• 2026年10月27日

失神の原因と診断・治療|高齢者の転倒に潜む心疾患と起立性低血圧【NEJM 2026】

失神(Syncope)は、一時的に脳への血流が不足することで意識を失い、通常は短時間で自然に回復する状態です。

長時間立っていたときに起こる比較的良性の失神もあれば、重篤な不整脈や心疾患が原因となり、突然死につながる可能性のある失神も存在します。

特に高齢者では、失神したことを本人が覚えておらず、「原因不明の転倒」として発見される場合があります。

2026年8月、医学誌 New England Journal of Medicine(NEJM) に、失神の診断と治療を体系的に整理したClinical Practiceレビューが掲載されました。

本記事では、この論文をもとに、失神の病態、診断方法、危険な徴候、治療選択について、患者さんにも理解しやすい形で解説します。

1.失神とは何か?一時的な脳血流低下による意識消失

失神とは、一過性の脳全体の血流低下によって生じる意識消失です。

一般的には以下の特徴を示します。

  • 突然意識を失う
  • 姿勢を保持できなくなり、倒れることがある
  • 意識消失の持続時間は通常1分未満
  • 多くの場合、特別な処置を必要とせず自然に意識が回復する
  • 回復後は比較的速やかに元の意識状態に戻る

ただし、これらの特徴だけですべての失神を診断できるわけではありません。

失神の原因は、大きく3つに分類されます。

分類主な病態代表的な原因
反射性失神自律神経反射による血圧低下・徐脈血管迷走神経性失神、排尿失神、頸動脈洞症候群
起立性低血圧による失神起立時などの血圧維持障害脱水、薬剤、自律神経障害
心原性失神不整脈や心拍出量の低下房室ブロック、心室頻拍、大動脈弁狭窄症など

この分類は、診断だけでなく、その後の治療方針を決定するうえでも重要です。

反射性失神、起立性低血圧、心原性失神における脳血流低下の仕組みを比較した医学的模式図。

図1:失神の主要な病態を示す模式図。反射性失神では自律神経反射による血管拡張や徐脈、起立性低血圧では起立に伴う血圧維持障害、心原性失神では不整脈または器質的心疾患による心拍出量低下が、一過性の脳血流低下を引き起こす。

2.失神はどのくらい多い病気なのか?

失神は決して珍しい症状ではありません。

NEJMの総説では、一般人口の約3分の1〜半数が、生涯に一度は失神を経験するとされていました。

失神の原因には年齢による違いがあります。

若年者では血管迷走神経性失神を中心とした反射性失神が多くを占めます。

一方、高齢者では起立性低血圧、徐脈性不整脈、器質的心疾患などが増加します。

特に注目したいのは、失神を繰り返す患者さんの予後です。

今回引用されていた観察研究では、再発性失神は非再発性失神と比較して、24か月間の追跡で以下のリスク上昇と関連していました。

  • 死亡:ハザード比1.87(95%信頼区間1.26〜2.77)
  • 主要心血管イベント:ハザード比2.69(95%信頼区間2.02〜3.59)

