• 2026年9月9日

【NEJM2026】院内感染2015年から2023年で「38人に1人」へ減少|新たな課題NV-HAPと口腔ケアの重要性を専門医が解説

医療関連感染(HAI)の「勢力図」が変わり始めている

端的なサマリー:米国の大規模調査では、医療関連感染(HAI)は2015年より減少し、2023年には入院患者の約38人に1人となりました。一方、現在残っているHAIの約6割は、カテーテルや人工呼吸器などのデバイス・処置と直接関連しない感染です。なかでも注目されるのが、人工呼吸器を使用していない患者さんに発生する非人工呼吸器関連院内肺炎(NV-HAP)。その予防では、口腔ケア、嚥下機能の評価、早期離床などを組み合わせた包括的な対策が重要になっています。

病院における感染対策は、現代医療における最重要課題の一つです。

かつて米国のポイントプレバレンス調査では、任意の1日に医療関連感染(health care-associated infection:HAI)を有する患者さんは、

  • 2011年:25人に1人
  • 2015年:31人に1人

と報告されていました。

その後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって医療提供体制や感染対策が大きな影響を受け、一部の医療関連感染指標が悪化した時期もありました。

では、パンデミックを経た現在、病院内の感染症はどのように変化しているのでしょうか。

その問いに重要な答えを示したのが、2026年7月に『The New England Journal of Medicine(NEJM)』に掲載されたCDCなどによる全米病院ポイントプレバレンス調査です。

2023年、医療関連感染は「38人に1人」まで減少

今回の研究では、米国10カ所のEmerging Infections Program(EIP)拠点を通じて、218の急性期病院、13,653人の入院患者が調査されました。

2023年に少なくとも1つのHAIを有していた患者さんは、

355人/13,653人=2.6%

でした。

2015年には、

394人/12,299人=3.2%

だったため、HAIの有病割合は低下しています。

つまり2023年には、任意の1日に入院している患者さんの約

「38人に1人」

がHAIを有していた計算になります。

さらに、2015年と2023年の両方の調査に参加した151病院を比較すると、年齢、入院期間、中心静脈カテーテルや人工呼吸器などの患者背景を調整した後でも、2023年にHAIを有している割合は2015年より低く、

リスク比 0.73(95%信頼区間 0.63–0.85)

でした。

すなわち、調整後でも約27%低いという結果です。

一方、全米では2023年だけでも約51万8,000件のHAIが発生したと推計されています。

改善しているとはいえ、その疾病負担はいまだ非常に大きいことが分かります。

C. difficile感染症は0.54%から0.22%へ大きく減少

今回の調査で特に大きな変化を示したものの一つが、「Clostridioides difficile感染症(CDI)」です。

患者全体に占めるCDIの割合は、

2015年:0.54%
2023年:0.22%

へ低下しました。

相対的には約59%の減少です。

C. difficileは抗菌薬使用などによって腸内細菌叢のバランスが崩れた際に増殖し、下痢や大腸炎を引き起こすことがある細菌です。

今回のNEJM論文では、この減少の背景として、NAATと毒素EIAを組み合わせる2段階検査法の利用拡大や、サーベイランス方法の変化などが考察されています。

加えて、抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship)や感染対策の改善も、長期的なCDI減少に重要な役割を果たしてきたと考えられます。

したがって、「一つの対策だけでCDIが半減した」というより、診断方法・抗菌薬使用・感染管理の改善が積み重なった結果として理解するのが適切です。

本当に注目すべき変化――HAIの約6割は「デバイス非関連」

今回の研究で非常に重要なのが、医療関連感染の「中身」です。

2023年に確認された390件のHAIのうち、

61.3%は、デバイスや医療処置に関連しない感染

でした。

2015年も60.2%であり、この構造はほとんど変化していません。

これまで病院感染対策では、

  • 中心静脈カテーテル関連血流感染(CLABSI)
  • カテーテル関連尿路感染(CAUTI)
  • 人工呼吸器関連肺炎(VAP)

