしょう。日本皮膚科学会ガイドラインも、これらの環境因子を「引き金になると推察される」と位置づけています。

円形脱毛症にはどのような種類がある?

円形脱毛症は、単に「丸い脱毛斑ができる病気」ではありません。

日本皮膚科学会ガイドラインでは、脱毛斑の数・範囲・形態から主に以下の6つに分類しています。

通常型(斑状型)

もっとも典型的なタイプです。

単発型では脱毛斑が1個、多発型では複数の脱毛斑を認めます。

小さな脱毛斑から始まり、融合して大きくなる場合もあります。

全頭型(alopecia totalis)

脱毛が拡大して、頭髪全体が失われる状態です。

汎発型(alopecia universalis)

頭髪だけでなく、眉毛・睫毛・ひげ・腋毛・陰毛など、全身の毛が広範囲に脱落するタイプです。

蛇行型(ophiasis)

前頭部・側頭部・後頭部などの頭髪の生え際に沿って帯状に脱毛するタイプです。

一般に治療が難しい病型の一つとされています。

逆蛇行型(ophiasis inversus/sisaipho)

蛇行型とは反対に、側頭部・後頭部の毛髪が比較的保たれ、前頭部から頭頂部を中心として脱毛するタイプです。

びまん型

境界明瞭な円形の脱毛斑を形成せず、頭髪全体がびまん性に薄くなるタイプです。

休止期脱毛症や女性型脱毛症などとの鑑別が重要になります。

さらに、頭部全体で急速に脱毛が進行する急速進行型AA(rapidly progressive AA)や、びまん性脱毛を呈する特殊型であるAA incognitaなども知られています。

「どのくらい抜けているか」を客観化するSALTスコア

円形脱毛症では、見た目だけで「軽い」「重い」と評価するのではなく、脱毛面積を客観的に評価することが重要です。

代表的な方法がSALT(Severity of Alopecia Tool)スコアです。

頭皮を、

  • 頭頂部:40%
  • 後頭部:24%
  • 右側頭部:18%
  • 左側頭部:18%

に分け、それぞれの脱毛割合を加重して、頭皮全体の脱毛率を0~100で評価します。

例えばSALT 50であれば、概ね頭髪の50%程度が脱毛していることを意味します。

近年のJAK阻害薬などの臨床試験では、SALT 50以上が重症例を選択する基準として用いられてきました。

ただし、実際の患者さんの負担は脱毛面積だけでは決まりません。

眉毛・睫毛の脱毛、急速な進行、長期間の治療抵抗性、そして精神・社会生活への影響も重要です。

AA-cubeとは?―「診断」ではなく治療選択を考える3次元モデル

2024年版ガイドラインで新たに提示された考え方の一つがAA-cubeです。

ここは非常に重要ですが、AA-cubeは円形脱毛症を診断するための分類法ではありません。

AA-cubeは、

年齢 × 重症度 × 病期

の3つを立体的な「cube」として捉え、どの治療法が適しているかを考えるための治療選択の概念モデルです。

例えば同じ脱毛面積でも、

「最近急速に脱毛が拡大している患者さん」と
「数年間ほぼ一定の範囲で続いている患者さん」

では、適切な治療戦略が異なる可能性があります。

治療法については、別の記事で詳しく解説します。

円形脱毛症はどのように診断する?

円形脱毛症の診断では、

問診 → 視診 → ヘアプルテスト → トリコスコピー → 必要に応じて血液検査・病理検査

という流れで評価していきます。

特に重要なのは、

「円形脱毛症らしいか」だけでなく、「ほかの脱毛症ではないか」を確認すること

です。

ヘアプルテスト―現在も髪が抜けやすい状態なのかを見る

ヘアプルテスト(gentle hair pull test)は、50~60本程度の毛髪をまとめて、頭皮に近い部分から優しく牽引する検査です。

健常な頭皮では抜ける毛は通常2本以下で、ガイドラインでは約10%以上の毛が抜けた場合を陽性としています。

活動性の高いAAでは、脱毛斑やその周囲で陽性になることがあります。

特にびまん型や急速進行型では、見た目には正常な部位でも陽性になる場合があります。

一方で、慢性期には陰性になることがあるため、ヘアプルテスト陰性だけでAAを否定することはできません。

トリコスコピー―毛髪と頭皮を拡大して病勢を読む

トリコスコピー(trichoscopy)は、頭皮・毛髪に対して行うダーモスコピーです。

円形脱毛症の診断と病勢評価の両方に非常に有用です。

代表的な所見には、

  • yellow dots(黄色点)
  • black dots(黒点)
  • broken hairs(断裂毛)
  • exclamation mark hairs(感嘆符毛)
  • tapered hairs/coudability hairs(漸減毛)
  • short vellus hairs(短軟毛)