ただし、これは観察研究における関連であり、失神の再発自体が死亡や心血管イベントを直接引き起こすことを証明した結果ではありません。

背景に存在する心疾患や併存疾患の影響も考慮する必要があります。

また、すべての失神患者さんが同じリスクを持つわけではありません。

失神の回数だけでなく、失神に至った原因と患者さんの背景を評価することが重要です。

3.反射性失神:最も一般的な失神の原因

反射性失神(Reflex syncope)は、自律神経による循環調節が一時的に過剰に働くことで生じます。

通常、立ち上がったときや緊張したときには、血管収縮や心拍数の調節によって血圧が維持されます。

しかし、反射性失神では血管拡張や徐脈が生じ、脳への血流が一時的に不足します。

3-1.血管迷走神経性失神

血管迷走神経性失神(Vasovagal syncope)は、反射性失神の代表的な病型です。

代表的な誘因には以下があります。

  • 長時間の立位
  • 暑い場所や混雑した環境
  • 強い痛み
  • 採血や注射
  • 精神的な緊張
  • 不快な光景や感情的ストレス

失神前には、冷や汗、吐き気、顔面蒼白、めまい、視野の暗転などを自覚することがあります。

前兆がある場合は、速やかに横になることで転倒による外傷を防げる可能性があります。

一方、前兆のない失神では、突然転倒して骨折や頭部外傷を生じる危険があります。

3-2.状況失神

特定の動作や状況をきっかけとして生じる失神です。

代表例として、排尿、排便、咳嗽、嚥下に伴う失神が挙げられます。

例えば、夜間に起きて排尿している最中、あるいは排尿直後に意識を失う場合には、排尿失神を考慮します。

ただし、排尿時に起きたという情報だけで反射性失神と確定できるわけではありません。

心原性失神や起立性低血圧が重なっている可能性も評価する必要があります。

3-3.頸動脈洞症候群

頸動脈洞症候群(Carotid sinus syndrome)は、頸部への刺激に対する過剰な循環反射によって失神を生じる疾患です。

首を回す動作、髭剃り、きつい襟などが誘因となる場合があります。

主に高齢者でみられ、原因不明の転倒との関連も重要です。

頸動脈洞マッサージでは、刺激によって3秒以上の心停止、あるいは収縮期血圧50mmHg以上の低下を認める場合、頸動脈洞過敏症が示唆されます。

ただし、頸動脈洞過敏症と、失神の原因としての頸動脈洞症候群は同義ではありません。

頸動脈洞症候群の診断には、臨床症状との関連や症状の再現性などを含めた評価が必要です。

また、頸動脈洞マッサージは適応と禁忌を確認したうえで、心電図・血圧監視下に医療機関で実施する検査であり、自宅で行うものではありません。

4.起立性低血圧:立ち上がったときに血圧が下がる

起立性低血圧(Orthostatic hypotension)は、立ち上がることで血圧が過度に低下する状態です。

通常、起立時には下肢や腹部の静脈に血液が移動します。

これに対して、自律神経は血管収縮や心拍数の変化によって血圧を維持します。

この代償機構が十分に働かないと、脳血流が低下してめまいや失神を生じます。

4-1.起立性低血圧の診断基準

古典的起立性低血圧では、起立後3分以内に持続的な血圧低下を認めます。

  • 収縮期血圧:20mmHg以上の低下
  • または拡張期血圧:10mmHg以上の低下

臥位高血圧がある場合には、収縮期血圧30mmHg以上の低下が診断基準として用いられます。

起立性低血圧には複数の病型があります。

病型血圧低下のタイミング特徴
初期起立性低血圧起立後15秒以内急激で一過性の低下。連続血圧測定が診断に有用
古典的起立性低血圧起立後3分以内持続的な血圧低下
遅延性起立性低血圧起立後3分を超えてから長時間の立位で顕在化することがある

起立直後だけでなく、数分間立ってから症状が出現する場合もある点が重要です。

起立直後、3分以内、3分を超えた時点で生じる起立性低血圧の違いを示す血圧推移グラフ。

図2:起立後の血圧変化を示す模式的な時間経過図。初期起立性低血圧、古典的起立性低血圧、遅延性起立性低血圧を比較する。曲線は病態を説明するための概念図であり、実測患者データではない。

