- 2026年9月1日
多発性硬化症におけるリツキシマブとオクレリズマブの直接比較試験(OVERLORD-MS試験)の結果。MEJM2026。
新規発症・再発寛解型MSを対象とした世界初の二重盲検直接比較第3相試験。MRI病変抑制率92.2% vs 94.8%で非劣性を立証し、医療経済性と高力価治療のアクセシビリティを拓く。
中枢神経系(脳・脊髄・視神経)のミエリン鞘が自己免疫によって攻撃され、若年期の患者様に多彩な神経障害をもたらす「再発寛解型多発性硬化症(Relapsing Multiple Sclerosis: RMS)」。近年の神経免疫学の進歩により、B細胞表面に発現するCD20分子を標的とする「抗CD20モノクローナル抗体」は、疾患の進行と再発を強力に抑え込む最前線の高力価治療(High-Efficacy Therapy)として確固たる地位を築きました。
しかし、臨床現場と医療経済には長年解決されない巨大なジレンマが存在していました。多発性硬化症に対して正式に適応承認されたヒト化抗CD20抗体「オクレリズマブ(商品名:オクレファス等)」は極めて高額であり、多くの国や地域で経済的なアクセス障壁となっています。一方、先行バイオ医薬品であり後発のバイオシミラー(バイオ後続品)も普及しているキメラ型抗CD20抗体「リツキシマブ」は、薬価が大幅に安価で世界保健機関(WHO)の必須医薬品モデルリストにも収載されているものの、多発性硬化症に対する適応外使用(オフラベル)が中心であり、両者を直接比較した厳格なランダム化比較試験(Head-to-Head RCT)のエビデンスが世界的に欠落していたのです。
2026年7月、世界最高峰の医学誌『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に掲載されたノルウェー・スウェーデンの共同研究グループによる「OVERLORD-MS試験」は、この長年の問いに対する試験となります。
1. 初発・未治療の高活動性RMSを対象とした厳格な二重盲検デザイン
本試験は、過去12ヶ月以内に新規診断され、直近1年間に臨床的再発またはMRIでの活動性病変を認めた18〜60歳の治療未導入(未治療)の再発寛解型MS患者218名を対象に実施された、多施設共同・二重盲検・非劣性第3相試験です。 参加者は3:2の比率で無作為に割り付けられ、リツキシマブ群(132名:初回1000mg、以降6ヶ月ごとに500mg点滴静注)またはオクレリズマブ群(84名:初回および6ヶ月ごとに600mg点滴静注)を24ヶ月間にわたり投与されました。 主要評価項目には、B細胞枯渇療法の完全な効果発現を待つため、治療開始6ヶ月後から24ヶ月後までの期間における「頭部T2強調MRIでの新規または拡大病変の完全抑制率(病変なし)」が設定され、オクレリズマブに対するリツキシマブの非劣性マージンはリスク差−10パーセントポイントと事前規定されました。
2. 主要評価項目における非劣性の達成:抑制率92.2% vs 94.8%
解析の結果、治療6ヶ月から24ヶ月の間にT2新規・拡大病変を認めなかった割合(モデル推定確率)は、リツキシマブ群で92.2%(実測 117/132名、89%)、オクレリズマブ群で94.8%(実測 78/84名、93%)でした。 両群のリスク差は−2.6パーセントポイント(95%信頼区間: −9.4〜4.3)となり、95%信頼区間の下限値(−9.4)が事前規定された非劣性マージン(−10)を上回ったため、オクレリズマブに対するリツキシマブの統計学的非劣性が証明されました(p=0.03)。感度分析やPer-Protocol集団においても同様に一貫した非劣性が確認されています。
3. 年間再発率・身体障害進行・認知機能の臨床的同等性
副次評価項目においても、両薬剤はほぼ同等の卓越した疾患制御力を示しました。
- 年間再発率(ARR):リツキシマブ群で0.09回/年、オクレリズマブ群で0.04回/年と、いずれの群でも極めて低い水準に抑制されました(群間差 0.05回/年、95% CI: −0.02〜0.12)。
- 無再発維持率:24ヶ月間一度も再発を起こさなかった患者の割合は、リツキシマブ群で92%、オクレリズマブ群で94%に達しました。
- 身体障害スコア(EDSS)の推移:6ヶ月持続する確認された障害進行(6M-CDP)はリツキシマブ群で3%、オクレリズマブ群で7%と低率であり、逆に6ヶ月持続する障害改善(6M-CDI)はリツキシマブ群で29%、オクレリズマブ群で24%に認められました。
- 認知機能(SDMT):情報処理速度を評価するSDMTスコアの悪化率は、リツキシマブ群2%、オクレリズマブ群3%と両群で極めて稀でした。
4. 安全性プロファイル:感染症頻度と長期管理の留意点