などがあります。

特に、

感嘆符毛、漸減毛、黒点、断裂毛

は活動期に認められやすい所見です。

「黒点がある=円形脱毛症」とは限らない

ここは診断上とても重要です。

black dotsやbroken hairsは、頭部白癬やトリコチロマニア(抜毛症)でも認められます。

yellow dotsも男性型脱毛症などで認められることがあります。

したがって、一つの所見だけでAAと診断するのではなく、複数の所見と臨床像を組み合わせます。

一方、漸減毛、Pohl-Pinkus constriction、pigtail hairs、感嘆符毛などはAAへの特異度が比較的高く、診断の信頼性を高める所見とされています。

円形脱毛症と区別すべき病気

「髪が抜ける」という症状を生じる疾患は非常に多くあります。

AAと鑑別する代表的な疾患には、

  • トリコチロマニア(抜毛症)
  • 男性型脱毛症(AGA)
  • 女性型脱毛症
  • 休止期脱毛症
  • 頭部白癬
  • 牽引性・圧迫性脱毛症
  • 梅毒性脱毛
  • 先天性三角形脱毛症
  • 慢性皮膚エリテマトーデス
  • 毛孔性扁平苔癬
  • frontal fibrosing alopecia
  • その他の原発性瘢痕性脱毛症

などがあります。

特に診察では、

毛孔が残っているか、紅斑・鱗屑・痂皮がないか、毛髪がどのように折れているか、脱毛の分布はどうか

といった点を丁寧に評価します。

毛孔が消失している場合には瘢痕性脱毛症を考える必要があり、早期診断が非常に重要です。

円形脱毛症は「髪だけの病気」とは限らない

AAそのものの病変は主に毛包と爪に生じますが、自己免疫疾患やアトピー性疾患を合併する患者さんがいます。

日本皮膚科学会ガイドラインでは、

  • 橋本病などの甲状腺疾患
  • 尋常性白斑
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
  • 関節リウマチ
  • 1型糖尿病
  • 重症筋無力症

などとの合併が報告されています。

ただし、AA患者全員に網羅的な自己抗体検査を行うという意味ではありません。

病歴、症状、家族歴、身体所見などから必要性を判断し、疑われる疾患に応じて血液検査などを追加することが重要です。

アトピー素因と円形脱毛症

円形脱毛症では、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアトピー性疾患を合併する割合が高いことが知られています。

本邦の報告では、患者本人または家族にアトピー素因を認める例が少なくなく、重症例ほどアトピー素因の合併率が高い傾向も報告されています。

一方で、

「アトピーがあるから必ず円形脱毛症が重症化する」

という単純な関係ではありません。

日本皮膚科学会も、アトピー素因がAAの発症や臨床像に関係している可能性は高いものの、その詳しい機序についてはまだ十分に解明されていないとしています。

爪にもサインが出ることがあります

円形脱毛症では毛髪だけでなく、爪に変化が現れることがあります。

代表的なのは、爪表面に小さな凹みが多数みられる点状陥凹(nail pitting)などです。

特に慢性・重症例では爪の変化を伴うことがあり、頭皮だけでなく爪を含めた診察が重要です。

円形脱毛症の診断で大切なのは「面積」だけではありません

現在のAA診療では、

何%抜けているか

だけでなく、

どのくらい速く進んでいるか、眉毛・睫毛への影響があるか、慢性化しているか、日常生活や精神面にどの程度影響しているか

まで含めて評価します。

国際的に提唱されたAlopecia Areata Scale for Clinical Useでも、脱毛面積に加え、

  • 精神・社会生活への影響
  • 眉毛・睫毛の脱毛
  • 6か月以上治療しても改善が乏しいこと
  • 急速進行を示す広範なヘアプルテスト陽性

などを重症度評価に加える考え方が提示されています。

円形脱毛症は、「脱毛斑の大きさ」だけでは測れない疾患なのです。

クリニックからのメッセージ

円形脱毛症は、一見すると頭皮だけの病気に見えますが、その背景には自己免疫、アトピー素因、甲状腺疾患などが関与している場合があります。

当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医および肝臓専門医が在籍しており、問診、身体所見、血液検査などから、脱毛の背景に全身性疾患が隠れていないかを「点ではなく線」で評価することを大切にしています。

