• 2026年9月15日

【消化器・肝臓内科】黄色ブドウ球菌性感染性心内膜炎の経過中に顕在化した自己免疫性肝炎(AIH)|肝生検が導いた診断と治療

感染症の治療中に、隠れていた別の病気「自己免疫性肝炎」が見つかった珍しい症例です。重い感染症があると、すべての検査異常をその病気の影響と考えてしまいがちですが、本症例は、「一つの異常を一つの病気だけで説明しないこと」「血液検査の変化を時間の流れで追うこと」の大切さを教えてくれます。

感染性心内膜炎(Infective Endocarditis:IE)は、心臓弁や心内膜に細菌などが感染して疣贅(vegetation)を形成し、菌血症だけでなく、脳・腎臓などへの塞栓症や弁破壊を引き起こす重篤な感染症です。

感染性心内膜炎の経過中に肝機能異常を認めた場合には、

  • 敗血症に伴う肝障害・胆汁うっ滞
  • 循環不全による虚血性肝障害
  • 薬剤性肝障害(DILI)
  • ウイルス性肝炎
  • 胆道疾患
  • 自己免疫性肝炎(AIH)

など、複数の病態を同時に考える必要があります。

今回紹介するNEJM Clinical Problem-Solving「The Unusual Suspects」(2026年)は、クローン病と乾癬の既往を持つ53歳男性が、黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎と多発性塞栓症を発症し、その治療経過中に自己免疫性肝炎が明らかになった症例です。

感染症だけでは説明しきれない肝障害を、「経過」「薬剤」「自己抗体」「IgG」「肝病理」という複数の情報から解き明かしていく、総合内科的な臨床推論が非常に示唆に富む症例です。

1.患者背景と初診時の所見

患者は53歳男性。

クローン病および乾癬の既往があり、内服・注射治療として、

  • ブデソニド 9 mg/日
  • デュピルマブ 300 mg/2週

を約2年間継続していました。

救急外来を受診したきっかけは、

  • 2日前からの頭痛
  • 構音障害
  • 嘔気・嘔吐

でした。

さらに妻からの情報によって、約2週間前から黄疸と濃色尿が出現していたことも判明しました。

感染性心内膜炎を示唆する身体所見

診察では頻脈(130回/分)に加え、心尖部に全収縮期雑音を認めました。

さらに、

  • 左手掌小指球部の無痛性皮疹:Janeway病変を示唆
  • 左第4足趾の有痛性結節:Osler結節を示唆
  • 爪下の線状出血:splinter hemorrhage

といった、感染性心内膜炎を考えるうえで重要な末梢所見が認められました。

神経学的には構音障害を認めました。

血液検査

主な検査値は、

  • 白血球:34,000/μL
  • eGFR:47.6 mL/min/1.73m²
  • AST:810 IU/L
  • ALT:1,965 IU/L
  • 総ビリルビン:10.2 mg/dL