など、特定のデバイスと関連する感染症に大きな注意が向けられてきました。

もちろん、これらの感染対策は今後も非常に重要です。

しかし今回の結果は、デバイス関連感染を減らすだけでは、現在残っているHAI全体を十分に減らせないことを示しています。

最も多かったHAIは「肺炎」

2023年の調査で最も多かったHAIの一つが肺炎(pneumonia)です。

さらに重要なのは、その肺炎の

65.7%が人工呼吸器を使用していない患者さんに発生していた

ことです。

これは、

非人工呼吸器関連院内肺炎
Non-ventilator hospital-acquired pneumonia:NV-HAP

と呼ばれる重要な病態です。

人工呼吸器を使用していない一般病棟の患者さんにも発生するため、対象となる患者数は非常に多くなります。

つまり、これからの院内感染対策では、

「人工呼吸器をつけている患者さんだけを肺炎から守ればよい」わけではない

ということです。

なぜ人工呼吸器がなくても肺炎になるのか

NV-HAPの発症には複数の要因が関係します。

特に重要なのが、

口腔・咽頭に存在する微生物を含む分泌物の微小誤嚥

です。

健康な人でも睡眠中などに少量の分泌物を誤嚥することはあります。

通常であれば、咳反射、嚥下反射、線毛運動、局所免疫などによって肺炎の発症は防がれています。

しかし入院中は、

  • 高齢
  • 全身状態の低下
  • 嚥下機能低下
  • 長期臥床
  • 鎮静薬などの使用
  • 口腔衛生状態の悪化
  • 重症疾患
  • 免疫抑制状態

などが重なることがあります。

すると、口腔・咽頭の微生物を含む分泌物が気道へ侵入し、肺炎発症につながる可能性が高まります。

そこで注目されているのが、口腔ケアを含む包括的なNV-HAP予防策です。

「口腔ケアだけ」ではない――31%減少した5項目のNV-HAP予防バンドル

ここで非常に重要な点があります。

NV-HAPを31%減少させたという数字は、今回のNEJM調査そのものの介入結果ではありません。

この数字は、スイスのチューリヒ大学病院で行われた別の研究から得られたものです。

同病院では、9つの内科・外科診療部門において、次の5項目からなるNV-HAP予防バンドルが導入されました。

  1. 口腔ケア
  2. 嚥下障害のスクリーニングと管理
  3. 早期離床・身体活動
  4. 適応のないプロトンポンプ阻害薬(PPI)の中止
  5. 呼吸療法