一方、円形脱毛症そのものの確定診断やトリコスコピー、専門的な皮膚科治療が必要と判断される場合には、皮膚科専門医との連携が重要です。

「急に髪が抜けてきた」
「脱毛とともに倦怠感や関節痛など別の症状もある」
「甲状腺疾患や自己免疫疾患がないか心配」

といった場合には、全身的な評価も含めてご相談ください。

なお、口腔衛生管理は全身の健康維持、とりわけ歯周病や菌血症リスクを減らすうえで重要ですが、PMTCや歯周病治療によって円形脱毛症そのものが改善することを示す十分な医学的根拠は現時点ではありません。

当院では医科と歯科が同一施設内で連携し、基礎疾患や使用薬剤を共有したうえで、安全な歯科治療・口腔管理を行っています。


受診をご希望の方へ

👉 【医科】総合内科・リウマチ膠原病内科・アレルギー疾患・自己免疫疾患、各種血液・画像検査など

※当院の内科は土曜日も17時まで診療しております。

👉 【歯科】根管治療・むし歯・歯周病・予防歯科・有病者歯科・PMTCなど

※当院の歯科は土曜日14時まで診療しております。

📞 お電話でのご予約・お問い合わせ
【医科】04-7196-7531
【歯科】04-7191-7081

🏥 柏五味歯科内科リウマチクリニック
〒277-0902 千葉県柏市大井764-1
大井交差点近く・駐車場完備


参考文献

  1. 日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン策定委員会. 円形脱毛症診療ガイドライン2024. 日本皮膚科学会雑誌. 2024;134(10):2491-2526.
  2. Ohyama M, et al. Japanese Dermatological Association’s Clinical Practice Guidelines for Alopecia Areata 2024: A Complete English Translated Version. J Dermatol. 2025;52:e876-e907.
  3. Kinoshita-Ise M, Sachdeva M. Update on trichoscopy: Integration of the terminology by systematic approach and a proposal of a diagnostic flowchart. J Dermatol. 2022;49:4-18.
  4. King BA, Mesinkovska NA, Craiglow B, et al. Development of the alopecia areata scale for clinical use. J Am Acad Dermatol. 2022;86:359-364.

あわせて読みたい

① 円形脱毛症に合併しやすい橋本病などの甲状腺疾患について知りたい方へ

【総合内科】Hoffmann症候群:筋偽肥大を伴う甲状腺機能低下性ミオパチーの一例

円形脱毛症では、橋本病をはじめとする甲状腺疾患を合併することがあります。脱毛に加えて倦怠感、体重増加、寒がり、便秘、むくみなどがある場合には甲状腺機能の評価も重要です。橋本病による甲状腺機能低下症が全身にどのような症状を起こすのか、実際の症例を通して解説しています。

② アトピー・アレルギー素因や難治性の皮膚症状について詳しく知りたい方へ

【皮膚科・アレルギー科】かぶれや全身の難治性皮膚炎、金属アレルギーの原因を科学的に特定するパッチテストの体の仕組み

円形脱毛症ではアトピー性疾患を合併する患者さんが少なくありません。一方、頭皮の赤み・かゆみ・湿疹などが目立つ場合には、接触皮膚炎など別の皮膚疾患との鑑別も重要です。日常生活で触れる物質による遅延型アレルギーを調べるパッチテストについて詳しく解説しています。

③ 脱毛だけでなく、関節痛・発熱・呼吸器症状など全身症状がある方へ

【総合内科・リウマチ膠原病内科】息苦しさや長引く空咳は「間質性肺炎」かも?レントゲンで見える『すりガラス影』と膠原病のサイン

円形脱毛症では、SLEや関節リウマチなどの自己免疫疾患を合併することがあります。原因不明の発熱、関節痛、レイノー現象、息切れ、長引く咳などを伴う場合には、頭皮だけではなく全身を評価することが大切です。膠原病を全身症状から考える診断のポイントを解説しています。

「円形脱毛症の治療についてはこちら」→治療編

【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

柏五味歯科内科リウマチクリニック

ホームページ