と、著明な炎症反応および肝細胞障害を示していました。

特にALTがASTを大きく上回っており、単純なアルコール関連肝障害だけでは説明しにくいパターンでした。

2.脳梗塞・脳出血・腎梗塞――全身へ飛散した敗血症性塞栓

頭部MRI・CT血管造影では、

  • 左前頭葉および小脳の塞栓性脳梗塞
  • 左前頭葉の微小な感染性脳動脈瘤
  • くも膜下出血・硬膜下出血

などが認められました。

また、腹部画像では楔状の腎梗塞も確認されました。

つまり、心臓で形成された感染性疣贅から塞栓子が全身へ飛散していたと考えられます。

3.MSSAによる僧帽弁感染性心内膜炎

血液培養からメチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出されました。

経胸壁・経食道心エコーでは、

  • 僧帽弁前尖A2領域の約1.2 cmの疣贅
  • 僧帽弁前尖の穿孔
  • 重症僧帽弁逆流
  • 肺静脈への逆流

が確認されました。

以上から、

MSSAによる僧帽弁感染性心内膜炎+多発性敗血症性塞栓症

と診断され、オキサシリンを中心とした抗菌薬治療が開始されました。

感染症の治療に伴い、それまでクローン病に対して使用されていたブデソニドはいったん中断されました。

4.感染症が改善しているのに、なぜ肝酵素が再上昇したのか

抗菌薬治療により白血球数などは改善しました。

ところが、入院6~14日目にかけて肝酵素が再び上昇し、

  • AST:最大984 IU/L
  • ALT:最大674 IU/L

まで悪化しました。

一方で、ビリルビンやアルカリホスファターゼは低下傾向を示し、血液培養も入院7日目以降は陰性化しました。

ここがこの症例の重要な転換点です。

感染症そのものが改善しているにもかかわらず、肝細胞障害だけが再び悪化している。

したがって、「感染性心内膜炎に伴う肝障害」だけでは説明できない別の病態を探す必要がありました。

5.自己免疫性肝炎を示した自己抗体とIgG高値

ウイルス性肝炎を含む感染性疾患や、その他の肝疾患について詳細な評価が行われました。

その結果、

  • ANA(抗核抗体):1:320
  • 抗平滑筋抗体:35 U
  • IgG:3,238 mg/dL

と、自己免疫性肝炎を強く示唆する所見が認められました。

一方、抗ミトコンドリア抗体や抗LKM抗体は陰性でした。

ただし、ANAやIgGが高いというだけで自己免疫性肝炎と診断することはできません。

感染症、薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎などでも類似した所見をとる場合があるためです。

そこで決定的な情報を得るため、肝生検が行われました。

6.肝生検が明らかにした「界面肝炎」と形質細胞浸潤

肝生検では、

  • 高度の門脈域・小葉内肝炎
  • 高度な界面肝炎(interface hepatitis)
  • 多数の形質細胞浸潤
  • 門脈域―中心静脈間の架橋性壊死
  • 肝細胞壊死

が認められました。

特に形質細胞は、単核炎症細胞のおよそ40%を占め、多数の集簇を形成していました。

「界面肝炎」とは?

自己免疫性肝炎では、自分自身の免疫細胞が肝細胞を誤って攻撃します。

その代表的な病理所見が、門脈域と肝実質の境界部分に炎症が集中する「界面肝炎(interface hepatitis)」です。

さらに形質細胞が多数浸潤していることもAIHを支持する重要な所見です。

本症例では、

  • ANA陽性
  • 抗平滑筋抗体陽性
  • IgG高値
  • ウイルス性肝炎の除外
  • AIHに典型的な肝組織像

を総合し、International Autoimmune Hepatitis Group(IAIHG)のSimplified AIH Scoreに基づいて、

definite autoimmune hepatitis(確実な自己免疫性肝炎)

