- 2026年9月7日
【NEJM2026】線維筋痛症とは?「全身の痛み」が続く脳の仕組みと最新治療|中枢性感作を専門医が解説
レントゲンやMRIでは明らかな異常がなく、血液検査でも炎症反応(CRPやESR)が正常。それにもかかわらず、軽く触れられただけでも強い痛みを感じたり、全身の耐えがたい痛みが数か月以上続いたりする――。
こうした症状を特徴とする病気の一つが、「線維筋痛症(Fibromyalgia)」です。
かつてはその病態が十分に理解されず、「気のせい」「精神的な問題」と誤解されることもありました。しかし現在では、線維筋痛症は単純な筋肉や関節の損傷ではなく、脳や脊髄を含む中枢神経系における痛み・感覚処理の変化が深く関与する疾患として理解されるようになっています。
世界最高峰の医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』2026年7月16日号に掲載されたClinical Practiceレビューでは、線維筋痛症における中枢神経系の過敏性と、科学的根拠(EBM)に基づく包括的な治療戦略が整理されています。
1. 「痛みのボリューム」が上がった状態:痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)の仕組み
健康な体では、皮膚や関節、筋肉などから生じた痛みの情報が脊髄を通って脳へ伝わる一方、脳から脊髄へ向かう「下行性疼痛抑制系」などによって、その信号は適切に調整されています。
ところが線維筋痛症では、この痛みの調整機構がうまく働かず、本来なら強い痛みとして認識されない刺激まで、強い痛みとして感じやすくなることがあります。
このような状態には、中枢性感作(central sensitization)と呼ばれる神経系の過敏化が関与すると考えられています。
また国際疼痛学会(IASP)は、明らかな組織損傷による「侵害受容性疼痛」や、神経そのものの損傷による「神経障害性疼痛」だけでは説明できない痛みのメカニズムとして、「nociplastic pain(痛覚変調性疼痛)」という概念を提唱しています。
線維筋痛症は、この痛覚変調性疼痛を代表する疾患の一つです。
重要なのは、nociplastic painと中枢性感作は完全な同義語ではないという点です。中枢性感作は痛覚変調性疼痛を説明する重要な神経生理学的メカニズムの一つと考えられています。
近年の研究では、線維筋痛症にみられる感覚過敏には、大きく2つの方向からの影響が関与すると考えられています。
- Top-down(中枢側からの影響):睡眠障害、疲労、認知機能の変化、心理社会的ストレスなど、中枢神経系の状態が痛みの感じ方を増幅させる方向に働くもの。
- Bottom-up(末梢側からの影響):関節リウマチ、変形性関節症、外傷などによる持続的な末梢からの痛み刺激が、中枢神経系の過敏化を促すもの。
実際、線維筋痛症は単独で生じることもありますが、関節リウマチなどの自己免疫疾患や他の慢性疼痛疾患に重なって認められることもあります。
2. 「すべて除外して最後につける病名」ではない:2016年改訂診断基準
以前の線維筋痛症は、「他の病気が見つからなければ最後に疑う」という印象を持たれることもありました。
しかし現在は、痛みの分布や疲労、睡眠障害、認知症状などを積極的に評価して診断する考え方へと変化しています。
2016年改訂基準では、主に以下を評価します。
- Widespread Pain Index(WPI):全身19か所のうち、過去1週間に痛みがあった部位を0〜19点で評価します。
- Symptom Severity Scale(SSS):疲労、睡眠から覚めてもすっきりしない感覚、認知症状、頭痛・下腹部痛・抑うつなどを評価します。
診断基準では、例えば、
WPI 7点以上+SSS 5点以上
または
WPI 4〜6点+SSS 9点以上
といった組み合わせに加え、
- 全身5領域のうち4領域以上に痛みがあること
- 症状が少なくとも3か月以上持続していること
などを総合的に評価します。
非常に重要なのは、他の病気が存在していても線維筋痛症を診断できるという点です。
例えば関節リウマチの患者様で、炎症そのものは十分にコントロールされているにもかかわらず全身の痛みが強く残る場合、関節リウマチによる炎症性疼痛に線維筋痛症が重なっている可能性があります。
したがって、線維筋痛症の診断では、
「炎症があるか、ないか」
だけではなく、
「現在感じている痛みのうち、どの程度が末梢の炎症で、どの程度が中枢神経系の痛み調整異常によるものなのか」
を見極めることが重要になります。
なお、WPIやSSSを組み合わせた指標は症状の広がりや重症度を把握するうえで有用ですが、単独で「中枢性感作の強さを直接測定する検査」ではありません。
3. なぜ一般的な鎮痛薬が効きにくいのか:中枢神経系を標的とした薬物療法
線維筋痛症の痛みを、炎症性疾患と同じように治療し続けることには限界があります。
例えばNSAIDs(ロキソプロフェンなど)は、炎症や組織損傷に由来する痛みに有効な薬剤ですが、線維筋痛症そのものに対する鎮痛効果については十分な有効性が示されていません。
アセトアミノフェンについても、線維筋痛症そのものに対する有効性を支持するエビデンスは限定的です。
さらに、強力なオピオイドは線維筋痛症には原則として推奨されません。
長期使用では依存、耐性、眠気、転倒などの有害事象に加え、患者によっては「オピオイド誘発性痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia)」によって、かえって痛みに過敏になる可能性も指摘されています。
一方、線維筋痛症では中枢神経系の痛み処理に作用する薬剤が治療選択肢になります。
① 三環系抗うつ薬など
アミトリプチリンなどは、少量を夜間に使用することで、痛みだけでなく睡眠障害の改善に役立つことがあります。
また米国では2025年、舌下シクロベンザプリン(sublingual cyclobenzaprine)が線維筋痛症治療薬としてFDA承認されました。
② ガバペンチノイド
プレガバリンやガバペンチンは、神経終末の電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに作用し、興奮性神経伝達物質の放出を抑えることで、痛みの増幅を弱める方向に働きます。