4-2.食後低血圧

食後低血圧(Postprandial hypotension)は、食事後に血圧が低下する状態です。

一般に、食後2時間以内の収縮期血圧20mmHg以上の低下が診断の目安となります。

食後は消化管への血流が増加しますが、血圧維持のための代償機構が十分に機能しない場合に血圧が低下します。

特に高齢者では、食事後に立ち上がった際の失神や転倒に注意が必要です。

食後低血圧と起立性低血圧は併存することがあります。

4-3.薬剤性低血圧

失神の評価では、服用している薬剤の確認が欠かせません。

特に以下の薬剤には注意が必要です。

  • 降圧薬
  • 利尿薬
  • 抗狭心症薬
  • 抗うつ薬などの向精神薬
  • 抗コリン作用を持つ薬剤
  • オピオイド

これらの薬剤は、薬理作用や患者さんの状態によって、低血圧、ふらつき、転倒などに関与する場合があります。

新しい薬剤を開始した直後や、用量を増量した後に失神が生じた場合には、時間的な関連を確認します。

ただし、薬剤が疑われても自己判断で中止することは避け、心血管リスクと失神リスクを比較しながら調整します。

5.心原性失神:最も見逃してはいけない病態

心原性失神(Cardiac syncope)は、不整脈や器質的心疾患によって心拍出量が急激に低下し、脳血流が不足することで発生します。

失神診療では、まず生命に関わる心原性失神の可能性を評価する必要があります。

代表的な原因には以下があります。

徐脈性不整脈

頻脈性不整脈

器質的心疾患・心肺血管疾患

これらの病態では、意識消失が突然起こり、明確な前兆を伴わない場合があります。

心原性失神を疑う危険徴候

以下のような特徴がある場合には、心原性失神を強く疑います。

  • 運動中に失神した
  • 横になっているときに失神した
  • 失神直前に突然の動悸や胸痛を自覚した
  • 明らかな前兆なしに意識を失った
  • 心筋梗塞や心不全などの既往がある
  • 家族に若年での突然死の既往がある
  • 心電図で高度な伝導障害や不整脈を認める

これらは診断を確定する所見ではありませんが、迅速な評価を必要とする重要な情報です。

失神後に意識が回復していても、重篤な不整脈の可能性が否定できるわけではありません。

運動中の失神、突然の動悸、心疾患の既往、危険な心電図所見など、心原性失神を疑う徴候の一覧。

図3:心原性失神の可能性を高める臨床的特徴と代表的な心電図異常を整理した図。危険徴候の存在は精密評価の必要性を示すが、それぞれ単独で心原性失神を確定するものではない。

6.失神とてんかんはどのように区別するのか?

失神とてんかん発作は、いずれも一時的な意識消失を生じるため、鑑別が必要です。

一般的には、失神では意識消失の持続時間が短く、速やかに回復する傾向があります。

一方、てんかん発作では、発作後に長い意識混濁や見当識障害が続く場合があります。

ただし、両者の鑑別は必ずしも容易ではありません。

尿失禁があっても、てんかんとは限らない

今回のNEJMレビューで特に重要なのが、尿失禁の位置づけです。

尿失禁はてんかん発作に伴うことがありますが、失神でも認められます。

失神の10〜20%程度に尿失禁がみられることがあるとされています。

そのため、尿失禁を認めたという理由だけで、てんかん発作と診断することはできません。

また、失神でも短時間のけいれん様運動が生じることがあります。

鑑別には以下の情報が有用です。

評価項目失神で典型的な特徴てんかん発作を示唆する特徴
誘因長時間立位、痛み、排尿など明確な循環性の誘因がないことも多い
意識消失通常短時間比較的長い場合がある
回復比較的速やか発作後の混乱が持続することがある
けいれん様運動短時間生じることがある持続的・律動的な運動がみられることがある
舌咬傷生じることはある特に舌側縁の咬傷が参考になる
尿失禁生じることがある生じることがある

いずれの所見も単独で確定診断できるものではなく、目撃情報や発作後の経過を含めて総合的に判断します。

7.失神の初期診断:最も重要なのは問診・血圧測定・心電図

失神診療では、すべての患者さんに一律の精密検査を行うわけではありません。

今回のNEJMレビューでは、以下の初期評価が重視されています。

  1. 詳細な病歴聴取
  2. 目撃者からの情報収集
  3. 身体診察
  4. 臥位・立位での血圧測定
  5. 12誘導心電図

問診では、単に「失神した」という情報だけでなく、意識を失う前後の状況を詳細に確認します。

失神の診断で確認したい事項

  • 失神時に立っていたか、座っていたか、横になっていたか
  • 運動中だったか
  • 食事や排尿との関連があるか
  • めまいや冷や汗などの前兆があったか
  • 動悸や胸痛を伴ったか
  • 意識消失がどのくらい続いたか
  • 回復後に混乱が続いたか
  • 頭部外傷や骨折を伴ったか
  • 同様の発作を繰り返しているか
  • 服用薬剤に変更があったか