と診断されました。

7.クローン病治療薬ブデソニドが「AIHを隠していた」可能性

この症例で非常に興味深いのが、ブデソニドの存在です。

患者はクローン病に対してブデソニド9 mg/日を長期間使用していました。

ブデソニドはグルココルチコイドであり、自己免疫性肝炎の治療にも使用されることがあります。

したがって、

クローン病に対して投与されていたブデソニドが、同時に未診断のAIHを抑制していた可能性

が考えられました。

入院後、感染症治療のためブデソニドはいったん中断されました。

その後再開されましたが、薬剤確認の結果、本来9 mg/日であったところが誤って3 mg/日で再開されていたことが判明しました。

つまり、

感染症という大きな免疫学的ストレス

に加えて、

グルココルチコイドの一時中断と低用量での再開

が重なり、潜在していたAIHの顕在化・増悪に寄与した可能性があります。

ここは「ブデソニド中断がAIHを起こした」という単純な因果関係ではなく、

もともと存在していたAIHが、それまでブデソニドによって部分的に抑制されていた可能性がある

と理解するのが重要です。

8.プレドニゾロン+アザチオプリンでAIHを治療

AIHの診断後、ブデソニドからプレドニゾロン40 mg/日へ変更されました。

その後、肝酵素は速やかに低下しました。

退院1週間後からアザチオプリンが追加され、その後約1か月かけて100 mg/日まで増量されました。

一方、この患者には重症僧帽弁逆流に対する心臓手術も必要でした。

手術周術期におけるグルココルチコイド関連リスクを考慮し、プレドニゾロンは約2か月かけて慎重に漸減されました。

肝酵素正常化後にプレドニゾロンを中止し、その後、生体弁による僧帽弁置換術が施行されました。

手術は合併症なく終了しました。

さらに16か月後のフォローアップでも、肝酵素は正常範囲を維持していました。

9.この症例から学ぶ「一つの異常を一つの病気で説明しすぎない」重要性

この患者には、

  • 黄色ブドウ球菌菌血症
  • 感染性心内膜炎
  • 重症僧帽弁逆流
  • 脳梗塞
  • 感染性脳動脈瘤
  • 頭蓋内出血
  • 腎梗塞
  • 著明な肝障害

という多数の異常が同時に存在していました。

重症感染症があると、すべての検査異常を「敗血症の影響」と考えてしまいがちです。

しかしこの症例では、感染症が改善しても肝酵素が再上昇しました。

その「時間軸のズレ」こそが、もう一つの病気を探す重要な手がかりでした。

検査結果を一時点の数字として見るのではなく、治療前後の変化を時間軸で追うこと。

そして、

その変化と薬剤の中断・再開、基礎疾患、病理所見を一本の線でつなぐこと。

これが本症例の最大の学びと言えます。

クリニックからのメッセージ

当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医に加え、肝疾患を専門とする医師とも連携し、肝機能異常、自己免疫疾患、感染症など複数の臓器にまたがる問題を総合的に評価しています。

AST・ALT・γ-GTP・ALP・ビリルビンなどの肝機能異常は、脂肪肝や飲酒だけで起こるものではありません。

薬剤、感染症、自己免疫疾患、胆道疾患など、背景にさまざまな病態が隠れていることがあります。

特に、

  • 肝機能異常が繰り返す
  • 数値が徐々に悪化している
  • IgGなど免疫系の検査異常を伴う
  • 原因が分からない倦怠感や微熱が続く
  • 自己免疫疾患の既往がある

といった場合には、検査値を一時点の「点」としてではなく、時間軸を含めた「線」として評価することが重要です。

感染性心内膜炎と歯科・口腔管理について

感染性心内膜炎の予防では、日頃から良好な口腔衛生を保ち、必要な歯科治療を適切に受けることが重要です。

ただし、本症例の原因菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は典型的な口腔内細菌ではなく、本症例そのものを歯周病や口腔内細菌が原因であったと考えることはできません。

一方、感染性心内膜炎の既往がある方や人工弁を留置された方は、その後の感染性心内膜炎リスクが高い患者群です。

このような方が歯肉・歯根周囲を操作する侵襲的歯科処置を受ける場合には、病状や処置内容に応じて抗菌薬予防投与が推奨されることがあります。

当院では医科と歯科で同一電子カルテを共有しており、基礎疾患や内服薬、心血管疾患、免疫抑制治療などを確認しながら、安全な歯科診療につなげています。

日頃のセルフケアと定期的な歯科管理を基本に、全身状態に応じた医科歯科連携を行うことが重要です。

受診をご希望の方へ

👉 【医科】アレルギー・膠原病・リウマチ内科/総合内科/発熱外来/自己免疫疾患/肝機能異常/感染症/生活習慣病/各種血液・画像検査

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正式な引用文献

Bromfield BB, Hashemi N, Redston MS, Walker KH, Levy BD.
The Unusual Suspects.
N Engl J Med. 2026;394(21):2147-2154.
doi:10.1056/NEJMcps2506943

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【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

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