重篤な有害事象(SAE)の発生率はリツキシマブ群で8%(10名)、オクレリズマブ群で7%(6名)と同等であり、治療中止に至った有害事象もそれぞれ2%と1%と低率で、死亡例は認められませんでした。インフュージョンリアクション(点滴時反応)の頻度も23% vs 25%とほぼ差はありませんでした。 一方で、全体の感染症報告率はリツキシマブ群で82%、オクレリズマブ群で69%と、リツキシマブ群でやや高い傾向がみられました。その大半は軽度の上気道炎や咽頭炎、Covid-19であり、入院を要する重篤な感染症は両群ともに4名ずつ(3% vs 5%)と低率でした。また、重篤な低ガンマグロブリン血症(IgG < 4g/L)はリツキシマブ群0%、オクレリズマブ群2%でした。
本研究は、高額な特許医薬品であるオクレリズマブに対し、バイオシミラーが利用可能で安価なリツキシマブが、新規診断MSの初期病変抑制において医学的に遜色のない効果を発揮することを最高度のエビデンスレベルで証明しました。限られた医療資源の中で、より多くの患者様に早期から高力価治療を届けるための世界的な治療選択肢の拡大に直結する医療経済に優しい臨床エビデンスです。
□クリニックからのメッセージ
当院では、総合内科専門医・リウマチ膠原病専門医、および肝臓専門医が在籍し、日々勉学に努めることで正確な診断・治療を行えるよう努力を積み重ねています。患者様の訴えが、どのような「体の仕組み」で起きているのかを、身体診察、綿密な血液検査や超音波スクリーニング・必要に応じてCT等から論理的に解き明かし、正確な診断ならびに安全な治療管理プログラムをご提案します。当院の内科・発熱外来は土曜日の午後も17時まで診療を行っており、平日お忙しくて精密な健康管理や検査になかなか通えない患者様でも、週末にゆとりを持って専門医によるきめ細かなフォローアップを受けていただくことが可能です。
また、神経免疫疾患や自己免疫疾患の治療において、お口の中の衛生管理(歯科管理)は、見過ごされがちですが極めて重要な「防衛ライン」です。本試験の抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブやオクレリズマブ)のように、B細胞を長期間にわたり枯渇させる高力価免疫療法を行っている局面では、抗体産生能や生体防御能が変化し、感染症に対する抵抗力が低下します。この状態でお口の中に重度の歯周病(慢性炎症)が存在していると、食事の際の咀嚼(噛むこと)や毎日のハミガキといった些細な刺激によって、歯周ポケットの血管から大量の口腔内細菌が容易に血液中に侵入します(一過性菌血症)。健康な状態であれば免疫によって排除されますが、B細胞枯渇療法中の方や糖尿病などの持病をお持ちの方、あるいは高齢の患者様などの構造的な弱点(基質)がある状態では、血液に乗って流れてきたお口の細菌が肝臓や心臓の弁、人工関節などに定着し、重症の化膿性感染症や全身性敗血症を引き起こす直接の引き金(原因経路)となってしまいます。当院の歯科は土曜日午後2時(14時)まで診療を行っており、医科と歯科が同じ電子カルテのもとで緊密に連携する「医科歯科連携治療」の強みを活かし、内科での全身管理と連動しながら、プロによる徹底的なお口の清掃(PMTCによるバイオフィルム除去)を提供します。体全体の入り口であるお口の細菌をきれいにリセットすることで、内科治療の安全性を飛躍的に高め、生涯にわたるお体の健康をトータルで支え抜きます。手足のしびれや脱力、原因不明のだるさ、お口の乾きやトラブルにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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Øivind Torkildsen, Hilde Kjelgaard Brustad, Einar August Høgestøl, et al. “Rituximab versus Ocrelizumab in Newly Diagnosed Relapsing Multiple Sclerosis.” The New England Journal of Medicine. 2026; 395(1): 44-53.
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【執筆・監修医師プロフィール】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。
■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。
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