初期評価から原因が推定できる場合には、その病態に応じた治療を検討します。

一方、原因が不明な場合には、心原性失神のリスクと外傷リスクを評価し、必要な追加検査を選択します。

追加検査の選択

検査主な目的
心エコー器質的心疾患の評価
ホルター心電図・長時間心電図発作性不整脈の検出
植込み型心臓モニター発作頻度が低い原因不明の失神の評価
ヘッドアップティルト試験反射性失神や起立性循環調節障害の評価
24時間自由行動下血圧測定日中・夜間・食後などの血圧変動の確認
頸動脈洞マッサージ頸動脈洞症候群が疑われる場合の評価

血液検査や画像検査も、疑われる病態に応じて追加します。

例えば、出血が疑われる場合には血算、急性冠症候群が疑われる場合には心筋トロポニン、肺塞栓症が疑われる場合には臨床的事前確率に応じた検査を検討します。

失神の原因検索として、すべての患者さんに頭部CTや脳波検査を行うことは通常推奨されません。

ただし、頭部外傷、局所神経症状、てんかんを疑う所見などがある場合には、それぞれの適応に従って検査します。

失神患者の初期評価から心原性失神の危険性判定、追加検査、治療へ進む診断フローチャート。

図4:失神が疑われる患者における初期評価とリスク層別化の流れ。病歴、目撃情報、身体診察、起立時血圧、12誘導心電図の結果をもとに、追加検査および管理方針を選択する。2017年ACC/AHA/HRSガイドラインおよび2018年ESCガイドラインの考え方を参考に再構成した。

8.高齢者の原因不明の転倒には失神が隠れている

今回のNEJMレビューで、臨床的に特に重要なポイントの一つが、高齢者の転倒と失神の関係です。

高齢者では、失神によって転倒したにもかかわらず、本人が意識消失を記憶していない場合があります。

そのため、「つまずいた」「気づいたら倒れていた」という訴えの背景に、心血管系の問題が隠れている可能性があります。

総説では、高齢者の転倒による救急受診のうち、20〜30%程度が原因不明の転倒であると紹介されています。

この数字は、すべてが失神に起因することを意味するものではありません。

しかし、原因不明の転倒に失神が含まれる可能性を示す重要な知見です。

高齢者では複数の原因が重なる

高齢者では、以下のような要因が同時に存在することがあります。

  • 起立性低血圧
  • 食後低血圧
  • 徐脈性不整脈
  • 頸動脈洞症候群
  • 降圧薬や向精神薬による影響
  • 脱水や栄養状態の悪化

複数の失神機序が重なる状態は、Complex syncope(複合性失神)と呼ばれます。

一つの検査で異常が見つかったからといって、ほかの原因が存在しないとは限りません。

例えば、起立性低血圧を認めた患者さんに、同時に房室ブロックが存在する場合も考えられます。

そのため、高齢者の再発性失神や原因不明の転倒では、多因子的な評価が重要になります。

また、骨粗鬆症を有する高齢者では、転倒による骨折が生活機能の低下につながるため、失神の再発予防と外傷予防を一体として考える必要があります。

9.失神の治療:原因ではなく循環動態の異常に着目する

失神の治療では、診断された病名だけでなく、実際にどのような循環動態の異常が意識消失を引き起こしたのかを考えます。

主な治療標的は以下の3つです。

  • 血圧低下
  • 徐脈
  • 頻脈

9-1.反射性失神・起立性低血圧の治療

基本となるのは、誘因への対策と生活指導です。

  • 十分な水分摂取
  • 病状に応じた塩分摂取の調整
  • 急な起立を避ける
  • 長時間の立位や暑熱環境を避ける
  • 前兆がある場合には速やかに座る、または横になる
  • 失神に関与する可能性のある薬剤を見直す