この包括的な介入によって、NV-HAP発生率が31%低下しました。

つまり、

「口腔ケアをすれば肺炎が31%減る」

という意味ではありません。

口腔ケアを重要な柱の一つとして、嚥下・離床・薬剤・呼吸管理まで含めて患者さん全体を評価することが重要なのです。

なぜ口腔ケアが肺炎予防の一角を担うのか

歯や歯周ポケット、舌、粘膜などには、多数の微生物が存在しています。

特に歯の表面には、細菌が集団を形成したバイオフィルム(歯垢・プラーク)が形成されます。

入院、食事摂取量の低下、セルフケア能力の低下、口腔乾燥などによって口腔環境が悪化すると、病原性を持つ微生物が増加しやすくなる可能性があります。

そこへ嚥下機能の低下が加われば、微生物を含む唾液や分泌物が気道へ入り、肺炎につながる可能性があります。

したがって、

「気道へ入る微生物量をできるだけ減らす」

という意味で、適切な口腔衛生管理は肺炎予防戦略の一つとして重要です。

ただし、NV-HAPは多因子疾患です。

そのため、口腔ケアだけですべての肺炎を防げるわけではなく、嚥下評価、離床、全身状態の管理などと組み合わせることが重要です。

今回のNEJM論文が教えてくれること

今回の研究から見えてくるのは、単純に

「院内感染が減った」

という事実だけではありません。

医療関連感染対策そのものが、次の段階へ移りつつあることが重要です。

これまで大きな成果を上げてきたCLABSI、CAUTIなどのデバイス関連感染対策を継続しながら、今後は、

  • NV-HAP
  • 手術部位感染
  • デバイスと直接関連しない感染症

などにも対策の対象を広げていく必要があります。

そしてNV-HAP対策では、

「肺だけを見る」のではなく、口腔・嚥下・身体活動・薬剤・呼吸機能を一体として考える

ことが重要になります。

これはまさに、全身を臓器ごとに分断するのではなく、「体の仕組み」という一本の線で考える医療の重要性を示しているといえるでしょう。

クリニックからのメッセージ

当院では、総合内科専門医・リウマチ専門医、肝臓専門医が在籍し、症状や検査結果を単独の「点」としてではなく、全身の病態を「線」として捉える診療を大切にしています。

また、同一施設内に医科と歯科があり、必要に応じて全身状態と口腔内の状態を相互に共有できることも当院の特徴です。

特に、

  • ステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤を使用している方
  • 高齢でむせやすくなってきた方
  • 口腔乾燥が強い方
  • 歯周病や口腔衛生状態が気になる方
  • 全身疾患と歯科治療を一緒に考えたい方

では、全身状態と口腔環境の両方に目を向けることが重要です。

なお、今回紹介した「NV-HAPを31%減少させた」というエビデンスは入院患者を対象とした複数の予防策を組み合わせた研究であり、外来でPMTCを受けるだけで同じ効果が得られることを示したものではありません。

一方で、適切な口腔衛生管理は、お口の健康を維持し、口腔内の微生物負荷を適切に管理するうえで重要です。

当院では、医科と歯科が連携しながら、お体とお口の両面から長期的な健康管理を支えてまいります。

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まとめ

2026年のNEJMに発表されたCDCなどによる全米調査では、医療関連感染を有する入院患者は、

2015年の31人に1人から、2023年には38人に1人へ減少

していました。

これは大きな進歩です。

しかし同時に、

HAIの61.3%はデバイスや処置に関連せず、肺炎の65.7%は人工呼吸器を使用していない患者さんに発生していました。

これからの感染対策では、カテーテルや人工呼吸器だけでなく、

口腔ケア・嚥下機能・離床・薬剤管理・呼吸管理

まで含めて患者さん全体を見ることが重要になります。

口と肺、そして全身は独立した存在ではありません。

「口腔から全身へ」という視点を含め、医科と歯科がそれぞれの専門性を生かして連携することは、これからの高齢化社会・免疫抑制治療時代にますます重要になると考えられます。

参考文献

  1. Chea N, Li R, Eure T, et al. Health Care–Associated Infections in U.S. Hospitals, 2023 versus 2015. N Engl J Med. 2026;395:255-266. doi:10.1056/NEJMoa2510881.
  2. Wolfensberger A, Clack L, von Felten S, et al. Prevention of non-ventilator-associated hospital-acquired pneumonia in Switzerland: a type 2 hybrid effectiveness–implementation trial. Lancet Infect Dis. 2023;23:836-846.
  3. Wolfensberger A, Faes Hesse M, Sax H, Clack L. From plan to practice: a structured report on implementation strategies for preventing non-ventilator hospital-acquired pneumonia (nvHAP). Infect Control Hosp Epidemiol. 2026;47:448-456.

【執筆・監修医師プロフィール】

■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科・内科リウマチクリニック 医師。
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医。

■ 福田 涼子(ふくた りょうこ)
日本大学松戸歯学部歯内療法学講座兼任講師。
日本歯内療法学会専門医、日本歯科保存学会認定医。

■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

全国の患者様やご家族に向けて、関節リウマチ・膠原病・総合内科・消化器・歯科疾患を中心に全身に関する最新の医学論文や正しい知識を分かりやすく解説・発信しています。

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