③ SNRI
デュロキセチンやミルナシプランは、セロトニン・ノルアドレナリン系を介して、中枢神経系における疼痛調節機構を改善すると考えられています。
ただし、これらの薬剤はすべての患者様に効くわけではありません。
睡眠障害が強いのか、疲労が強いのか、不安・抑うつを伴うのか、どの薬剤に副作用が出やすいのかなどを考慮しながら、患者様ごとに治療を組み立てます。
薬剤併用という選択肢
プレガバリンとデュロキセチンを比較した小規模ランダム化比較試験では、中等度以上のglobal pain reliefを得た患者の割合は、プレガバリン単剤39%、デュロキセチン単剤42%に対し、併用群では68%でした。
ただし、この研究は参加者41名の小規模試験であり、「併用すれば68%の患者様が必ず改善する」という意味ではありません。
薬剤併用についてはまだ十分な大規模エビデンスがあるとは言えず、単剤での効果や副作用を確認しながら慎重に検討する必要があります。
4. 「安静にし続けない」ことが重要:運動療法と非薬物療法
線維筋痛症の治療で非常に重要なのが、薬物療法だけに頼らないことです。
特に有酸素運動や筋力トレーニングには、痛み、身体機能、QOLなどを改善する効果が示されています。
ただし、
「痛いのだから無理に動けばよい」
という意味ではありません。
線維筋痛症の患者様では、急激に運動量を増やすと症状が悪化することがあります。
そのため、
「Start low, go slow(低い負荷から始め、ゆっくり増やす)」
という考え方が非常に重要です。
例えば、
- 数分程度の散歩から始める
- 軽いストレッチを行う
- 低負荷の筋力トレーニングを少量から始める
- 水中運動など関節への負担が少ない運動を利用する
など、患者様の状態に合わせて継続できる方法を選びます。
運動を続けることで、「動くこと=危険」という神経系の過剰な警戒反応が徐々に弱まり、身体機能を回復させていくことが期待されます。
認知行動療法(CBT)・マインドフルネスなど
慢性的な痛みが続くと、
「このままずっと治らないのではないか」
「動いたら体がさらに壊れるのではないか」
という不安が生じることがあります。
こうした痛みに対する恐怖や破局的思考(catastrophizing)は、活動量の低下や睡眠障害を介して、慢性疼痛をさらに維持する一因になることがあります。
そのため、
- 痛みのメカニズムについて正しく理解するPain education
- 認知行動療法(CBT)
- マインドフルネス
- ヨガ
- 太極拳
- 気功
なども、患者様によっては治療の一部として有用です。
線維筋痛症は、単に「痛み止めを強くしていけば治る病気」ではありません。
睡眠、運動、心理社会的要因、薬物療法を組み合わせながら、中枢神経系に生じている過剰な感覚処理を少しずつ整えていくことが治療の中心になります。
NEJMレビューでも、線維筋痛症は必ずしも「完治」を目標とする疾患ではない一方、多くの患者様では適切な治療によって十分なコントロールが可能であることが強調されています。
□クリニックからのメッセージ
当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医、および肝臓専門医が在籍し、原因不明の全身の痛みやだるさについて、症状だけを見て安易に「線維筋痛症」と診断するのではなく、まずその背景に他の疾患が隠れていないかを丁寧に評価します。
線維筋痛症と似た症状をきたす病気には、
- 関節リウマチ
- 脊椎関節炎
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- シェーグレン症候群
- 炎症性筋疾患
- 甲状腺疾患
- 貧血
- 感染症
- 睡眠障害
など、さまざまな疾患があります。
身体診察や血液検査を基本として、症状や診察所見に応じて自己抗体検査、超音波検査、X線・MRIなどを組み合わせ、
「炎症や臓器障害による痛みなのか」
「神経障害性疼痛なのか」
「痛覚変調性疼痛が関与しているのか」
を総合的に検討します。
線維筋痛症と判断した場合には、睡眠、運動、日常生活、併存疾患なども含めて評価し、必要に応じて中枢神経系に作用する薬物療法や運動療法などを組み合わせた治療をご提案します。
当院の内科は土曜日の午後も17時まで診療を行っており、平日に通院が難しい患者様にも継続して受診していただける体制を整えています。
また、線維筋痛症や慢性疼痛の患者様では、薬剤の副作用や自律神経機能の変化などによって、口腔乾燥(ドライマウス)がみられることがあります。
唾液分泌が低下すると、むし歯や歯周病のリスクが高くなるため、口腔内を清潔に保つことも大切です。また、顎周囲の痛みや筋緊張によって、口を開けにくい、歯磨きが十分にできないといった問題を抱える患者様もいます。
当院では医科と歯科が連携し、内服薬、全身状態、痛みの程度、口腔乾燥などの情報を共有しながら、患者様のお体への負担に配慮した歯科治療・口腔ケアを行っています。
線維筋痛症そのものを歯科治療によって改善させるという意味ではありませんが、むし歯や歯周病、ドライマウスなどの口腔トラブルを適切に管理し、慢性疼痛を抱える患者様の生活の質を歯科の側面から支えることも、医科歯科連携の重要な役割だと考えています。
原因不明の全身の痛みやだるさ、慢性疲労、お口の乾きなどでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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David A. Williams, and Daniel J. Clauw. “Fibromyalgia.” The New England Journal of Medicine. 2026; 395(3): 267-277. DOI: 10.1056/NEJMcp2411656
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【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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