心不全、腎機能障害、臥位高血圧などがある場合には、水分・塩分摂取の増加が適さないこともあります。

患者さんの併存疾患を考慮した個別の対応が必要です。

9-2.薬物療法

生活指導や薬剤調整だけでは十分に改善しない場合、病態に応じて薬物療法を検討します。

神経原性起立性低血圧に対しては、ミドドリンやドロキシドパなどが治療選択肢となります。

ただし、臥位高血圧などの副作用に注意が必要です。

また、フルドロコルチゾンは循環血液量の増加を目的として使用されることがありますが、その有効性を支持するエビデンスには限界があります。

今回の総説が引用した血管迷走神経性失神に対するランダム化比較試験では、フルドロコルチゾン群における失神再発のハザード比は0.69(95%信頼区間0.46〜1.03、P=0.07)でした。

主要解析では統計学的有意差が認められておらず、確実な再発予防効果が証明されたとはいえません。

なお、起立性低血圧の各治療薬は、適応疾患、国内での承認状況、患者背景を確認して選択する必要があります。

9-3.ペースメーカー治療

徐脈性不整脈が失神の原因である場合には、ペースメーカー治療が有効となることがあります。

特に、高度房室ブロックなどによる症候性徐脈では重要な治療選択肢です。

今回の総説では、徐脈が記録された再発性反射性失神患者を対象としたランダム化試験のメタ解析において、ペースメーカー治療により失神再発リスクが50%以上低下したと紹介されています。

ただし、この結果をすべての血管迷走神経性失神患者に適用することはできません。

ペースメーカーの効果は、失神に徐脈や心停止がどの程度関与しているかに左右されます。

また、ペースメーカーによって徐脈を防いでも、血管拡張による血圧低下が残る場合には失神が再発する可能性があります。

したがって、失神発作と徐脈・心停止との関連を客観的に評価し、患者背景や症状の重症度を踏まえて適応を判断することが重要です。

9-4.Cardioneuroablation:新しい治療の可能性

近年、反射性失神の治療としてCardioneuroablation(心臓自律神経節アブレーション)が研究されています。

これは、心臓周囲の自律神経節に対してカテーテルアブレーションを行い、過剰な迷走神経作用を軽減することを目的とした治療です。

徐脈が主体となる反射性失神に対して、一定の有効性が報告されています。

しかし、研究対象は選択された患者群であり、長期的な有効性、安全性、標準治療との比較については、さらに検証が必要です。

現時点では、すべての反射性失神患者に対する確立した標準治療とは位置づけられません。

10.外来経過観察か、入院精査か

失神した患者さんの全員に入院が必要なわけではありません。

一方、危険な心疾患が疑われる場合には、速やかな救急評価や入院管理が必要です。

外来での評価・管理を検討できる場合

  • 典型的な反射性失神が疑われる
  • 危険な心疾患を示唆する所見がない
  • 重篤な外傷を伴わない
  • 初期評価で低リスクと判断される

救急評価・入院管理を検討すべき場合

  • 心原性失神が強く疑われる
  • 危険な心電図異常がある
  • 運動中や臥位で失神した
  • 重篤な外傷を伴う
  • 胸痛、呼吸困難、持続する動悸などを伴う
  • 急性冠症候群、肺塞栓症、大動脈解離などが疑われる

原因が明らかではない中間リスクの患者さんに対しては、救急外来で一定時間の心電図監視を行う観察管理も選択肢となります。

NEJMレビューでは、構造化された6〜12時間程度の救急観察プロトコールについて、不要な入院を減らせる可能性が紹介されています。

ただし、帰宅可能かどうかは、失神の原因、心血管リスク、外傷、再発リスク、家庭環境などを考慮して判断します。

11.NEJMの症例から考える失神診療

今回の論文では、75歳男性の症例が提示されています。

患者さんは犬の散歩中に原因不明の転倒を起こし、頬骨骨折を生じて救急外来を受診しました。

転倒時の記憶はなく、尿失禁を伴っていました。

過去6か月間にも転倒や一過性意識消失を繰り返しており、食後に立ち上がったとき、長時間座った後、夜間の排尿時などに症状が起きていました。

この症例では、複数の病態が鑑別に挙がります。

  • 起立性低血圧
  • 食後低血圧
  • 排尿に伴う状況失神
  • 頸動脈洞症候群
  • 徐脈性不整脈

加えて、高齢男性で突然の転倒を繰り返し、外傷も伴っているため、危険な心原性失神の評価が必要です。

著者は、外傷の治療と緊急性の高い原因の除外を並行して行い、救急観察下で心電図、心エコー、起立時血圧測定などを実施する方針を提案しています。

さらに、起立時の症候性低血圧を認め、頸動脈洞マッサージによって意識消失を伴う心停止が再現される場合には、頸動脈洞症候群に対するペースメーカー治療を検討するという臨床的判断が示されています。

ただし、これは論文で提示された仮定を含む診療方針であり、この症例で実際に検査結果が確定し、ペースメーカー植込みが行われたという報告ではありません。

この症例から学べる重要な点は、高齢者の原因不明の転倒を、単なる加齢や筋力低下によるものと決めつけないことです。

12.今回のNEJMレビューから得られる臨床的示唆

今回の総説を日常診療に応用するうえで、特に重要な点は以下の5つです。

① 失神診療は心原性失神のリスク評価から始める

典型的な反射性失神と思われる場合でも、危険な心疾患の可能性を確認する必要があります。

② 起立時血圧測定は基本的な検査である

高齢者の失神や転倒では、臥位・立位の血圧評価が重要です。

通常の座位血圧だけでは、起立性低血圧を見逃す可能性があります。

③ 高齢者では複数の病態が併存する

起立性低血圧と徐脈性不整脈など、異なる失神機序が重なることがあります。

④ 治療は低血圧・徐脈・頻脈という機序に合わせて選択する

同じ「失神」という症状でも、必要な治療は患者さんごとに異なります。

⑤ 失神の再発だけでなく、外傷を防ぐことが重要である

特に高齢者では、転倒に伴う頭部外傷や骨折が生活機能に重大な影響を及ぼします。

低血圧への生活指導・薬剤調整、徐脈へのペースメーカー、頻脈性不整脈への原因別治療を示す模式図。

図5:失神の主要な循環動態異常である血圧低下、徐脈、頻脈に応じた治療戦略を示す模式図。治療選択には失神機序の確認と患者背景の評価が必要であり、すべての治療が全患者に適応されるものではない。

13.本論文のエビデンスと限界

今回のNEJM論文は、失神診療に関する観察研究、ランダム化比較試験、システマティックレビュー、診療ガイドラインなどを統合した臨床実践レビューです。

特定の介入について新たなランダム化比較試験を行ったものではありません。

そのため、本文に記載されたリスク比や治療効果は、それぞれ異なる研究集団・研究デザインから得られた結果です。

また、以下の点には注意が必要です。

  • 高齢者の失神・転倒では複数の機序が重なり、単一の原因を確定できない場合がある
  • 失神再発と死亡・心血管イベントの関連は、そのまま因果関係を意味しない
  • ペースメーカー治療の有効性は、適切に選択された患者集団における結果である
  • 起立性低血圧に対する一部の薬物療法では、長期予後を改善する確実なエビデンスが不足している
  • Cardioneuroablationなどの新規治療は、長期的な有効性と安全性についてさらなる検証が必要である

さらに、著者が提示する診療方針は、欧州心臓病学会(ESC)の失神診療ガイドラインに比較的近い立場で整理されています。

米国のACC/AHA/HRSガイドラインとは、専門的な失神診療ユニットの位置づけや植込み型心臓モニターの導入時期などに違いがあります。

したがって、本総説の提案を日本の診療環境に適用する際には、国内での検査体制や治療適応も考慮する必要があります。

14.まとめ:失神は「一時的に意識を失った」だけで終わらせない

失神は一般的な症状ですが、その背景には良性の自律神経反射から重篤な心疾患まで、幅広い原因が存在します。

今回のNEJMレビューは、詳細な病歴聴取、起立時血圧測定、12誘導心電図、リスク評価を組み合わせることの重要性を改めて示しています。

特に、高齢者の原因不明の転倒では、失神が隠れている可能性を考える必要があります。

また、失神を繰り返す患者さんでは、原因を一つに限定せず、起立性低血圧、不整脈、薬剤、併存疾患などを総合的に評価することが重要です。

失神診療の目的は、単に意識消失の原因を診断することだけではありません。

危険な心疾患を見逃さず、再発を防ぎ、転倒や骨折による生活機能の低下を予防することが、失神診療の重要な目標です。

15.柏市・我孫子市周辺で失神・ふらつき・原因不明の転倒が気になる方へ

失神や繰り返すふらつきの背景には、起立性低血圧、薬剤の影響、不整脈など、さまざまな原因が考えられます。

柏五味歯科・内科リウマチクリニックでは、総合内科専門医による問診、血圧測定、心電図検査、服用薬剤の確認などを通じて、原因の初期評価を行っています。

必要に応じて循環器専門医療機関と連携し、精密検査をご案内します。

繰り返すふらつきや原因不明の転倒については、お気軽にご相談ください。

内科のWEB予約はこちら

※突然の失神に胸痛、呼吸困難、持続する意識障害、重大な外傷などを伴う場合は、通常の外来予約を待たずに救急医療機関を受診してください。

16.あわせて読みたい関連記事

① 高齢者の「転倒」に潜む危険な不整脈:2束・3束ブロックの見極めと失神リスク

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今回のNEJM総説で取り上げた「高齢者の転倒と心原性失神」を、より専門的に理解するために役立ちます。

高齢者の「転倒」に潜む危険な不整脈:2束・3束ブロックの見極めと失神リスク

② 失神の原因を見逃さない!「房室ブロック」とペースメーカー治療

突然の意識消失を引き起こす代表的な徐脈性不整脈が房室ブロックです。

この記事では、房室ブロックの病態、心電図診断、ペースメーカー治療を検討する際の考え方について解説しています。

今回の総説における「徐脈が原因の失神に対する治療」を具体的に理解するための関連記事です。

失神の原因を見逃さない!「房室ブロック」とペースメーカー治療

③ 失神発作を招く危険な不整脈「トルサデポアン(TdP)」とは?

QT延長に関連する多形性心室頻拍であるTorsades de pointes(TdP)は、突然の失神や心停止の原因となる重要な不整脈です。

薬剤性QT延長、電解質異常、徐脈などの危険因子と、心電図評価・薬剤管理について詳しく解説しています。

心原性失神のうち、特に頻脈性不整脈による失神を理解するために役立ちます。

失神発作を招く危険な不整脈「トルサデポアン(TdP)」とは?

6.一次文献・出典

中心論文

Kenny RA. Syncope. N Engl J Med. 2026;395:582–591.

DOI: 10.1056/NEJMcp2517255

主要な関連文献

1. Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al. 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Eur Heart J. 2018;39:1883–1948.

2. Shen WK, Sheldon RS, Benditt DG, et al. 2017 ACC/AHA/HRS Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope. Circulation. 2017;136:e60–e122.

3. Sheldon R, Raj SR, Rose MS, et al. Fludrocortisone for the Prevention of Vasovagal Syncope: A Randomized, Placebo-Controlled Trial. J Am Coll Cardiol. 2016;68:1–9.

4. Bhangu J, King-Kallimanis BL, Donoghue OA, Carroll L, Kenny RA. Falls, Non-Accidental Falls and Syncope in Community-Dwelling Adults Aged 50 Years and Older. PLoS One. 2017;12:e0180997.

【本記事の執筆・医学監修】
■ 福田 匡志(ふくた まさし)
成田赤十字病院 リウマチ膠原病内科部長 / 柏五味歯科内科リウマチクリニック 医師
日本内科学会認定 総合内科専門医、日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医
👉 福田匡志医師の詳しい経歴・専門資格はこちら

【クリニック共同監修体制】
■ 春原 優子(はるはら ゆうこ)(総合内科専門医・消化器病専門医)
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